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106、新しい生活

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 ベッドでうつ伏せになり、2人並んで天馬のノートパソコンを見ていた。
 画面には各種ベッドの画像。

「やっぱりダブルかクイーンサイズは必要だよな」
「ええっ?! シングルじゃないの? だって2人の寝室にキングサイズベッドがあるじゃない」

「いやいやいや……確かに楓花の部屋に置くベッドは楓花用だし、楓花が1人でのんびりしたい時や風邪を引いた時に避難して休む用の予備だ。だけども、俺が寝込みを襲った場合を考えて、広さがあった方がいいだろう?」

「ええっ?!風邪の寝込みを襲う前提?!」

「えっ、そりゃあ襲うだろ。頬を紅潮させてグッタリしてる楓花を見たら絶対に襲いたくなるだろうし、熱く火照った身体を抱いて熱を貰ってやりたいじゃん」

 もちろん医師として、熱のピークの時には我慢するけどさ……と言われ、そりゃあ当然だろっ!と心の中で突っ込んだ。

ーーだったら最初から私用のベッドなんて必要ないんじゃ……。

 そう思ったけれど、天馬がニコニコしながら自分の物を買うかのように熱心に見てるから、好きなようにさせておくことにした。


「おっ、金森さんからメールが来たぞ」

 ピコンと音がして、メールのアイコンが新しいメールの到着を知らせている。
 天馬がそこをクリックすると、『託児室』の勤務表が添付された金森さんからのメールが届いていた。

『本日はお手伝いいただきありがとうございました。『託児室』の勤務表を添付致しましたので、ご参照下さい。楓花先生には、そのうち児童の人数が多く、手が掛かりそうな日に入って頂けると助かります。まずは楓花先生には補助という形で入って頂いて、慣れてきたら1人でも受け持つようにして行こうと思っております。
 楓花先生の初日には他の2名も挨拶に伺いますので、よろしくお願い申し上げます』


「おっ、とうとう来たな」
「来たね」

 2人で顔を見合わせてニッと微笑む。

 『託児室』の営業時間は、基本的には『柊胃腸科病院』の外来診療時間の30分前、つまり午前8時から始まり、午後5時半までとなっている。
 これは子供を預ける従業員が勤務前に子供を託児室に置いて、勤務後に白衣から着替えて迎えに来るまでの時間を考慮しているからだ。

 預かる児童の人数や、手が掛かる掛からないに応じてお世話する側の人数も調整しているが、今日のように児童が1名しかいない週末などは、ベテランでプロの金森先生が1人で面倒を見ることもある。
 用事があって抜ける場合は事務員や手の空いているナースに頼んで来てもらう。
 そこは個人病院ならではの柔軟性で、臨機応変に対応するという形が出来ているのだった。
 預かる児童がいない日が、『託児室』の休みの日となる。

「定休日というのは無いけれど、預かっている児童が多くないから休みの日はそこそこある。月の頭に病院の勤務表が出てから託児希望書が出されるから、それを見てスタッフでどの日に誰が出るかを決めるんだ。少人数でアットホームなぶん融通が利く」

「へぇ~、上手い具合に考えられてるね。天馬の病院で働いてる子育てママさんは幸せだよ」

 楓花が感心しながら勤務表に目を通していると、隣から「楓花のお陰かもな」と言われ、ハッと顔を上げる。

「えっ、私のお陰?」
「そう、楓花がいたからだ」

 天馬が目を細めて頷いた。

「言っただろ? 前に働いてた職員が妊娠出産を終えて……っていう話。それを聞いた時にさ、真っ先に楓花の顔が浮かんだんだよ」

「私?!」
「そう、楓花」

「こういう子育て中のお母さんたちのために楓花は頑張ってるんだな……アイツは東京で元気にしてるかな……って考えてた」

 天馬は楓花の髪をそっと撫でると、そのこめかみに口づける。

「これは後付けなのかも知れないけれど……」

 そう前置きした上で、

「俺は病院に『託児室』を作ることで、無意識にお前の仕事と関わりを持っていたいと思ってたんじゃないかな。更に言えば……もしもお前がこっちに戻ってくることがあったら……一緒に病院で働けるんじゃないかな……なんて欲や期待があったような気がする」

「嘘っ!」

「だから、後から考えてみれば……だよ。俺だってその当時はお前が本当に戻って来るなんて思ってなかったし」

「本当になった!……叶っちゃったね」
「ああ……叶っちゃったな」

「凄いっ!」

 楓花が飛びつくと、天馬がきつく抱きしめてチュッとキスをし、額を合わせて来た。至近距離から見つめ合う。

「……天馬、大好き……ありがとう」

「ああ、これからは同じ病院のスタッフだ。……まあ、立ち上げた俺が『託児室』を任されてるから、実質俺がお前のボスだけどな」

「ふふっ……ボス、よろしくお願いします」
「それじゃ上司命令、俺に抱かれて思いっきりエロい声で啼いて」

「もっ…もうっ!……了解……しました」

 パタンとパソコンが閉じられると同時に食べられるように激しく唇を覆われて、貪るような口づけが始まった。

「ん……ふ…っ……」
「楓花……好きだ……愛してる……」

「私……も……あっ!」

 首筋にチュッと痛みが走り、胸を揉みしだかれて……そこから先の言葉は甘い吐息に変わった。

 同棲開始に新しい職場。
 楓花の新しい生活がいよいよ始まろうとしていた。
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