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92、俺の彼女を紹介します (1)

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「楓花、起きられるか? そろそろ準備をしないと」

 天馬の声で目を開けると、鼻腔をくすぐるいい匂い。

「ん……ベーコンエッグ?」
「惜しい、ハムエッグだ」

「朝食を作ってくれたの?」
「ああ、昨日はかなり激しくしちゃったから身体がキツイだろ? 俺の責任だからこれくらいはしないとな」

 それを聞いて楓花がフフッと笑うと、柔らかいキスが降って来た。

「いやらしいな、思い出し笑いかよ」
「違っ!天馬が優しいから嬉しいな……っていう笑いだから!」

「失礼な。俺はいつだって楓花に優しいだろ。激しくするのはエッチの時だけだ」
「エッチ……激しっ……もっ、もうっ!」

 楓花が顔を真っ赤にすると、天馬が心底嬉しそうに目を細めてもう一度唇を重ねてくる。今度は深く、唇を割って舌を挿し入れ、口内をグルリと舐め回す。

「ん……ふ……っ」

 細い糸を引きながらゆっくり唇を離すと、コツンとおでこをくっつけて、
「ああ、離れがたい。またヤりてぇな~!」
 しみじみと呟く。

 昨日楓花の本音を分かち合い、今度こそ本当に心を通わせた2人は、ベッドまで待ちきれずに玄関に入ってすぐの廊下で2回連続で結ばれ、そのあと浴室やベッドでも何度も愛を交わし合った。
 2人とも今までにない興奮状態で、一体何度ヤったのかも記憶にない程だ。

「本当だ、もう朝の6時過ぎ! ゆっくりしてられない」

 ガバッとベッドから下りようとして、「イタたたっ!」と腰を押さえた。

「やっぱり板張りの廊下で2回は無茶だったな。ごめん、俺に掴まって」

 お姫様抱っこでダイニングまで抱えられ、ゆっくり椅子に下ろされる。

 2人並んで天馬特製のハムエッグにプチトマトの添えられた野菜サラダ、そしてバタートーストにコーヒーをいただいていると、天馬が急に改まった表情になってカチャンとフォークを皿に置いた。

「なあ楓花、今度こそ一緒に住めるよな?」
「えっ?」

 楓花もフォークを置き、話を聞く体勢になる。

「楓花がもう一度保育士として働きたいという気持ちは分かった。俺は大賛成だ。俺は奥さんに家庭に入って支えて欲しいだなんて思わないし、こうやってお前のために食事を作るのも苦じゃない。どうだ? 結婚はまだ先だとしても、とりあえずここに来てくれないか?」

 出来れば今日からでも同棲に突入だと息巻く天馬に、楓花が待ったをかけた。

「ちょっと待って。天馬の申し出は嬉しいけれど……このマンションってしげるさんの持ち物だったんでしょ? 私なんかが勝手に転がり込んじゃってもいいの? それにそんな事を天馬パパと天馬ママが知ったら怒るんじゃ……」

 柊家と月白家は家族ぐるみで付き合いがあるし、天馬の両親は『かぜはな』の常連客でもあるから、楓花も昔から良く知っている。
 最初に会った時に『私たちは天馬のパパとママなのよ』と自己紹介されて以来、楓花は2人を『天馬パパ』、『天馬ママ』と呼んで慕ってきたし、2人も楓花を『楓花ちゃん』と呼んで可愛がってくれていた。

 だけどそれは幼かった頃の話で、まさかその『楓花ちゃん』が息子の天馬と付き合っているとは夢にも思ってないだろう。

「だって、お祖父さんの茂さんが持って来たお見合い相手が、あの椿さんなんだよ。とてもじゃないけど私なんて……」

 なんと言っても天馬は『柊胃腸科病院』の御子息だ。長男の風馬ふうまが継ぐとはいえ、天馬も外科部長として一緒に病院を引っ張っていく立場。当然結婚には椿と同等の医師やどこかのお嬢様をと考えているに違いない。

「はぁ?何言ってんだよ。お前は俺が選んだ最高の女だって言ってるだろ」
「でも……」

 天馬は顔を覗き込みながら楓花の頭をクシャッと撫でると、

「まあ、楓花の『私なんて』は今に始まった事じゃないから簡単には治らないか……。彼女の不安を軽くするのは彼氏の役目だし、ここは俺が頑張るしかないよな」

 そう言うとスマホを取り出し、いきなりどこかに電話を掛け始めた。

「……あっ、母さん。今度の週末って忙しい?……それじゃ土曜日に彼女を連れてくから。……ああ、ちょっと待って、聞いてみる」

 楓花の方を向いて、

「ランチとディナーどっちがいい?」

 急なことに何も言えず、楓花が顔面蒼白で首をプルプルと横に振っていると、

「どっちもいいや。うん、それじゃティータイムで」

 電話を切ると、
「そういう事だから、土曜日の午後3時な。みんなで一緒にお茶しようぜ」

 サラッと告げられた。

「ちょっと、どうして勝手に決めちゃうの?! 心の準備も出来ていないのに!」

「今からまだ5日間もあるんだぜ。心の準備なんてその間にすればいいだろ。それに俺、前に言ったよな、外堀から埋めてくって。同棲がまだ駄目だって言うなら、他の方面から囲い込むしかないだろ」

「かっ……囲い込む……って!」

 天馬は目をパチクリさせている楓花を面白がるかのようにニカッと笑うと、

「大丈夫だって。うちの両親、昔から楓花のことがお気に入りだったろ?」

 何でもないと言う顔で楓花にキスをした。
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