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82、ちょっ! お兄ちゃん!(2)
しおりを挟む茜は一旦立ち上がって急須のお茶を煎れなおすと、天馬と楓花の湯呑みに注ぎながら、独り言のように呟いた。
「大体さ……私が大河と付き合い始めた頃から既に、天馬にとって楓花ちゃんは特別って感じだったじゃない?」
「ああ……そうだな。コイツはずっと特別だった」
その言葉を受けて楓花がチラッと横を見ると、三日月みたいに細められた甘い瞳と目が合った。
カッと全身が熱くなり、慌てて頬を染めて俯く。
「楓花ちゃんの方も明らかに天馬を『憧れの王子様』って感じで見つめてるし、私的には『ああ、2人は両想いなんだな』って、幼馴染の恋が実っていく過程を生暖かい目で見守っていたわけよ」
「おい茜、お前は絶対に勘違いしてる!天馬にとって楓花はずっと弟分の颯太で、恋愛対象とかそういうんじゃ……」
「だから、お前のその思い込みが話をややこしくしたんだよっ!とにかくいいから黙ってろ!今度一言でも口を挟んだら、その舌を引っこ抜くよ!このバカタレ能天気ヤロウがっ!」
椅子の足をガンッ!と蹴り飛ばされて、大河は怯えた仔犬のように身を竦めた。
2人の夫婦漫才みたいなやり取りに、天馬と楓花はプッと吹き出して目を合わせる。
茜はテーブルの上で両手の指を組んで、
「……それが、徐々に2人が顔を合わさなくなって……まあ、天馬は医学部の学生で忙しかったし、楓花ちゃんも高校の勉強があるしで、仕方ないのかな……って思ってたんだけど……そこにあの椿さん登場よ」
「ああ、大河と茜に彼女だって紹介した」
ーーああ……。
その時の天馬の気持ちも経緯も聞いて知っているけれど、それでも胸がモヤモヤしてしまう。一時は天馬と婚約直前までいった女性、酔った天馬を無理やり襲い、彼のモノを咥え、果てさせた女性……。
膝の上に置いていた手が不意に包み込まれた。ハッとして顔を上げると、天馬の左手が伸びて楓花の右手に指を絡めている。
目が合うと不安げに瞳が揺れていた。
ーーああ、そうか……。
天馬だって不安なんだ。椿とのこと、その後の乱れた半年間。大丈夫だと言いながらも楓花がこうして動揺するたびに、彼は自分の過去を後悔し、哀しげに楓花の顔色を窺う。
ーーああ、彼女の私が狼狽えてちゃいけないな。
「茜ちゃん、天馬が椿さんを紹介した時の話は私も聞いてるの。茜ちゃんはその時も、まだ天馬が私を好きだって思ってたの?」
「……うん、思ってた」
茜は隣からブツブツと聞こえてくる、「くそっ、楓花が天馬とか呼んでる…」と言う呪詛のような呟きに、前を見たまま「黙れボケ」と腹話術みたいに短く一蹴して、話を続ける。
「第一、彼女って言う割に天馬が全然嬉しそうじゃないし、積極的な椿さんに腰が引けてるのが丸わかりだった。私あの時に聞いたよね?『天馬、 本当にそれでいいの? 今、幸せ?』……って」
「ああ、覚えてるよ」
椿は楓花に視線を向けて、
「楓花ちゃん、その時にこの腰抜け天馬がなんて答えたと思う?『そうだな……幸せになれたらいいな』……って。そんなの不幸ですよって言ってるようなもんでしょ? 婚約目前の彼女がいてそんな台詞を吐いてるようじゃ上手くいかないに決まってるじゃない」
「ふふっ……腰抜け天馬って……」
思わず笑ったら、隣の天馬も苦笑する。
「ホント茜には敵わないな……まあ、確かに俺は腰抜けだったな。あの時に茜が俺の気持ちに気付いてるって分かったけど、俺は本心を告げる勇気が無くて誤魔化した」
「うん……私もそう思ってね、天馬たちと別れてから、大河に聞いたんだよね」
「えっ、俺?!」
素っ頓狂な声を上げた大河に、茜は般若のような顔で怒鳴りつけた。
「そうだよ、お前だよ! このすっとこどっこい!」
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