64 / 169
63、お前のキスからはじまった (5) side天馬
しおりを挟む「ちょっと天馬、どうしたの? ネクタイを返して貰うだけにしては奮発し過ぎじゃない?」
その夜、天馬が椿を呼び出したのは、市内のホテルにある高級フレンチレストランの個室だった。
どうして個室にしたのかと言うと、これからする話を周囲に聞かれたくなかったのと、それがせめてもの誠意だと思ったから。
お見合いで始まった関係を終わらせるなら、ちゃんと格式ばった場所で伝えるべきだろう。
椿は袖と襟元がレースになっていて途中から切替になっている黒いミディアム丈のドレスを着ていた。ウエストを大きなリボンベルトで縛り、首にはパールのネックレス。
あからさまでは無いけれど、それなりに上品で洒落たコーディネートは、彼女の期待を物語っている。
華やかな笑顔を浮かべた彼女を見ると心が痛んだけれど、決心は揺るがなかった。
天馬は、昨日の酔いが残った目を充血させながらも、真っ直ぐに椿を見つめた。
「椿、ごめん。……俺はお前と結婚できない」
「……えっ…」
開口一番そう告げると、椿は絶句して固まった。
「俺の我が儘だ。本当に済まないと思っている」
天馬は椿の言葉を待たず、一気に話し続けた。そうじゃないとこんな事、とてもじゃないけど言い出せないと思ったし、とっとと全部ぶちまけて、あきれ返って愛想を尽かしてもらった方がいいと思ったから。
「忘れられない子がいるんだ……諦められると思ったけど、やっぱり駄目だった。こんな気持ちのままで椿と結婚したって上手くいくはずが無い。お前には俺なんかより、もっと誠実でしっかりした奴の方が似合っている」
そう言ってもう一度頭を下げると、上から低い声が降って来る。
「嫌よ……」
「えっ」
顔を上げて見ると、そこにはゾッとするほど醒めた目をした青白い顔があった。
「私に似合うかどうかは私自身が決めるわ。私に相応しいのは天馬だし、天馬じゃなきゃ嫌なの」
「だけど俺はっ!」
「……どんな子?」
「えっ……」
「忘れられないって……いつから好きだったの?向こうは天馬をどう思ってるの?もう付き合ってるの?」
天馬は一瞬言葉に詰まったけれど、全部正直に話すことにした。
「……幼馴染だ。昔から可愛がっていて……気が付いたら好きになっていた。向こうには彼氏がいて、俺のことは幼馴染の兄貴みたいな存在だとしか思われていない。それでも……忘れることが出来ないんだ。本当に申し訳ない。だけど俺は……」
「忘れなくっていいわ」
「えっ?」
「私が天馬といたいだけだもの。天馬が誰を思ってたって気にしないわ。その子には彼氏がいて振り向いてもらえないんでしょ? そんな子を想って独り身でいるよりも、愛が無かろうが契約結婚だろうが、ちゃんとパートナーを持ったほうが世間体もいい。ついでに言えば、私は浮気されてもOKよ」
「どう?」と聞かれて天馬は首を横に振る。
「駄目だよ、椿。お前が良くても俺は嫌だ。馬鹿らしいと思うだろうけど、それでも俺はやっぱり、愛のない結婚なんてしたくないんだよ。そんな事をするくらいなら、一生独身を貫くよ」
「天馬……」
椿は目を伏せてから、「分かったわ」と顔を上げた。
「それじゃあ、これがお試し期間解消の晩餐っていうわけね。せっかくだからディナーは最後までいただくわよ。いいでしょ?」
「ああ……勿論だ」
それからは2人でとりとめのない話をした。病院のこと、患者のこと、医学部時代の友人の話……。
それで油断していたのかも知れない。自分から振った負い目もあった。
「ヤケ酒に付き合いなさいよ」
そう言われて18階のバーに移動して、椿がオーダーするアルコールを次々と口にしていったところで……記憶が途切れた。
チュッ……ジュルッ……
水っぽい音と下半身を襲う甘い痺れ。
ーーなんだこれ、気持ちいい……
「えっ?」
朦朧とする意識を必死で覚醒させて目を開くと……そこには天馬の股間に顔を埋め、勃ち上がったものを口に咥える椿がいた。
10
お気に入りに追加
1,616
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。
好きだった幼馴染に出会ったらイケメンドクターだった!?
すず。
恋愛
体調を崩してしまった私
社会人 26歳 佐藤鈴音(すずね)
診察室にいた医師は2つ年上の
幼馴染だった!?
診察室に居た医師(鈴音と幼馴染)
内科医 28歳 桐生慶太(けいた)
※お話に出てくるものは全て空想です
現実世界とは何も関係ないです
※治療法、病気知識ほぼなく書かせて頂きます
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる