上 下
61 / 169

60、お前のキスからはじまった (2) side天馬

しおりを挟む

「嘘っ!お兄ちゃん最悪!」

 楓花が車内で思わず大声を上げた。

「あれは涼太とその彼女で……」

「ああ、今でこそ真実が分かっているけど、その時はそんなの知らないし、大河が『彼氏』を連呼するから、そう思い込んだって仕方ないだろ?」

「それはそうだけど……じゃあ、お兄ちゃんが余計な事を言わなかったら告白してくれてたの?」
「……かも知れないな」

「え~~~っ!」

 こうなると、重ねがさね兄が憎い。
お調子者で楽天的で、そしておっちょこちょいで……少し、いや、かなり抜けている男なのだ。

「そんな……不毛な恋って……。私と涼太は恋人でも何でも無かったのに」

 天馬はハンドルから離れると、シートにドサッともたれかかって、少し後ろに倒してから楓花に顔を向けた。

「あんなにしょっちゅう2人でいる所を見せつけられたら、誰だってそう思うだろ。現に大河もお前たちが付き合ってるって思い込んでた」

「もう、お兄ちゃん!……天にいだって直接聞いてくれたら良かったのに」

「そんなコト聞いて、『はい彼氏です』なんて言われたら立ち直れないだろ? そこで取り乱して嫉妬丸出しのセリフなんて吐いたら、それこそ一巻の終わりだ」

「俺様のくせに、結構ヘタレ」

「なっ!ヘタレ……って。そうだよ、俺はヘタレだったんだ。7歳の年齢差は男を弱気にさせるんだよ。それにな……嫉妬深くもさせる」

 天馬の目に熱いものが宿ったのを見て、楓花は一瞬身を固くした。

「あの日……楓花と退院祝いの約束をした日、お前、あの涼太ってヤツを見て頬をバラ色に染めてただろ。頭がカッとなって、車のエンジンを切るのも忘れて店に飛び込んだ」

「……嫉妬したの? 」

「ああ、 めちゃくちゃ妬いた。アイツを追いかけてこっちに帰って来たんだと思ったら、気が狂いそうだった。しかも『また会おう』とか言ってるし」

「ふふっ……」

「不倫なんて許さない」
「しないよ」

「不倫じゃなくても、俺以外の男と2人っきりで会うなんて許さない」
「えっ、 それはちょっと……」

 睫毛を伏せた天馬の顔が近付き……唇が触れる直前でピタッと止まる。

「……天にい?」
「……駄目だな。ここで雰囲気に流されたら、それこそなあなあで済ませて大事な話が出来なくなる」

 大事な話……椿さんとの関係。

 天馬は姿勢を正してから、話を再開した。

「とにかく、そういう訳で告白の芽は絶たれた。俺はその後しこたま飲んで、ぐでんぐでんに酔っ払って家に帰った」

 結局告白をする事はなく、楓花への想いを断ち切る決意をした。

「俺だって椿との未来を考えなかった訳じゃない。 迷いはあったけれど、それもいずれは吹っ切れて、それなりに幸せな家庭を築けるんだろうとも思った。だけど…… 」

 天馬は楓花の膝の上で小さな手をギュッと握った。

「今でもハッキリ覚えてる。大河の結婚式の翌日、お前が俺に会いに来た」

「あっ…… 」

「全ては……お前のキスからはじまったんだ」
しおりを挟む
感想 209

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

4人の王子に囲まれて

*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。 4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって…… 4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー! 鈴木結衣(Yui Suzuki) 高1 156cm 39kg シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。 母の再婚によって4人の義兄ができる。 矢神 琉生(Ryusei yagami) 26歳 178cm 結衣の義兄の長男。 面倒見がよく優しい。 近くのクリニックの先生をしている。 矢神 秀(Shu yagami) 24歳 172cm 結衣の義兄の次男。 優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。 結衣と大雅が通うS高の数学教師。 矢神 瑛斗(Eito yagami) 22歳 177cm 結衣の義兄の三男。 優しいけどちょっぴりSな一面も!? 今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。 矢神 大雅(Taiga yagami) 高3 182cm 結衣の義兄の四男。 学校からも目をつけられているヤンキー。 結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。 *注 医療の知識等はございません。    ご了承くださいませ。

白衣の下 先生無茶振りはやめて‼️

アーキテクト
恋愛
弟の主治医と女子大生の恋模様

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

処理中です...