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53、俺は彼女と結婚するよ side天馬
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時間は遡ること1時間前。
椿が当直の仕事を終えてエレベーターで1階に下りると、ちょうど病棟へ行こうとエレベーターを待っていた天馬と遭遇した。
「あら天馬、休日出勤? こんな早い時間から御苦労様ね」
「ああ、昨日オペした患者の経過を見ておこうと思ってね」
「ああ、夜中に意識を覚ましてせん妄状態になって管を抜こうとしてたから、薬で抑えておいた。30分前に挿管チューブを抜いて辻くんに引き継ぎしておいたわ。バイタルは安定してる」
「ありがとう。今から抜管しようかと思ってたから、済ませてくれたのなら助かるよ。お疲れ様でした」
「あっ、天馬」
エレベーターのボタンを押して乗り込もうとした天馬を、椿が呼び止めた。
「ねえ、病棟を一回りしたら今日の仕事は終わりなんでしょ? ……『かぜはな』でお茶でもどう?私、医局で待ってるから」
「いや……たぶん午前中いっぱいは病院にいると思うから」
「それじゃ夜は空いてるんでしょ? 久しぶりに飲みに行かない? 昨日のオペの検討会も兼ねて」
「いや……悪いけど今夜は約束があるんだ。また今度、辻たちも誘ってみんなで焼肉にでも」
「……彼女とデート?」
天馬は一つ溜息をつくと、白衣のポケットに手を突っ込んで正面から椿を見据えた。
「辻から聞いた。俺たちが一緒にいる所を見たんだってな」
「……彼女、『かぜはな』でバイトしてるんですってね。辻くんは女子大生って言ってたけど、4年前に上京して帰って来たんだから今は社会人よね。何をしてる人なの?」
「君には関係ない」
「やだ、怖い顔をしないでよ。ちょっと興味があって聞いてみただけじゃない」
天馬は睫毛を伏せて鼻から息を吐くと、最後通牒を告げるかのように、ハッキリと言い切った。
「……水瀬先生、君には酷いことをしたし、今でも申し訳ないと思っている。だけど、そのことと彼女は関係ない。俺は今度こそ自分の気持ちに素直になろうと思っているし、もう間違えたくないと思ってるんだ。……俺は彼女と結婚するよ」
「……そう」
「……ああ。それじゃあ、お疲れ様でした」
天馬は今度はもう振り返ることなく、エレベーターに乗り込んで行った。
「私とのことは……間違いだったって言うのね」
椿の目の前で静かにエレベーターのドアが閉まった。
*
土曜日午後4時。
天馬が自宅でシャワーを浴び終わり、デートまでの残り1時間をソワソワして過ごしていると、スマホが鳴り、画面が光った。
ーーおっ、楓花かな。
今日の病棟回診が終わった後で1度メッセージを送ったのだけど、忙しかったのか返事が来なかった。今頃焦って返事を寄越したのかも知れない。
まあ、あと1時間もしたら会えるわけだけれど……。
天馬は頬を緩めながらスマホを手に取り……画面を見て絶句した。
「嘘だろ……」
『ごめんなさい。 今日は気分が優れないのでキャンセルさせて下さい』
椿が当直の仕事を終えてエレベーターで1階に下りると、ちょうど病棟へ行こうとエレベーターを待っていた天馬と遭遇した。
「あら天馬、休日出勤? こんな早い時間から御苦労様ね」
「ああ、昨日オペした患者の経過を見ておこうと思ってね」
「ああ、夜中に意識を覚ましてせん妄状態になって管を抜こうとしてたから、薬で抑えておいた。30分前に挿管チューブを抜いて辻くんに引き継ぎしておいたわ。バイタルは安定してる」
「ありがとう。今から抜管しようかと思ってたから、済ませてくれたのなら助かるよ。お疲れ様でした」
「あっ、天馬」
エレベーターのボタンを押して乗り込もうとした天馬を、椿が呼び止めた。
「ねえ、病棟を一回りしたら今日の仕事は終わりなんでしょ? ……『かぜはな』でお茶でもどう?私、医局で待ってるから」
「いや……たぶん午前中いっぱいは病院にいると思うから」
「それじゃ夜は空いてるんでしょ? 久しぶりに飲みに行かない? 昨日のオペの検討会も兼ねて」
「いや……悪いけど今夜は約束があるんだ。また今度、辻たちも誘ってみんなで焼肉にでも」
「……彼女とデート?」
天馬は一つ溜息をつくと、白衣のポケットに手を突っ込んで正面から椿を見据えた。
「辻から聞いた。俺たちが一緒にいる所を見たんだってな」
「……彼女、『かぜはな』でバイトしてるんですってね。辻くんは女子大生って言ってたけど、4年前に上京して帰って来たんだから今は社会人よね。何をしてる人なの?」
「君には関係ない」
「やだ、怖い顔をしないでよ。ちょっと興味があって聞いてみただけじゃない」
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「……水瀬先生、君には酷いことをしたし、今でも申し訳ないと思っている。だけど、そのことと彼女は関係ない。俺は今度こそ自分の気持ちに素直になろうと思っているし、もう間違えたくないと思ってるんだ。……俺は彼女と結婚するよ」
「……そう」
「……ああ。それじゃあ、お疲れ様でした」
天馬は今度はもう振り返ることなく、エレベーターに乗り込んで行った。
「私とのことは……間違いだったって言うのね」
椿の目の前で静かにエレベーターのドアが閉まった。
*
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天馬が自宅でシャワーを浴び終わり、デートまでの残り1時間をソワソワして過ごしていると、スマホが鳴り、画面が光った。
ーーおっ、楓花かな。
今日の病棟回診が終わった後で1度メッセージを送ったのだけど、忙しかったのか返事が来なかった。今頃焦って返事を寄越したのかも知れない。
まあ、あと1時間もしたら会えるわけだけれど……。
天馬は頬を緩めながらスマホを手に取り……画面を見て絶句した。
「嘘だろ……」
『ごめんなさい。 今日は気分が優れないのでキャンセルさせて下さい』
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