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40、29歳医師、27歳の後輩に教えを乞う side天馬
しおりを挟む「天馬先生、お疲れ様でした」
ナースステーションで電子カルテに術後の指示を記入していると、辻吉成医師が話し掛けて来た。
「今日は休みだったのに呼び出しちゃってすいませんでした。俺1人じゃ手に負えなくて」
「緊急オペだ。仕方ないさ」
「あっ、今日の天馬先生は元気が無いですね。例の『紫の上』と喧嘩でもしてフラれたんですか?」
ーーこいつ、変な所で勘が鋭いんだよな。腹が立つ。
フラれた訳ではない。だけど喧嘩したというのは当たっている。いや、喧嘩というのもちょっと違うか。
俺が一方的に我が儘を言って、拗ねて傷付けて泣かせた……が正解だ。
昨日楓花をマンションに連れて来て濃厚な時間を過ごし、今朝一緒に朝食を食べるところまでは良かったのだ。
楓花の祖父の新之助の名前が出たことから、その流れで2人の交際を家族に公にしたいと言った辺りから雲行きが怪しくなった。
当初の天馬の予定では、マンションに置いておく楓花の日用品を買いに午後から出掛けて、そのまま夜までイチャイチャしようかと思っていたのに、それが自分の発言により全部台無し。
慌てて謝ったものの時すでに遅しで、楓花は家に帰ると言って聞かなかった。
どうにか話を続けようとしていた時に最悪のタイミングで病院から呼び出しがかかり、すぐに病院に戻らなくてはいけなくなった。
自分で帰ると言い張る楓花をどうにか説得して車で送ったものの、車内でもずっと無言のままで……。
病院では穿孔性腹膜炎の患者が痛みにのたうち回っていて、そのまま緊急オペに突入。
楓花とはあの後結局会えずじまいだ。
ーーそれにしても……楓花に断られるのは想定外だった。
楓花が天馬のことを好きなのは間違い無いし、今までの無茶なお願い……例えば車内でイタズラさせてもらったりだとか、セクシーな下着を履いて欲しいだとか……と同じように、多少戸惑いはしても、最後にははにかみながら頷いてくれるものだとすっかり信じ切っていたのだ。
マンションの鍵だって、渡せば飛び上がって喜んでくれると思っていて、その姿を想像しては前日からニヤニヤしていたのに……。
だからこそ、楓花の煮え切らない態度にイラつき、心にも無いような酷い言葉を投げつけてしまったのだった。
ーーあれは酷すぎた。最悪だ……。
「あのさ、辻……」
「はいはい何ですか?」
「お前って彼女いるの?」
「うわっ、まさかの恋バナですか?!俺、憧れの天馬先生とこんな話が出来るなんて感動っスよ!」
途端にナースステーションの空気がザワつくのを感じた。
「恋バナじゃ無い!……お前、ちょっと俺の部屋に来い」
これだから口が軽いヤツは困る。コイツに楓花のことは絶対に言わないでおこう……と考えつつ、それでも相談せずにいられなくて、天馬は辻を5階の外科部長室に連れ込んだ。
「うわっ、俺、この部屋に入ったの初めてですよ!」
何の変哲もない普通の部屋。良くある社長室みたいに重厚なデスクと黒い椅子が置いてあって、手前には木製のローテーブルと、それを挟んで1人掛けの革張りカウチが2つ。
あとはファイルや医療雑誌が並んだ整理棚と白衣が吊るされた事務用ロッカーがあるだけ……のそこを、辻はキョロキョロと目を輝かせて見渡した。
「それで……さ、辻って彼女はいるの?」
辻にカウチに座るよう促しながら、自分もその向かい側に座り、膝の上で指を組む。
「なんですかっ、やっぱり恋バナじゃないっスか!」
「違う!親戚の……従兄弟の男の子に相談を受けてだな……どう答えたものかと……」
辻は訳知り顔でニヤニヤしながら、
「まあ、いいですよ、そういう事で。俺、彼女いますよ。同じ大学の看護学部だった子で、もう3年の付き合いになります」
「ナースなのか……まさかこの病院にはいないよな?」
「違いますよ、小児科のクリニックに勤務してます」
「そうか……それでだな、お前って彼女と喧嘩したことってある?」
すると辻はキョトンとした後で、「はぁ?」と呆れた顔になる。
「何言ってんスか。そんなの当然でしょう。小さいのから大きいのまで、喧嘩なんてしょっちゅうですよ」
「しゅっちゅう……するものなのか?」
「するもの……って言うか、起こっちゃうでしょう。便座のフタを開けっぱなしにして下げてなかったとか、彼女のプリンを間違えて食べちゃった……とか。この前は合コンに行ったのが彼女にバレて、3日間の出禁になりました」
「合コン……って、彼女がいるくせに、お前最低だな。それに出禁っていうのは、彼女の部屋に……か?」
「ああ、お互いのアパートの鍵を持ってるんですけど、ほぼほぼ俺が入り浸ってて……半同棲ってやつっスね。あっ、合コンは人数合わせで友達に頼まれて仕方なく。お持ち帰りとかは断じてしてないですよ。そういうのはもう卒業したんで」
もしかしたらコイツは俺に比べたらかなりの恋愛マスターなのかも知れない……と思いつつ、平常心を装い本題に入る。
「あのさ……喧嘩して……相手に泣かれたりは?」
「ありますよ。合コンバレした時は『2度と顔を見せるな』って俺のマグカップを目の前でゴミ箱に捨てられて、号泣しながらソファーのクッションでボフボフ殴られました」
「……激しいな」
「そこが可愛いんですよ、素直で。エッチの時も素直で積極的で相性がいいんです」
「ほんっとお前って最低だな……」
だけど、コイツなら俺の求める答えを知っているのかも知れない……。
「それじゃ……さ、喧嘩した後ってどうすればいんだ? 泣かせた相手と、どうしたら早く仲直り出来る?」
すると辻は「そんなことっスか」と何でもないように唇の両端を引き上げて、
「ひたすら謝ったら、あとは相手の話を黙って聞くのみですよ」
自信満々の顔でそう言った。
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