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<< デビュー1周年記念番外編>>
無二の親友の話 side大志 (2)
しおりを挟むそれからの冬馬は多忙を極め、葬儀後の書類手続きやら銀行や区役所と連日あちこち走り回っていた。
俺ができることといえば授業内容のコピーを送ったりコンビニ飯を差し入れすることくらいで、改めてアイツの置かれた環境の過酷さと、自分がいかに恵まれているかを痛感させられる。
老朽化した家の管理ができないからと、冬馬がそれまで住んでいた家を引き払ってアパートに移った6月の初旬。
引っ越しの手伝いに来ていた俺は、『キッチン用品』と書かれた段ボール箱を開けながら、思い切って冬馬に聞いてみた。
「なあ冬馬、俺ん家にご飯食べに来ない?」
正直、これを言うのにはかなり迷った。
母子家庭で育ち苦労してきた冬馬に家族団欒の姿を見せていいものかどうか。
大学生になった今でも実家に住み、そこそこ大きな家で親の脛を齧っている俺を見て軽蔑しないだろうか。
俺の声かけを、同情だとか施しなどと受け取られないだろうか……。
けれど家の書斎で仕事していた父親に相談したら、
『もしも相手にそう受け取られるとしたら、それは普段からのおまえの言動にそういう心情が見え隠れしているからだ。おまえが心から親友に寄り添えていれば、それはきっと正しく伝わっているだろう。大志、おまえの本心はどうなんだ? 同情で友達をしているのか?』
逆にそう問いかけられて、俺の腹は決まった。
――うん、俺は冬馬に温かいご飯を食べさせてやりたい。これは同情なんかじゃなく、俺がアイツと一緒においしい食事をして一緒に笑いたいんだ。
「──俺は冬馬に自分の家族を紹介したいし、俺の家族を好きになってほしい。そして俺の家族に冬馬を紹介したい。だからさ、うちで一緒に飯を食おうよ」
ドキドキしながら返事を待つ俺に、冬馬は「なんだよこれ、プロポーズかよ」と口角を上げた。
「プロ……っ、なんだよ、俺はゲイじゃないっつーの!」
俺が唇を尖らせると、冬馬が「ハハッ、そうだな、俺もゲイじゃない。……けれど大志、おまえのことは大好きだ。ありがとう」と大きな口を開けて笑う。
その笑顔を見て、コイツは本当に俺に心を許してくれているのだと思えた。
だから回りくどい言い方はやめて、ストレートに気持ちを伝えることにした。
「……冬馬、俺はおまえと腹の探り合いなんてしたくないからぶっちゃけて言うぞ。俺は冬馬に家に来て欲しいけれど、おまえに窮屈な思いをさせたりストレスをかけたいわけじゃない。おまえが『今はそんな気持ちになれない』とか『そんなの迷惑だ』って少しでも思うのなら無理強いしたくないんだ。……冬馬はどう思う?」
俺の本心を明かしたうえで、冬馬にも遠慮せず本音を言ってほしいと訴えた。
すると冬馬は目を細め、俺が大好きな優しい微笑みを浮かべる。
「全くおまえは、頭のてっぺんから爪先までいいヤツだな。……迷惑だなんて思わない。是非お邪魔させてくれ」
「えっ、いいのか!?」
「ハハッ、自分から誘っておいて何を驚いてるんだよ。俺も大志の家族に会わせてもらいたい。行ってもいいんだろ?」
「もちろん! よっしゃ!」
俺が両手の拳を天井に向かって突き上げると、冬馬はまた「ハハッ」と豪快に笑った。
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