仮初めの花嫁 義理で娶られた妻は夫に溺愛されてます!?

田沢みん

文字の大きさ
上 下
161 / 177
<< 特別番外編 >>

誕生日のおねだり (2)*

しおりを挟む

 玄関からカチャリと音がして、私はキッチンから廊下へと飛び出した。

「冬馬、お帰りなさい!」

 両手を差し出していつものようにブリーフケースを預かろうとすると、彼はキョトンとして固まっている。

「冬馬……さん? 」

 首を傾げながらもう一度名前を呼ぶと、彼はようやくハッとして、黒いカバンを差し出してきた。

「ああ、ごめん。今一瞬、呼び捨てされたかと思って」
「呼び捨てしちゃ駄目だった?   冬馬」
「……っ!」

 途端に彼は頬を染め、革靴を脱ぎ捨てて私を抱き寄せる。

「駄目じゃない。全然駄目じゃないよ、むしろ……イイ」

 耳元でバリトンボイスを響かせたかと思うと、私の顎を指先で掬い上げ、唇を重ねてきた。
 すぐに舌が絡められ、口づけが深くなる。

ーー駄目、この流れだとこのまま……

 腰に回った彼の手に力が入ったところで、私はそっと彼の胸を押す。

「まだ駄目よ。今日はまず、誕生日のお祝いをさせて欲しいの」

 そう。今日、12月1日は冬馬さんの32歳のバースデイ。
 私は一足先に事務所から帰って、誕生祝いの準備をしていたのだった。

 私に促されてシャワーを浴びてきた冬馬さんは、ダイニングテーブルを見て目を見開く。

「凄いな……平日なのに、大変だっただろう」

 そしてすぐに食卓に置かれた花に気づき、私に満面の笑みを向ける。

「これはあの日と同じ花……ガーベラだっけ?   君のおかげで覚えたよ」

 そう。テーブルの真ん中にちょこんと鎮座しているボダムのロックグラスには、ピンクと白のガーベラを2輪挿してある。
 あの日……私達の婚姻届が出されていなかったと知って大喧嘩をし、その後真実を告げられて、心を通わせた日にも飾っていた花。
 律儀で優しい冬馬さんへの、愛と感謝を込めたプレゼントだ。

 牛タンシチューは圧力鍋で煮込んであるし、キノコのマリネにイチジクの生ハム巻き、ゆで卵やツナを乗せたニース風サラダも、全部冬馬さんの好物ばかり。
 今日は火曜日で平日だから手の込んだことは出来ないけれど、結婚して初めて迎える夫の誕生日。精一杯のお祝いをしたいと思う。
 敬語をやめて名前を呼び捨てにするのもその一環。私が出来ること全部、彼のためにしてあげたいから。

ーー本当のプレゼントは別にあるのだけれど。


 用意した料理を絶賛しながらペロリと平らげると、冬馬さんはスプーンをカチャリとスープ皿に置いて姿勢を正す。

「桜子、ご馳走様。全部美味しかったよ。それと、俺の誕生日を一緒に祝ってくれてありがとう。最高の誕生日だ」

 その言葉を受けて私も姿勢を正し、心臓をドキドキさせながら、準備していた言葉を告げる。

「今朝も言ったけど、改めて。冬馬、誕生日おめでとう!   妻として一緒にお祝いできて嬉しいです。それと……プレゼントは…その…これから…デス」

 語尾を徐々に小さくしながらも言い切ると、冬馬さんが片手で口を覆って黙り込む。
 見ると耳まで真っ赤。私の言葉の意味を理解したのだろう。

「それは、その……俺のリクエストの?」
「はい。気に入ってもらえるか分からないけれど……既に、スタンバイしてあるの」

 私が照れながらもコクリと頷くと、彼がガタッと勢いよく立ち上がり、テーブルを回り込んでくる。
「行こう」と手首を掴んで引っ張られた。

「えっ!?   まだケーキが……」
「そんなの後でいい」

 冷蔵庫の中にはお店で買ってきた苺のショートケーキが入っている。『32』の数字のロウソクも用意してあるけれど……

ーーでも冬馬さんが喜んでくれるのが一番だものね。

 私は冷蔵庫の方をチラッと見遣りながら、寝室に向かってズンズン歩き出す冬馬さんに従ったのだった。



 勢いよく寝室に飛び込んだものの、そこで冬馬さんはピタリと動きを止める。

「……冬馬?」

 手首から彼の手をそっとほどき、前に回り込んで顔を覗き込む。
 彼は再び片手で口を覆い、俯いて絶句していた。

「冬馬、どうしたの? 」
「……ヤバい」
「えっ? 」

 彼がチラリと視線を上げ、やっと目が合う。

「今日の料理も、名前を呼び捨てなのも、俺のためにしてくれてるんだよな」
「当たり前でしょう?   冬馬のために決まってる」

「その……今日は本当に、エロい下着を身につけてくれてるの? 」

 ストレートに聞かれて一瞬言葉に詰まったけれど、今更隠す必要もない。私は正直に答える。

「……うん、そう。冬馬のリクエストの下着。あなたが帰ってくる時間に合わせてシャワーを浴びて……準備、した。気に入ってもらえるか分からないけ……きゃっ!」

 言い終わる前に強く抱き寄せられ、額と頬、そして唇にチュッチュと啄むようなキスが降ってきた。そのまま肉厚な舌で私の口内を蹂躙してからそっと離れる。

「桜子、自分で脱いで見せて」

 冬馬さんは耳元で囁いてからゆっくり後ろに下がり、買い換えたばかりのキングサイズベッドに腰を下ろした。ギシッとスプリングの軋む音がする。

 私はゴクリと唾を飲み込んで、まずはVネックのカシミアのセーターを脱いだ。中から黒いブラジャーが現れる。総レースだから胸の先端が透けて見える仕様だ。恥ずかしい。けれど、まだこの先がある。

 履いているタイトスカートのサイドに手を伸ばす。ファスナーをゆっくり下ろすと、ストンと布地がカーペットに落ちた。
 真っ直ぐに立って冬馬さんに顔を向けると、彼の猫のような目が細められ、私の胸元から爪先までゆっくり視線を動かしている。
 まるで品評会で品定めされている気分。

 私が身につけているのは、ランジェリーショップの店員さんオススメの黒のセットアップ。
 黒いレースのガーターベルトにストッキング。上に重ねているショーツは、サイドが紐のTバック。前を覆う三角の布地には切れ込みが入っている。
 私が選んだ下着は、果たして彼の希望に添えたのだろうか。

「あの……合格でしょうか」
「えっ? 」
 
 ハッと我に帰ったような表情かおの彼に恐る恐る問いかけてみた。

「合格もなにも……」

 彼の喉仏がゴクリと動くのが見えた。
「おいで」と手招きされて彼の目の前に立つ。

「これ……自分で選んだの? 」

 レース越しにキュッと乳首を摘まれて、「あっ」と声が出た。
 そのままクリクリと指の腹で先端を転がされ、ゾクゾクッと背中を電気が走る。

「俺のためにシャワーを浴びて、これを身につけて……待っててくれたの? 」
「んっ……あっ」
「桜子、ちゃんと答えて。俺のために買ってくれたの?」

 指先での愛撫はそのままに、真っ直ぐ視線を合わせて聞いてくる。

「あ……っ、そう……。冬馬のためにこれを買って、身につけて……待ってた」
「……こうされたくて?」

 冬馬さんは意地悪く目を細めると、右手で胸を弄りつつ、左手の中指でそっとショーツの中心を撫で上げる。

「やっ、あっ! 」
「こんな薄い布地……履いてないも同然だな。しかも切れ込み入りか」
「……駄目だった? 」
「いや、むしろ……」

 そう言いながら前の切れ込みから指を忍ばせ秘裂を辿る。
 クチュッと水っぽい音がするのを確認し、彼の顔に歓喜が浮かんだ。

「桜子っ、最高だ! 」

 冬馬さんはベッドから弾かれるように飛び下りて、私の足元に跪いた。
しおりを挟む
感想 399

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。