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<< 特別番外編 >>
プレゼントを買いに (4) side冬馬
しおりを挟む後日、俺は大学で山崎さんに呼びだされて階段の隅で告白された。
「日野くんが私を恋愛対象に見ていないのはわかってるの。でも、お試しでいいから付き合ってみない ? 」
申し訳ないけどその場でお断りしたら、好きな子がいるのかと聞かれた。
なぜか脳裏に日本人形みたいに整った顔が浮かぶ。
ハッとして、いやいや違うだろう!と首を振った。
「好きな子は……いない」
「だったら……たまに会って寝るだけでの関係でもいいのよ。それなら煩わしくないし、勉強の合間の息抜きになるんじゃないかな。どう ? 」
「いや、俺はそういうのは遠慮しておくよ。今はとにかく忙しくて、それどころじゃないんだ。そういう相手は他で探してくれ。……じゃあ」
掴まれた腕を振りほどいてその場を去ると、階段状になった大教室に飛びこんですぐ、スマホから山崎さんのアドレスを消去した。
ーーふざけんな!
寝るだけの相手って……俺にセフレの関係になれということか。
冗談じゃない。付き合ってもいない相手とそんなことをする趣味ははないし、そういうことを軽々しく言う女と付き合いたいとも思わない。
ーー俺が付き合いたいと思う女性は……
桜子ちゃんなら、絶対にあんなことを言わない。
恋人でもない男に身を任せたりしない。
「……って、どうしてここで、あの子のことを……」
片手で額を押さえて苦笑する。
彼女はまだ中学生なんだぞ。それに、あんなにピュアな子を、セフレでいいというような女と同列に扱うこと自体、失礼だ。
「俺もどうにかしてるな……」
こんなことを考えたってだけでも、大志に知られたら絶交ものだ。
アイツにとって桜子ちゃんは永遠の守護対象であり、穢れなき天使なのだから。
とにかく何かと面倒だし、山崎さんの名誉のためにも、さっきのことは黙っておこうと決めた。
なのに……
「よお冬馬、山崎さんと付き合わないの?」
お昼のカフェテリア。俺が隅のほうの席でエビフライ定食を食べていたら、向かい側にカレーライスが乗ったトレイがカタンと置かれて大志が座ってきた。
「何のことを言ってるんだよ」
「またまた、とぼけちゃって~。山崎さんがお前のことを諦め切れないって泣いてたって、彼女の親友から聞いたぞ」
思わず手を止め箸を置いた。知らずに「チッ」と舌打ちが漏れる。
「その親友、最低だな」
「いや、違うんだって!その子は山崎さんのためを思って、どうにかならないかって俺に泣きついてきたの!」
大きな溜息が出る。
どうして女子は何でもかんでも友達にペラペラと語りたがるんだ ?
そしてその親友もお喋りすぎやしないか ?
ほんの数時間前の出来事がもう大志に伝わってるって、早いにもほどがあるだろう。
「なあ、山崎さんのどこがダメなわけ?美人だしミス法学部だし、仕事の悩みも共有できるし文句なしじゃん」
「今は勉強に集中したいし、それどころじゃないんだよ」
大志に悪気はないんだろうけど、元はといえばコイツに山崎さんを紹介されたせいでこうなってるんだ。
とにかくもうこれ以上の山崎さん推しは勘弁して欲しい。
空気を読めるヤツなんだから、少しは俺の気持ちを察してくれそうなものなのに。
ーーそれにしても、大志はどこまで知ってるんだ ? まさかセフレを推奨してくるつもりじゃないだろうが……
あまり語ると墓穴を掘りそうだから、無視して食事を済ませることにした。
大口でエビフライにかぶりつく俺に、大志は尚も食いさがる。
「山崎さんは来年お前が院に来るまで待っても構わないってよ」
「来年だって再来年だって忙しいし無理だよ」
ーーなんだよ、いやにしつこいな。
ムッとしたのが表情に出ていたんだろう。
大志は山崎さんの名前を出さない代わりに、今度は別の方向から攻めてきた。
「それじゃあさ……お前はどんな子だったらいいわけ? 」
「えっ、どうしてそんなこと……」
「高校の時に付き合ってたような、スーツが似合うインテリ系?」
何故ここで元カノのことまで持ち出してくる。
イラついたから無視を決め込んでやろうと思ったら、
「それじゃあ聞き方を変えるよ。お前が付き合うとしたら、可愛い妹系か、大人っぽいお姉さん系、どっちなの?」
やけに真剣な表情で真っ直ぐに見据えてくる。
だから俺は大袈裟に溜息をつくと、カタンと箸を置いて正面から睨み返してやった。
「やけにしつこいな。それって答えなきゃダメなのかよ」
「ああ、答えろよ。お前を好きな女子は多いんだぜ。山崎さんにしたって、どうして自分じゃ駄目なのかを知っときたいだろ?」
どうしてここまで山崎さんに親身になるのか。
大志の真意は分からないけれど、俺が答えないかぎり引き下がりそうにない。
こいつは甘いマスクをしているけれど、こうと決めたら一直線で押しが強い男なのだ。
無駄な抵抗は諦め、俺はゆっくり口を開いた。
「そうだな……年上とか年下とかは関係なく……大人っぽくて雰囲気のある子」
そのとき俺が頭に浮かべていたのは、紛れもなく親友の妹で……
だけどそんなことをコイツに言えるはずもなく、かといって嘘をつくのも嫌で……
これが俺にできる精一杯の返答だった。
「キャピキャピしてなくて、落ち着いてる子がいい」
大志は手にしていたスプーンをカチャリとカレー皿に置く。
「ふ~ん……大人っぽい子ね」
「そうだよ。これで納得したか? とにかく俺は今は恋愛する気はないからな!」
「『恋愛する気はない』んだな、分かった」
大志は念を押すように、真っ直ぐ俺を見据えて言った。
そうだ、あくまでも『そんな雰囲気の子』がいいというだけのこと。
俺は勉強とバイトに必死で今はそれどころじゃないんだ。
これは決して恋愛感情ではないし、誰と付き合おうとも考えちゃいない。
ーーだから大志、頼むから、これ以上はもう聞かないでくれ !
これ以上追求されたら、きっと俺は……
いつになく心の中まで探るような鋭い眼差し。
俺は逃げるかのようにフイッと視線をそらすと、そのまま大志と目を合わることなく、ひたすら箸を動かし続けていた。
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