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プレゼントを買いに (1) side冬馬
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side大志のエピソード、『山崎さん事件』及び『クリスマスの贈り物』の冬馬目線です。楽しんで頂けますように!
*・゜゚・*:.。..。. .。.:*・゜゚・**・*:.。..。 .。.:*・゜゚・*
広々としたエントランスに足を踏み入れた途端、俺は自分の場違い感に慄いた。
白を基調とした品のある内装と広々としたアトリウム。足元の床は大理石。
エレガントで高級感溢れる空間は、クリスマスシーズンの喧騒を尻目に、ゆったりとした空気を醸し出している。
有名ブランドの店が立ち並ぶ銀座の大通り。
その中でも一際目を引く9階建ての建物に、そのアクセサリーショップはあった。
男1人で訪れるには勇気を要する……そう思っていたけれど、店内を見渡してみると、思った以上に男性客が多くて逆に驚く。
ーーそうか、みんな俺と同じ目的か。
「いらっしゃいませ。今日はどのような品をお求めですか?」
上品な営業スマイルで近づいて来た女性スタッフに、彼女が色んな客から何度も聞かされているであろう台詞を吐いた。
「クリスマスプレゼントを買いに……」
結婚して初めてのクリスマスは、思い切りロマンチックにしようと決めていた。
高級ホテルのレストランで食事をしたら、そのままスイートルームで甘い夜を過ごす。
桜子へのプレゼントはアクセサリーだ。どうせ贈るなら身に付けるものがいい。
指輪は結婚する時に渡したばかりだから、違うものがいいだろう。ピアスは大志が贈ったものを愛用しているから被らない方がいい。
ーーだとすると……ネックレスか。
慌てて5月の誕生石を調べたらエメラルドだった。
サイトの写真を見て納得する。そういえば桜子のピアスがこんな色だ。大志はちゃんと誕生石を知ってたんだな。マメなアイツらしい。
ーーうん、深い緑色は桜子のイメージにピッタリだ。
夫婦になって最初のクリスマスプレゼントは、エメラルドを使ったネックレス。そう決めた。
店員に予算を聞かれて「特に無い」と答えたら、ニコニコしながら中央のガラスのショーケース前に案内される。
「こちらは当店で人気のコレクションで……」
「あっ、コレがいいです」
詳しい説明を聞く前に、もう決めていた。
ガラスケースを覗いた瞬間に目に飛び込んで来たのは、丸い緑の石の周囲を小さなダイヤが囲んでいるネックレス。
「お目が高いですね。こちらのペンダントは中央の石が0.3カラットのエメラルドで、周りにあるのがブリリアントカットのダイヤモンド0.09カラットとなります。チェーンはプラチナで……」
「これを下さい。クリスマスギフト用の包装で」
アクセサリーに詳しくない俺には何カラットとか言われても価値が分からない。
第一、店員にペンダントと言われたけれど、これはネックレスでは無いのか ? どう違うんだ。難解すぎる。
いずれにせよ、これが桜子に似合う事だけは確実だ。絶対にこれがいいと思った。
だから自分が思っていたよりも一桁多い値段を告げられても、躊躇せずに財布からカードを取り出す。
これを桜子が身に付ける姿を想像したら、楽しみでしか無い。
ーー俺も成長したもんだな……
店を出てクリスマスカラーで溢れ返る通りを歩きながら、ふと何年も前のクリスマスシーズンのことを思い出した。
ーーあの時は何を買えばいいか分からなくて悩みまくったけれど……
まだまだ若くてお金も無かった学生時代。
桜子への想いも自覚していなかった21歳の俺の……俺と大志の青臭い思い出だ。
そう、あれは大学に入って三度目の冬。クリスマスが目前に迫った12月中旬の事だった。
*
「あっ、京子さん!」
大学のカフェテリアで俺と並んで牛丼を食べていた大志が、急に片手を上げて知らない名前を呼んだ。
その目線を追うと、入り口のあたりでキョロキョロしている女性2人組に辿り着く。
2人は大きく手を振っている大志に気付くと、パアッと表情を明るくしてこちらに歩いて来た。
「今からお昼? ここに座れば?」
「えっ、いいの? それじゃお言葉に甘えて」
大志が目の前の席を手で示すと、2人はトレイを運んできていそいそと腰掛ける。
ーーおいおい、俺には拒否権ナシかよ。
俺が女子に付き纏われるのが苦手だって知っているくせに、勝手に席を勧める大志にイラついた。
それでも既に相手が目の前にいるのにムッとしているわけにもいかず、軽く頭を下げて食事を再開する。
「冬馬、4年生の京子さんと山崎さん。この山崎さんは先日の二次募集でロースクールに合格したばかりなんだぜ」
「えっ、ロースクールに!? 」
思わず箸を持つ手を止めて目の前の女子を見ると、彼女は『その通り』と言うようにニコッとしながら頷いた。
法科大学院、所謂ロースクールは司法試験の受験資格を得るための登竜門で、俺も再来年の入学を目指している。
山崎さんは現在法学部4年で、ロースクールへの進学を早々に決めた才女だった。
ーーそうか、だから大志は彼女達に声を掛けたのか。
さすが大志、先輩のアドバイスを俺にも聞かせてくれようとしてくれたんだな。
持つべきものは、顔が広い親友だ。
「えっ、進学するんだ。合格おめでとうございます。試験はどうでしたか?」
「そうね……法的三段論法をしっかりマスターして、いかに早く頭の中で組み立てるかが……。日野くん……だったわよね ? 敬語は必要ないから、普通に話してくれて構わないわよ」
ついさっきイラついてしまった自分を反省しつつ、アドバイスをくれると言う山崎さんとメアドを交換した。
これが後々面倒な事になるだなんて思いもせず。
*・゜゚・*:.。..。.:* .。.・**・゜゚・*:.。..。 .。.:*・゜゚・*
お久しぶりです。
ご無沙汰しておりました、田沢みんです。
久々の更新は『特別番外編』としてクリスマスシーズンのお話。
『プレゼントを買いに』全5話と『誕生日のおねだり』全4話の計9話です。
side大志で出てきたクリスマスプレゼントのお話の冬馬目線という感じです。
この特別編の何が特別かと言いますと、本作の書籍化記念!だからです。
はい。『第13回 恋愛小説大賞』での奨励賞受賞により、有難いことに現在エタニティレーベルで書籍化作業が進行中です。
詳しくは近況ボードの方でまた改めてご報告させていただきますが、まずはこの作品を追い掛けて下さった読者の皆様への御礼が最優先だと思い、こちらで先にご報告させていただきました。
尚、書籍化が正式に決定致しますと、10月20日中にWebから本編引き下げとなります。
番外編は大丈夫とのことですので、side大志及びボストンのお話などは引き続きお楽しみいただけます。
タイトルも変更になりますが、どうかオリジナルの『兄の遺言』を覚えていてあげて下さい。
応援して下さった皆様、本当に本当に、ありがとうございました。
まずは感謝を込めて、少し時期が早いですが、クリスマスシーズンの特別番外編。
お楽しみ頂ければ幸いです。
田沢みん
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広々としたエントランスに足を踏み入れた途端、俺は自分の場違い感に慄いた。
白を基調とした品のある内装と広々としたアトリウム。足元の床は大理石。
エレガントで高級感溢れる空間は、クリスマスシーズンの喧騒を尻目に、ゆったりとした空気を醸し出している。
有名ブランドの店が立ち並ぶ銀座の大通り。
その中でも一際目を引く9階建ての建物に、そのアクセサリーショップはあった。
男1人で訪れるには勇気を要する……そう思っていたけれど、店内を見渡してみると、思った以上に男性客が多くて逆に驚く。
ーーそうか、みんな俺と同じ目的か。
「いらっしゃいませ。今日はどのような品をお求めですか?」
上品な営業スマイルで近づいて来た女性スタッフに、彼女が色んな客から何度も聞かされているであろう台詞を吐いた。
「クリスマスプレゼントを買いに……」
結婚して初めてのクリスマスは、思い切りロマンチックにしようと決めていた。
高級ホテルのレストランで食事をしたら、そのままスイートルームで甘い夜を過ごす。
桜子へのプレゼントはアクセサリーだ。どうせ贈るなら身に付けるものがいい。
指輪は結婚する時に渡したばかりだから、違うものがいいだろう。ピアスは大志が贈ったものを愛用しているから被らない方がいい。
ーーだとすると……ネックレスか。
慌てて5月の誕生石を調べたらエメラルドだった。
サイトの写真を見て納得する。そういえば桜子のピアスがこんな色だ。大志はちゃんと誕生石を知ってたんだな。マメなアイツらしい。
ーーうん、深い緑色は桜子のイメージにピッタリだ。
夫婦になって最初のクリスマスプレゼントは、エメラルドを使ったネックレス。そう決めた。
店員に予算を聞かれて「特に無い」と答えたら、ニコニコしながら中央のガラスのショーケース前に案内される。
「こちらは当店で人気のコレクションで……」
「あっ、コレがいいです」
詳しい説明を聞く前に、もう決めていた。
ガラスケースを覗いた瞬間に目に飛び込んで来たのは、丸い緑の石の周囲を小さなダイヤが囲んでいるネックレス。
「お目が高いですね。こちらのペンダントは中央の石が0.3カラットのエメラルドで、周りにあるのがブリリアントカットのダイヤモンド0.09カラットとなります。チェーンはプラチナで……」
「これを下さい。クリスマスギフト用の包装で」
アクセサリーに詳しくない俺には何カラットとか言われても価値が分からない。
第一、店員にペンダントと言われたけれど、これはネックレスでは無いのか ? どう違うんだ。難解すぎる。
いずれにせよ、これが桜子に似合う事だけは確実だ。絶対にこれがいいと思った。
だから自分が思っていたよりも一桁多い値段を告げられても、躊躇せずに財布からカードを取り出す。
これを桜子が身に付ける姿を想像したら、楽しみでしか無い。
ーー俺も成長したもんだな……
店を出てクリスマスカラーで溢れ返る通りを歩きながら、ふと何年も前のクリスマスシーズンのことを思い出した。
ーーあの時は何を買えばいいか分からなくて悩みまくったけれど……
まだまだ若くてお金も無かった学生時代。
桜子への想いも自覚していなかった21歳の俺の……俺と大志の青臭い思い出だ。
そう、あれは大学に入って三度目の冬。クリスマスが目前に迫った12月中旬の事だった。
*
「あっ、京子さん!」
大学のカフェテリアで俺と並んで牛丼を食べていた大志が、急に片手を上げて知らない名前を呼んだ。
その目線を追うと、入り口のあたりでキョロキョロしている女性2人組に辿り着く。
2人は大きく手を振っている大志に気付くと、パアッと表情を明るくしてこちらに歩いて来た。
「今からお昼? ここに座れば?」
「えっ、いいの? それじゃお言葉に甘えて」
大志が目の前の席を手で示すと、2人はトレイを運んできていそいそと腰掛ける。
ーーおいおい、俺には拒否権ナシかよ。
俺が女子に付き纏われるのが苦手だって知っているくせに、勝手に席を勧める大志にイラついた。
それでも既に相手が目の前にいるのにムッとしているわけにもいかず、軽く頭を下げて食事を再開する。
「冬馬、4年生の京子さんと山崎さん。この山崎さんは先日の二次募集でロースクールに合格したばかりなんだぜ」
「えっ、ロースクールに!? 」
思わず箸を持つ手を止めて目の前の女子を見ると、彼女は『その通り』と言うようにニコッとしながら頷いた。
法科大学院、所謂ロースクールは司法試験の受験資格を得るための登竜門で、俺も再来年の入学を目指している。
山崎さんは現在法学部4年で、ロースクールへの進学を早々に決めた才女だった。
ーーそうか、だから大志は彼女達に声を掛けたのか。
さすが大志、先輩のアドバイスを俺にも聞かせてくれようとしてくれたんだな。
持つべきものは、顔が広い親友だ。
「えっ、進学するんだ。合格おめでとうございます。試験はどうでしたか?」
「そうね……法的三段論法をしっかりマスターして、いかに早く頭の中で組み立てるかが……。日野くん……だったわよね ? 敬語は必要ないから、普通に話してくれて構わないわよ」
ついさっきイラついてしまった自分を反省しつつ、アドバイスをくれると言う山崎さんとメアドを交換した。
これが後々面倒な事になるだなんて思いもせず。
*・゜゚・*:.。..。.:* .。.・**・゜゚・*:.。..。 .。.:*・゜゚・*
お久しぶりです。
ご無沙汰しておりました、田沢みんです。
久々の更新は『特別番外編』としてクリスマスシーズンのお話。
『プレゼントを買いに』全5話と『誕生日のおねだり』全4話の計9話です。
side大志で出てきたクリスマスプレゼントのお話の冬馬目線という感じです。
この特別編の何が特別かと言いますと、本作の書籍化記念!だからです。
はい。『第13回 恋愛小説大賞』での奨励賞受賞により、有難いことに現在エタニティレーベルで書籍化作業が進行中です。
詳しくは近況ボードの方でまた改めてご報告させていただきますが、まずはこの作品を追い掛けて下さった読者の皆様への御礼が最優先だと思い、こちらで先にご報告させていただきました。
尚、書籍化が正式に決定致しますと、10月20日中にWebから本編引き下げとなります。
番外編は大丈夫とのことですので、side大志及びボストンのお話などは引き続きお楽しみいただけます。
タイトルも変更になりますが、どうかオリジナルの『兄の遺言』を覚えていてあげて下さい。
応援して下さった皆様、本当に本当に、ありがとうございました。
まずは感謝を込めて、少し時期が早いですが、クリスマスシーズンの特別番外編。
お楽しみ頂ければ幸いです。
田沢みん
応援ありがとうございます!
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