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<< ボストン旅行記 >>

3、ジョン

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 午後2時過ぎのローガン・エアポートは、到着した飛行機の乗客を待つ人々でごった返していた。

 日航機の到着直後だけあって、出口を見つめながら取り囲んでいる人も黒髪のアジアンが多いように思える。日本語らしき文字が書かれたウエルカム・ボードを掲げている人もちらほら見られた。

「ジョン、私たちもウェルカム・ボードを持って来れば良かったかしら」

 メアリーは、人混みを避けて少し後ろの方に立っている私たちに桜子たちが気付かないのでは……と心配しているようだ。

「大丈夫だよ。こちらからはちゃんと見えているし、それに彼らはビジネスクラスで来るんだろう? 他の乗客よりも先に出てくるはずだから見つけやすいはずだ」

「そうだといいけれど……」

 そんな会話をしながら出口を見つめていたけれど、メアリーの心配は杞憂きゆうに終わった。
 ドアが開いてスーツケースを持った人が次々と吐き出されて来る中で、モデルのような佇まいのその2人は、一際ひときわ目立って皆の注目を浴びていたから。

ーーということは、桜子の隣にいる彼がトウマか……。

 大きなシルバーのスーツケースを引っ張りながら堂々とした足取りで歩いて来る男性は、日本人にしては背が高く、ギリシャ彫刻のように彫りの深い整った顔立ちをしていた。

 タイシも整った顔をしていたが、彼はどちらかというと中性的で綺麗という表現がピッタリだった。
 対してトウマは美しくありながら男性的でガッチリした身体つき。これなら肉体美を重要視するアメリカ人女性から見ても、十分に魅力的でモテるに違いない。

「なるほど、美男美女とはこういう事を言うんだな……」

 そんな事をぼんやり考えていたら、キョロキョロと辺りを見渡していたサクラと目が合った。

「サクラ!」

 隣でメアリーが大きく手を振ると、ペパーミントグリーンのキャリーケースを引いたサクラがニッコリしながら歩いてくる。
 私はその後からゆっくりついて来るトウマが気になってそちらばかりを見ていたが、彼の方も真っ直ぐに私を見つめ返してきた。
 強い意志を秘めた猫のような瞳が、とても理知的で魅惑的だ……と思った。

ーーさあタイシ、君が認めた『最高の男』とやらを見極めさせてもらうよ。



「さあ、遠慮なく食べてちょうだいね」

 日本からの客人のためにメアリーが用意した料理は、ローストビーフにシェパーズパイ、チリビーンスープにシーザーサラダなどなど、感謝祭サンクスギビング並の豪華さだった。

「わあ、ジョンのローストビーフ、久しぶり!」
「えっ、この料理をジョンが?」

 大きな塊肉をじっくり焼くローストビーフは男の料理だ。ちなみに秋の感謝祭に焼くターキーの丸焼きも力仕事だから男の役目と決まっている。

 サクラの隣で驚いているトウマにそう説明してやると、「俺にもローストビーフのレシピを教えて下さい。日本に帰ったら桜子のために作ってあげたい」と彼女に微笑みかけた。

 これはかなりゾッコンなようだ。まあ結婚半年ではまだ新婚と言ってもおかしくはないからな……。

 ボストン行きを10月のこの時期に決めたのはトウマだったという。
 仕事の都合なんかもあったのだろうが、一番の理由は、タイシが来ていたのと同じ時期に同じ景色を見たかったからなんじゃないだろうか……と推測している。
 私に嫉妬するほど固い友情で結ばれていた2人なんだ。いろいろ思うところがあるのだろう。

 まあ、その辺りもおいおい本人から聞けばいい。今夜は2人ともこの家に泊まって行くんだ。話す時間は十分にある。


 バタン!

 4人が席についたところで勢いよくドアが開き、久し振りに見る息子が満面の笑みでサクラを見つめた。

「サクラ!」
「あっ、ジョセフ!」

 ジョセフは大股で歩いて来ると、「会いたかった~!」とサクラに勢いよくハグをした。

 すると隣で呆気に取られていたトウマがすぐにハッとした表情になり、片手でジョセフの手を引き剥がしながら、サクラの腰をグイッと抱き寄せた。

「失礼、日本人の挨拶は握手しながらで、あまりハグはしませんので……」

ーーおお、これは面白い。

 初対面の印象は落ち着いていてあまり表情を崩さないクールガイだと思ったが、サクラに関しては熱くなるのか。

 同じようにサクラのこととなると必死になっていたタイシを思い出した。
 ジョセフがサクラにゾッコンだという話をしたら、点滴が抜けそうな勢いで『No way! (とんでもない!)』と怒っていたな……。

ーー同じ女性を愛した親友同士、反応も似るということなのか……。


「タイシ、こいつは次男のジョセフだ。ボストンのメディカルスクールに通っていて、今はアパートで1人暮らしをしている。今日はサクラが来ると聞いて飛んで来たんだ」

「ジョセフです、初めまして」
「初めまして、サクラの夫のトウマです」

 改めて5人でテーブルを囲み、食事を始める。

「僕はサクラの大ファンだったんですよ。決まった男性はいないと聞いていたからアプローチしたんですけど、あっさり振られちゃいました」

 ジョセフの話を聞いてトウマの眉がピクリと動いた。

ーーうん、実に面白い。

 私は食事中も、早くトウマと2人きりになりたくて仕方がなかった。
 早く2人になりたい。ゆっくりタイシの話をしたい……。



「……それじゃトウマ、そろそろ2人で……どうかな?」

 食事も雑談もあらかた終わった頃、私がグラスをあおるジェスチャーをしながら目配せすると、トウマも「そうですね、そろそろ行きますか」と頷いた。

 メアリーには、食事が終わったらトウマと2人で飲みに行くと前もって伝えてある。

「桜子、俺はジョンさんと大志の思い出の店で飲み直すから、君はメアリーさんとゆっくり思い出話をしてて。疲れたら先に寝ててくれればいいから」
「はい、行ってらっしゃい」


 私の車の助手席でシートベルトを締めながら、トウマが「よろしくお願いします」と表情を引き締めた。

「ああ、それじゃあ行こう」

 タイシとの『思い出の店』へ……。
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