144 / 177
<< ボストン旅行記 >>
3、ジョン
しおりを挟む午後2時過ぎのローガン・エアポートは、到着した飛行機の乗客を待つ人々でごった返していた。
日航機の到着直後だけあって、出口を見つめながら取り囲んでいる人も黒髪のアジアンが多いように思える。日本語らしき文字が書かれたウエルカム・ボードを掲げている人もちらほら見られた。
「ジョン、私たちもウェルカム・ボードを持って来れば良かったかしら」
メアリーは、人混みを避けて少し後ろの方に立っている私たちに桜子たちが気付かないのでは……と心配しているようだ。
「大丈夫だよ。こちらからはちゃんと見えているし、それに彼らはビジネスクラスで来るんだろう? 他の乗客よりも先に出てくるはずだから見つけやすいはずだ」
「そうだといいけれど……」
そんな会話をしながら出口を見つめていたけれど、メアリーの心配は杞憂に終わった。
ドアが開いてスーツケースを持った人が次々と吐き出されて来る中で、モデルのような佇まいのその2人は、一際目立って皆の注目を浴びていたから。
ーーということは、桜子の隣にいる彼がトウマか……。
大きなシルバーのスーツケースを引っ張りながら堂々とした足取りで歩いて来る男性は、日本人にしては背が高く、ギリシャ彫刻のように彫りの深い整った顔立ちをしていた。
タイシも整った顔をしていたが、彼はどちらかというと中性的で綺麗という表現がピッタリだった。
対してトウマは美しくありながら男性的でガッチリした身体つき。これなら肉体美を重要視するアメリカ人女性から見ても、十分に魅力的でモテるに違いない。
「なるほど、美男美女とはこういう事を言うんだな……」
そんな事をぼんやり考えていたら、キョロキョロと辺りを見渡していたサクラと目が合った。
「サクラ!」
隣でメアリーが大きく手を振ると、ペパーミントグリーンのキャリーケースを引いたサクラがニッコリしながら歩いてくる。
私はその後からゆっくりついて来るトウマが気になってそちらばかりを見ていたが、彼の方も真っ直ぐに私を見つめ返してきた。
強い意志を秘めた猫のような瞳が、とても理知的で魅惑的だ……と思った。
ーーさあタイシ、君が認めた『最高の男』とやらを見極めさせてもらうよ。
「さあ、遠慮なく食べてちょうだいね」
日本からの客人のためにメアリーが用意した料理は、ローストビーフにシェパーズパイ、チリビーンスープにシーザーサラダなどなど、感謝祭並の豪華さだった。
「わあ、ジョンのローストビーフ、久しぶり!」
「えっ、この料理をジョンが?」
大きな塊肉をじっくり焼くローストビーフは男の料理だ。ちなみに秋の感謝祭に焼くターキーの丸焼きも力仕事だから男の役目と決まっている。
サクラの隣で驚いているトウマにそう説明してやると、「俺にもローストビーフのレシピを教えて下さい。日本に帰ったら桜子のために作ってあげたい」と彼女に微笑みかけた。
これはかなりゾッコンなようだ。まあ結婚半年ではまだ新婚と言ってもおかしくはないからな……。
ボストン行きを10月のこの時期に決めたのはトウマだったという。
仕事の都合なんかもあったのだろうが、一番の理由は、タイシが来ていたのと同じ時期に同じ景色を見たかったからなんじゃないだろうか……と推測している。
私に嫉妬するほど固い友情で結ばれていた2人なんだ。いろいろ思うところがあるのだろう。
まあ、その辺りもおいおい本人から聞けばいい。今夜は2人ともこの家に泊まって行くんだ。話す時間は十分にある。
バタン!
4人が席についたところで勢いよくドアが開き、久し振りに見る息子が満面の笑みでサクラを見つめた。
「サクラ!」
「あっ、ジョセフ!」
ジョセフは大股で歩いて来ると、「会いたかった~!」とサクラに勢いよくハグをした。
すると隣で呆気に取られていたトウマがすぐにハッとした表情になり、片手でジョセフの手を引き剥がしながら、サクラの腰をグイッと抱き寄せた。
「失礼、日本人の挨拶は握手しながらで、あまりハグはしませんので……」
ーーおお、これは面白い。
初対面の印象は落ち着いていてあまり表情を崩さないクールガイだと思ったが、サクラに関しては熱くなるのか。
同じようにサクラのこととなると必死になっていたタイシを思い出した。
ジョセフがサクラにゾッコンだという話をしたら、点滴が抜けそうな勢いで『No way! (とんでもない!)』と怒っていたな……。
ーー同じ女性を愛した親友同士、反応も似るということなのか……。
「タイシ、こいつは次男のジョセフだ。ボストンのメディカルスクールに通っていて、今はアパートで1人暮らしをしている。今日はサクラが来ると聞いて飛んで来たんだ」
「ジョセフです、初めまして」
「初めまして、サクラの夫のトウマです」
改めて5人でテーブルを囲み、食事を始める。
「僕はサクラの大ファンだったんですよ。決まった男性はいないと聞いていたからアプローチしたんですけど、あっさり振られちゃいました」
ジョセフの話を聞いてトウマの眉がピクリと動いた。
ーーうん、実に面白い。
私は食事中も、早くトウマと2人きりになりたくて仕方がなかった。
早く2人になりたい。ゆっくりタイシの話をしたい……。
「……それじゃトウマ、そろそろ2人で……どうかな?」
食事も雑談もあらかた終わった頃、私がグラスをあおるジェスチャーをしながら目配せすると、トウマも「そうですね、そろそろ行きますか」と頷いた。
メアリーには、食事が終わったらトウマと2人で飲みに行くと前もって伝えてある。
「桜子、俺はジョンさんと大志の思い出の店で飲み直すから、君はメアリーさんとゆっくり思い出話をしてて。疲れたら先に寝ててくれればいいから」
「はい、行ってらっしゃい」
私の車の助手席でシートベルトを締めながら、トウマが「よろしくお願いします」と表情を引き締めた。
「ああ、それじゃあ行こう」
タイシとの『思い出の店』へ……。
10
お気に入りに追加
1,589
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ヤクザと私と。~養子じゃなく嫁でした
瀬名。
恋愛
大学1年生の冬。母子家庭の私は、母に逃げられました。
家も取り押さえられ、帰る場所もない。
まず、借金返済をしてないから、私も逃げないとやばい。
…そんな時、借金取りにきた私を買ってくれたのは。
ヤクザの若頭でした。
*この話はフィクションです
現実ではあり得ませんが、物語の過程としてむちゃくちゃしてます
ツッコミたくてイラつく人はお帰りください
またこの話を鵜呑みにする読者がいたとしても私は一切の責任を負いませんのでご了承ください*
逃げられるものならお好きにどうぞ。
小花衣いろは
恋愛
「俺、お姉さんのこと気にいっちゃった」
声を掛けてきたのは、不思議な雰囲気を纏った綺麗な顔をした男の子。
常識人かと思いきや――色々と拗らせた愛の重たすぎる男の子に、気に入られちゃったみたいです。
「黒瀬くんと一緒にいたら私、このまま堕落したダメ人間になっちゃいそう」
「それもいいね。もう俺なしじゃ生きていけない身体になってくれたら本望なんだけどな」
「……それはちょっと怖いから、却下で」
「ふっ、残念」
(謎が多い)愛情激重拗らせ男子×(自分に自信がない)素直になれないお姉さん
――まぁ俺も、逃す気なんて更々ないけどね。
※別サイトで更新中の作品です。
2024.09.23~ こちらでは更新停止していましたが、ゆるゆると再開します。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。