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<< 外伝 水口麻耶への手紙 >>
1、八神大志からの手紙
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水口麻耶様
お久しぶりです……って言うのも可笑しいかな。 あなたがこの手紙を読んでいる時には、既に僕はこの世にいないんだから。
だけど、しばらく会っていないのは確かだろうから、やっぱりこの書き出して始めさせてもらいます。
まず最初に。
水口さん、八神法律事務所に来てくれて本当にありがとう。
出会いのきっかけは決して好ましいものでは無かったけれど、あの日あなたと巡り逢えた事は、僕と事務所にとっては大きな僥倖でした。
あなたが来てくれたお陰で男2人のむさ苦しい事務所が華やいだのは勿論のこと、事務処理にスケジュール管理、クライアントへの対応など、あなたの持つ秘書としてのスキルは僕の期待以上のもので、僕も日野も大いに助けられました。
水口さんもご存知の通り、僕は末期癌でもうすぐこの世からいなくなります。
病気を患ってからというもの、事務所の代表としての役目を十分に果たせず、又、度々日野を呼び出しては仕事を滞らせ、大変ご迷惑をおかけしました。
水口さん自身にも、お見舞いや差し入れ、そして送迎と、何かとお世話になり感謝しかありません。
そんな風に並々ならぬお世話になり、迷惑をかけ続けてきたあなたに、このうえ更なるお願いをすることは大変心苦しいのですが、志半ばで命を全うできずにこの世を去る者の最期の願いだと思って、ここから先の言葉を聞き入れていただければ幸いです。
まず1つ目。妹の桜子を、あなたのような立派な秘書になれるよう教育してやって欲しいのです。
以前お話したように、桜子は幼い頃に受けた虐待と家庭環境のせいで自分に自信がなく、他人との付き合いに消極的なところがあります。
とても聡明な子で、能力も実力もあるはずなのに、それを自ら封じ込めてしまっているのです。
僕の入院生活中に最低減の事は教えたし、桜子はそれをしっかりと吸収出来ているはずです。だけどそれを活かす術をあいつは知らない。
お願いです。どうか水口さんの手でそれを引き出してやってもらえないだろうか。
そして出来ることなら、自分に自信を持ち、顔を上げ、胸を張って堂々と仕事と向き合えるよう、導いてやって欲しいのです。
どうかあいつの力を花開かせてやって下さい。
そして2つ目。
上にも書いた通り、桜子は過去の体験から暴力行為にトラウマがあり、今でも大声や怒声への拒絶反応が見られます。
決して水口さんの過去を否定するつもりはないけれど、あなたと息子さんが経験してきた事は、桜子が辛い出来事を思い出すきっかけに十分なり得るでしょう。
彼女の心を守るためにも、最初に交わした約束を今後も守っていただけますよう、くれぐれもよろしくお願い致します。
そしてこれが最後のお願いになりますが……。
水口さん、僕の葬儀の受付をあなたに引き受けてはもらえないだろうか。
僕と桜子の両親は諸事情により親戚付き合いが殆どなく、数少ない親族は残念ながら信用に値する人々では無いのです。
葬式をしないことも考えたけれど、事務所の代表が冬馬に変わった事をハッキリさせるためにも、それだけはちゃんとしておいた方が良いだろうと判断しました。
僕の勝手で迷惑をかけて申し訳ないけれど、あなたなら仕事の関係者も知り尽くしているし、上手く対応できるだろうと思う。
以上の3つが僕から水口さんへの最期のお願いです。
最後まで我が儘で身勝手な僕をどうぞお許し下さい。
出来るなら、今後は1日でも長く事務所に残り、桜子を、そして冬馬と事務所を支えてやって欲しい。
みんな僕の大切な、命よりも大切な宝物です。
どうか、どうかよろしくお願い申し上げます。
最後に。
水口さん、あなたは聡明でとても美しい人だ。
駄目ンズ好きだなんて自分で枠を作らずに、選択の幅を広げてみてはどうだろうか。
完璧で優秀に見える男にだって弱いところやだらしない部分は絶対にあるし、出来る男を更なる高みに押し上げてやるのも『育てる楽しみ』と言えると思う。
人生で1度の結婚さえ叶わなかった自分が語るような事ではないだろうけど、叶わなかったからこそ、まだまだこれからの可能性があるあなたには幸せになって欲しいと思うから。
年下の僕が生意気な事をと思われたなら、申し訳ありません。
だけど僕は、あなたと息子さんの幸福を心から願っています。
水口さん、どうか幸せになってください。
今まで本当にお世話になりました。
桜子と冬馬をくれぐれもよろしくお願いします。
どうかお元気で。
さようなら。
八神大志
----------------------------------
*・゜゚・*:.。..。.:*・ .。.:*・**・・*:.。 .。.:*・゜゚・*
お久しぶりです。
外伝 『水口麻耶への手紙』スタートです。
ここからは水口さん視点で桜子と冬馬、そして大志の姿を描いていきます。
本編や大志編と重なる部分が多々あって、しつこいと思われるかも……。
ですが思い入れの深いお話なので、自己満足ですが、全て描き切りたいと思います。
水口さん編が何話になるかは分かりませんが、それほど長くは無い予定です。
その後でジョンさん編になります。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
水口編のヒントを下さった『まるたぽんた』様、どうもありがとうございました。
水口麻耶様
お久しぶりです……って言うのも可笑しいかな。 あなたがこの手紙を読んでいる時には、既に僕はこの世にいないんだから。
だけど、しばらく会っていないのは確かだろうから、やっぱりこの書き出して始めさせてもらいます。
まず最初に。
水口さん、八神法律事務所に来てくれて本当にありがとう。
出会いのきっかけは決して好ましいものでは無かったけれど、あの日あなたと巡り逢えた事は、僕と事務所にとっては大きな僥倖でした。
あなたが来てくれたお陰で男2人のむさ苦しい事務所が華やいだのは勿論のこと、事務処理にスケジュール管理、クライアントへの対応など、あなたの持つ秘書としてのスキルは僕の期待以上のもので、僕も日野も大いに助けられました。
水口さんもご存知の通り、僕は末期癌でもうすぐこの世からいなくなります。
病気を患ってからというもの、事務所の代表としての役目を十分に果たせず、又、度々日野を呼び出しては仕事を滞らせ、大変ご迷惑をおかけしました。
水口さん自身にも、お見舞いや差し入れ、そして送迎と、何かとお世話になり感謝しかありません。
そんな風に並々ならぬお世話になり、迷惑をかけ続けてきたあなたに、このうえ更なるお願いをすることは大変心苦しいのですが、志半ばで命を全うできずにこの世を去る者の最期の願いだと思って、ここから先の言葉を聞き入れていただければ幸いです。
まず1つ目。妹の桜子を、あなたのような立派な秘書になれるよう教育してやって欲しいのです。
以前お話したように、桜子は幼い頃に受けた虐待と家庭環境のせいで自分に自信がなく、他人との付き合いに消極的なところがあります。
とても聡明な子で、能力も実力もあるはずなのに、それを自ら封じ込めてしまっているのです。
僕の入院生活中に最低減の事は教えたし、桜子はそれをしっかりと吸収出来ているはずです。だけどそれを活かす術をあいつは知らない。
お願いです。どうか水口さんの手でそれを引き出してやってもらえないだろうか。
そして出来ることなら、自分に自信を持ち、顔を上げ、胸を張って堂々と仕事と向き合えるよう、導いてやって欲しいのです。
どうかあいつの力を花開かせてやって下さい。
そして2つ目。
上にも書いた通り、桜子は過去の体験から暴力行為にトラウマがあり、今でも大声や怒声への拒絶反応が見られます。
決して水口さんの過去を否定するつもりはないけれど、あなたと息子さんが経験してきた事は、桜子が辛い出来事を思い出すきっかけに十分なり得るでしょう。
彼女の心を守るためにも、最初に交わした約束を今後も守っていただけますよう、くれぐれもよろしくお願い致します。
そしてこれが最後のお願いになりますが……。
水口さん、僕の葬儀の受付をあなたに引き受けてはもらえないだろうか。
僕と桜子の両親は諸事情により親戚付き合いが殆どなく、数少ない親族は残念ながら信用に値する人々では無いのです。
葬式をしないことも考えたけれど、事務所の代表が冬馬に変わった事をハッキリさせるためにも、それだけはちゃんとしておいた方が良いだろうと判断しました。
僕の勝手で迷惑をかけて申し訳ないけれど、あなたなら仕事の関係者も知り尽くしているし、上手く対応できるだろうと思う。
以上の3つが僕から水口さんへの最期のお願いです。
最後まで我が儘で身勝手な僕をどうぞお許し下さい。
出来るなら、今後は1日でも長く事務所に残り、桜子を、そして冬馬と事務所を支えてやって欲しい。
みんな僕の大切な、命よりも大切な宝物です。
どうか、どうかよろしくお願い申し上げます。
最後に。
水口さん、あなたは聡明でとても美しい人だ。
駄目ンズ好きだなんて自分で枠を作らずに、選択の幅を広げてみてはどうだろうか。
完璧で優秀に見える男にだって弱いところやだらしない部分は絶対にあるし、出来る男を更なる高みに押し上げてやるのも『育てる楽しみ』と言えると思う。
人生で1度の結婚さえ叶わなかった自分が語るような事ではないだろうけど、叶わなかったからこそ、まだまだこれからの可能性があるあなたには幸せになって欲しいと思うから。
年下の僕が生意気な事をと思われたなら、申し訳ありません。
だけど僕は、あなたと息子さんの幸福を心から願っています。
水口さん、どうか幸せになってください。
今まで本当にお世話になりました。
桜子と冬馬をくれぐれもよろしくお願いします。
どうかお元気で。
さようなら。
八神大志
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*・゜゚・*:.。..。.:*・ .。.:*・**・・*:.。 .。.:*・゜゚・*
お久しぶりです。
外伝 『水口麻耶への手紙』スタートです。
ここからは水口さん視点で桜子と冬馬、そして大志の姿を描いていきます。
本編や大志編と重なる部分が多々あって、しつこいと思われるかも……。
ですが思い入れの深いお話なので、自己満足ですが、全て描き切りたいと思います。
水口さん編が何話になるかは分かりませんが、それほど長くは無い予定です。
その後でジョンさん編になります。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
水口編のヒントを下さった『まるたぽんた』様、どうもありがとうございました。
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