仮初めの花嫁 義理で娶られた妻は夫に溺愛されてます!?

田沢みん

文字の大きさ
上 下
71 / 177
<< 妹と親友への遺言 >> side 大志

46、ボストンにて(1) / 再会

しおりを挟む
 
 成田発の飛行機は、ほぼほぼ予定どおりの時間にアメリカ東海岸のボストンに到着した。
 機内で気分が悪くなって強制的に途中の空港で降ろされたら嫌だな……なんて思っていたけれど、幸いそんな事態にはならず、2回程痛み止めの錠剤を飲んだだけで済んだ。

 身体のことを考えてビジネスクラスにしたためか、長時間のフライトもなかなか快適で、仕切りのある座席もゆっくり考え事をするには都合が良かった。

ーーそれでも結局自分の中で決心はつかなかったけどな。

 桜子に想いを告げるかどうか……何度考えても決めることが出来なかった。

 東京からボストンまでの13時間、小さな窓から覗く切り取ったような青い空を見つめながら、自分がどうしたいのか、どうすべきかを考えてみた。

 俺の病気を知れば、桜子は同情して付き合ってくれるだろう。泣いて縋れば全てを捧げてくれるかも知れない。だけどそんな卑怯な真似をして結ばれて、俺はその瞬間に気持ち良いと思えるんだろうか。幸せなんだろうか。

 病気を隠した状態で告白したとして……奇跡的に想いが通じ合ったとしても、この先一緒に生きてはいけない。何も知らないままの桜子を泥沼に引き摺り込むのは、それこそ卑怯で残酷だ。

「なんだよ、結局バッドエンドじゃないか」

 そう。その終わりに『死』と『別れ』が待っている以上、ハッピーエンドは有り得ない。
 どのコースを辿っても、桜子を泣かせることに変わりはないんだから。

 胸の中に葛藤を抱えたまま、それでも久しぶりに好きな女に会える喜びで胸を躍らせながら、俺は無事にボストンのローガン国際空港へと降り立ったのだった。



「お兄ちゃん!」

 懐かしくて大好きな声がした。確信を持ってそちらに顔を向けると、ロープの向こう側で乗客を待つ人波から首を伸ばして必死に手を振る桜子が見えた。

ーーアイツ、迎えに来なくてもいいって言っておいたのに……。

 そう思いながらも胸がときめき心が弾む。
 スーツケースをゴロゴロと引っ張りながら、歩く足は自然と速くなる。
 足を止めて向かい合うと、半年ぶりの桜子は相変わらず綺麗で、そして生き生きしているようだった。

 じんわりと瞼の裏が熱くなる。駄目だ、泣くんじゃない。
 この1週間は楽しい思い出づくりの時間なんだから……。

「なんだよ、迎えに来たのか」

 そう言いながらも、今の俺は絶対に口許がニヤけているに違いない。

「だってお兄ちゃんに早く会いたかったし、案内があった方がアパートに行くのも迷わないでしょ」

「そうだな……ありがとうな、桜子」
「うん」

 表の通りに向かう途中、桜子が顔を覗き込みながら次々と話し掛けてくる。コイツ浮かれてるな。まあ俺もだけど。

「お兄ちゃんに言われた通り、私が行ってみたい所をピックアップしてみたけれど、本当にそれで良かったの? お兄ちゃんの希望があれば聞くよ?」

「いいんだ。お前が興味あるもので」

 前回のFaceTimeでボストン行きを伝えた時、桜子には『桜子が普段生活しているように俺も一緒に行動してみたい』というのと、『桜子が行きたいと思っていてまだ行けていない所をいくつかピックアップしておくように』と希望を出しておいた。

 桜子が住む街で、桜子が普段どんな風に生活しているかを見て、自分もそれを追体験し、共有してみたかった。
 そして桜子が今どんな事に興味を持っていて、それを体験した時にどんな反応をするのかも見てみたかった。
 桜子の初めての瞬間を一緒に味わえるなんて最高じゃないか。

「それじゃあ、まずは私の住んでるアパートに荷物を置いて、私の手料理を食べましょう。……お兄ちゃん、本当に痩せすぎ!目の下に隈もできてるし。この1週間は仕事を忘れて私と一緒にリフレッシュ期間ね。約束だよ!」

「……ああ、約束だ」

「はい、指切り。お兄ちゃん、小指を出して」

 桜子が茶目っ気たっぷりの笑顔で差し出した指に自分のそれをそっと絡める。
 目を細めて見つめ合って一緒に揺らす指が幸せだった。

 俺の残りの人生の砂時計は止まる事なくサラサラと時を刻んでいくけれど、そのうちの1週間は、紛れもなく幸せな時間だったと断言出来る。

 楽しくて苦しくて切なくて……それでもやっぱり幸せだったんだ……。
しおりを挟む
感想 399

あなたにおすすめの小説

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

元彼にハメ婚させられちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
元彼にハメ婚させられちゃいました

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

溺愛社長の欲求からは逃れられない

鳴宮鶉子
恋愛
溺愛社長の欲求からは逃れられない

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。