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<< 妹と親友への遺言 >> side 大志
34、火傷事件 (3)
しおりを挟む「それではお先に失礼します。今夜は7時スタートでしたよね?」
「ああ、冬馬に案内させるから、駅から一緒に来てよ」
「分かりました。それではまた後で~!」
午後5時ぴったりに家に帰って行く水口さんを見送ってから、俺はデスクでパソコンに向かっている冬馬に向き直る。
「……という事なんで、今日の歓迎会は午後7時に駅で水口さんと合流して一緒に来てくれ」
「了解。ワインでも買って行こうか?」
「飲み物は俺が買っておいたから大丈夫だし、料理は桜子が『任せて』って言ってた。だけど……そうだな、駅前の店でケーキを買ってきてくれないか?余った分は水口さんの息子さん用に持って帰って貰うから、彼女に選んでもらうといい」
「分かった。……でも、本当にお前んちで良かったのか? 水口さんと桜子ちゃんをゆっくり会わせたら、家族の話になった時、誤魔化せなくなるぞ」
「どうせ桜子が事務所で働くようになったら顔を合わせるんだ、今から慣れておいた方がいいだろう? 桜子から家族の話題を出すことは、まず無い。水口さんがボロを出しそうになった時にはお前がフォローしてくれよ」
「……分かった」
「……冬馬、今夜が楽しみだな」
「ああ……うん、そうだな、楽しみだ」
再びパソコンに視線を戻した冬馬の横顔を盗み見る。そこに柔らかい微笑みが浮かんでいるのを認めると、少し胸がチリッとした。
ーーそりゃあ楽しみだろうな。桜子に会うのは久しぶりだもんな、冬馬。
水口さんの歓迎会をうちでやろうと言い出したのは俺だった。
桜子だってうちの事務所のメンバーなんだから、一緒に楽しむ権利があるだろう。俺たちが楽しく宴会をしてる間に桜子だけ1人で寂しく食事なんてさせたくなかった。
それに、冬馬と水口さんが揃って現れた時の桜子の反応を見てみたい……という意地悪い気持ちもあった。最低な兄貴だな。
「それじゃ、また後でな」
クライアントを待っている冬馬を置いて一足先に事務所を出ると、俺は桜子の待つアパートへと帰って行った。
「お兄ちゃん、お帰りなさい。冬馬さんと水口さんは?」
「ああ、後から2人揃って一緒に来るってさ」
途端に桜子の表情が翳るのを見て、ああ、可哀想な事をしたな……とは思ったけれど、これで少しでも冬馬と水口さんの仲を疑ってくれたらいいのに……という思いの方が強かった。
少し焦っていたのかも知れない。今日これから桜子と冬馬が顔を合わせるのだと思うと、自分でそう仕向けたくせに、なんだか落ち着かない。
桜子に言われるままにダイニングテーブルに食器を並べていたら、午後7時を10分ほど過ぎて、冬馬と水口さんが到着した。
俺が頼んだとおり、ケーキの入った箱を持っている。
玄関で出迎えた俺が2人を先導してダイニングに戻ると、桜子がエプロンで手を拭きながらキッチンから顔を出した。
「桜子、2人が来てくれたよ。水口さんとは事務所で会ってるよね。冬馬とは……久し振りかな」
「桜子ちゃん、久し振りだね。元気だった?」
「はい、冬馬さん、お久し振りです。……水口さんも、いらっしゃい」
「ええ、桜子さん、お久し振り。今日はお招きありがとうございます」
少しぎこちない笑顔を浮かべている桜子に、俺はケーキの箱をかざして見せる。
「桜子、冬馬と水口さんがお前の好きなケーキを買ってきてくれたぞ。……水口さんが選んでくれたんだよね?」
「ええ、日野先生がこのお店がいいって教えてくれたから、そこで一緒に選んできたの。桜子さんが気に入るといいんだけど」
「ありがとうございます……冷蔵庫に入れておきますね」
ケーキの箱を持ってキッチンに向かう桜子の背中を、冬馬が目で追っている。
「じゃあ冬馬、最初はビールにするか?」
「えっ?……ああ、そうだな」
こうして微妙にぎこちなさを含んだ歓迎会が始まった。
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