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<< 妹と親友への遺言 >> side 大志

32、火傷事件 (1)

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火傷やけど事件』……と、俺が密かに呼んでいる出来事がある。
 それは俺の中では最低最悪の黒歴史で、今でも後悔していることの1つだ。

 だってそのせいで、桜子の肌に一生残る痕を残してしまったんだから……。




「えっ、うちで……歓迎会?」

 水口さんの歓迎会をうちのアパートでやりたいと思うんだけど……そう俺が告げた時の桜子の反応は、正直あまりウエルカムな感じでは無かった。

 そりゃあそうだろうな。彼女が来たことで自分はお払い箱になって、冬馬と会えなくなったんだもんな……まあ、そう仕向けたのは俺だけど。


 桜子が事務所を手伝ってくれて俺が喜んでいたのは最初のうちだけで、そのうちにイラついたり焦ったりする事が多くなっていった。

「はい、冬馬さん。コーヒーはブラックで良かったんですよね?」
「ああ、ありがとう。桜子ちゃんが淹れてくれるコーヒー……俺は好きだな」
「ありがとうございます」

 頬を赤らめて見つめ合う2人。イラッとくる。


 クライアントが来るとバッとスーツの襟を整えて、颯爽と応接室へ向かう冬馬。
 男の俺でも見ていて惚れぼれするけれど、桜子、お前は駄目だ。そんなのを見ちゃったらもっと惚れちゃうだろ!なんだよお前、目がハート型になってるじゃん。
『行ってきます』って、冬馬、なに振り向いて爽やかに言ってんだよ。すぐそこの応接室に行くだけだろうがっ!


 事務所で一緒に過ごす時間が増えて、2人の距離が徐々に近くなっていくのを見るにつれ、俺の中の焦りと嫉妬心も増幅していった。

 そんな時に雇うことになった水口さんは、俺にとっては格好の駒になった。

 そう、こんな言い方をするのは失礼だと百も承知で言わせてもらう。
 水口さんは桜子と冬馬の仲を妨害するために使い勝手がいい、優秀な駒だった。



「水口さん、あきらくんは元気? もう夜泣きはしてない?」

「最近は落ち着いてきたんですよ。やっぱり母親の私が精神的に落ち着いたのが分かるんでしょうね。やっぱり綺麗さっぱりクズ夫と別れて良かったです」

 最初は水口さんを雇うことに反対していた冬馬も、それが桜子のためになると受け入れてからは、逆に水口さんに友好的に接するようになっていた。
 実際一緒に働いてみれば彼女は高給を支払っても当然と思えるほど優秀だったし、そのキッパリさっぱりした性格は男友達と話しているようで気持ちが良かった。

 彼女の息子さんを母子家庭だった自分と重ねたのか、冬馬は水口さんの息子の彬くんのことを何かと気にかけて、彼の誕生日には絵本を買って水口さんに持たせたりもしていた。

 気さくに話している2人を見て、俺はふと思った。

ーーアイツら付き合っちゃえばいいのに……。

「あっ……」

 何気なく頭に浮かんだその考えが、自分の中でどんどん膨れ上がっていくのが分かった。

ーーそうだよ。アイツらが付き合えば全部丸く収まるんだよ。

 自分勝手な理想と解釈。
 冬馬が好きなのは桜子で、水口さんには彼氏がいる。
 だけどそんなの俺には関係なかった。

 俺が上手く立ち回って2人が付き合うことになれば万々歳だし、付き合わなかったとしても、水口さんの存在が桜子と冬馬を遠ざけてくれるかも知れない。

 山崎さんの件で懲りていたはずなのに、冬馬は親友なのに……。

 やっぱり俺は、自分の気持ちを優先させる、自己中の卑怯者だった。
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