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<< 妹と親友への遺言 >> side 大志
24、妹の成人式
しおりを挟む両親が亡くなったのが年末だったから、既に出してあった年賀状が全部無駄になり、忌中の挨拶状を新たに準備したり葬儀の手配をしたりと、例年以上に忙しい年末年始となった。
冬馬は家に泊まり込んで身内のように手伝いをしてくれて、初めてのことで狼狽えている俺に事細かくアドバイスをくれた。
さすが母親と祖母の2回も葬儀を経験しているだけあるな……と感心すると同時に、冬馬は俺よりも若い頃にこんなキツい経験を2回もしているんだな……と思うと、コイツの落ち着いた所や思慮深いところは、こういう所から来ているのかもな……なんて考えた。
そんな中、先に控えた成人式に、桜子が参加しないと言い出した。
「だって喪中だし、そんな華やかな場所には行けないよ」
冗談じゃない。一生に一度の大事な行事を欠席させてたまるものか。桜子には、世間一般の人が経験すべき事は全部させてやりたいし、父さんたちだって絶対にそう思っているはずだ。
親がいないからって惨めな思いは絶対にさせたくないし、俺の力不足で不安にさせたり遠慮もさせたくない。
「馬鹿野郎! 世間の常識だとか人の目とかは関係ない! 一生に一度の事なんだ。 成人になったケジメのお祝いをちゃんとさせてくれよ。 父さんたちだって天国でお前の振袖姿を楽しみにしているはずだから」
そう必死で説得すると、成人式に出席することには渋々了承したけれど、今度は着物は着ない。スーツでいいと言い出す。
「たった数時間しか着ないのに勿体ない。そんな物にお金をかけるくらいなら、これからの生活のために節約した方がいいよ」
「そんなの俺が嫌だ。お前の振袖姿の写真を仏壇から見えるように飾れなければ、俺は親に顔向けできない。絶対に振袖だ」
「……分かったよ、それじゃあレンタルする」
「買う。お前、母さんが旅行から帰ったらその翌日に百貨店で振袖を買う事になってただろ。あの時に見てたパンフレットを持って来い。今から買いに行くぞ」
強引に百貨店に連れて行くと、漸く観念して着物選びを始めた。やはり女の子だ。華やかな振袖や帯に囲まれているうちに表情が生き生きしてきて、「お兄ちゃん、どっちがいいと思う?」なんて聞いてきたりした。
「う~ん、俺はこっちの方が桜子のイメージかな」
「やっぱり? 実は私もそう思ってたの」
パンフレットで目星をつけていた、水色に流水紋や牡丹が描かれた振袖は、実際に合わせてみると桜子には幼すぎるように感じた。
2人の意見が一致して、朱地に桜の花が描かれた絞り刺繍の振袖を買い求めた。
「兄妹の写真があった方がいいだろう? 俺が撮ってやるよ」
そう言って、成人式の日には冬馬も家に来た。
ーーなんだかんだ理由をつけて桜子の振袖姿を見たかっただけなくせに。
そう思ったけれど、桜子の大切な日だ。祝ってくれる人間は多い方がいい。
それに……悔しいけれど、桜子だって冬馬に振袖姿を見て欲しいだろう。
俺は桜子が好きだし独占したいけど、その前にお兄ちゃんとして、桜子の喜ぶ顔が見たいんだ。
そのためなら嫉妬の感情を押し殺してライバルにだって塩を送るさ。
美容院から戻って来た桜子は、まさしく桜の精か天女かと見間違うくらい美しかった。
冬馬も見惚れてボケ~っとしていたけれど、俺が「カメラマン、働けよ」とすねを蹴ってやったら、慌てて連写を始めた。
そんなに沢山撮ってどうするんだよ、売るのかよ!ってくらいカシャカシャ連写しまくっていたから、後で1人になってからジッと眺めてはニヤニヤするんだろうな。バカヤロウ。
会場まで俺の車で一緒に送って行き、 助手席のドアを開けて従者のように 傅いてそっと手を取る。
「お兄ちゃん、冬馬さんもありがとう。もうここまででいいから」
「折角だから入口まではエスコートするよ」
「え~っ!ここまででいいよ。2人が一緒にいると目立って仕方がないもの。後はお迎えの時間に来てくれればいいから」
胸の前で大袈裟に手を振って嫌がる桜子の手を無理やり掴むと、
「桜子の晴れ舞台くらい兄ちゃんにエスコートさせてくれよ。ほら冬馬、お前はそっち側だ」
反対側の冬馬に声を掛ける。
「おう。……お嬢様、お手をどうぞ」
冬馬が恭しく右手を差し出すと、桜子が頬を染めて照れながら、そこにちょこんと指先を乗せた。
ーークソ冬馬、格好つけやがって。
そう思いながらも、この2人を両側に従えて行けば、今日の主役は桜子で決定だと誇らしくもあった。
せっかく親が、『アイドルみたい』と周囲から言われるような整った顔に産んでくれたんだ。
この顔を今使わずしていつ使う。
2人で両側から恭しくエスコートし、 会場の入り口まで付き添うと、先に会場に入っていた成人どもが男女問わずこちらを見てザワついた。
「キャー」とか「カッコいい」とか「モデル?」とか言って、勝手に写真まで撮っている。
「お兄ちゃん、冬馬さん、本当にありがとう。行ってきます」
「「行ってらっしゃい」」
会場に入っていった桜子は、たちまち地元の友人たちに取り囲まれている。
みんなでこちらをチラチラ見ては騒いでいるから、俺たちのことが話題に上っているんだろう。
「冬馬、 桜子のために目一杯愛想を振りまくぞ」
「ああ、 分かってる」
2人でアイドルばりに目一杯カッコつけて手を振ると、 桜子以外の女子が一斉にキャーキャー騒いで手を振り返してきた。
ーー 悪いけど、俺たちが手を振ってるのは桜子のためだから。
そう思いながら、 輪の中心で照れたように微笑んでいる桜子の姿を目に焼き付けて、 俺たちは会場を後にした。
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