48 / 177
<< 妹と親友への遺言 >> side 大志
23、両親の死
しおりを挟む両親が交通事故で亡くなった。
今でもハッキリと覚えている。12月28日の夜、雪がちらほらと散らついていた冬の寒い日だった。
父が仕事の用事で群馬県まで行くことになり、せっかくだから温泉にでもと、母も連れて1泊2日で出掛けた帰り道での貰い事故。
再婚14年目にして初めて夫婦水入らずで出掛けた旅行が最後の旅となった。
俺はその頃28歳で、大手弁護士事務所で弁護士として働いていた。桜子は地元の大学の2年生で、成人式を目前に控えて、着物は何色がいいか……なんて母親と相談していた矢先だった。
その時、俺と桜子は2人きりで夕食を食べていた。
『2人だけだから手抜きでいいよね』なんて言って宅配ピザを頼んで、向かい合ってトロトロのチーズが乗ったピザをパクついていたら、廊下で電話が鳴った。
家の電話に掛けて来るのはセールスかあまり親しくない人だけだから、「せっかくの時間を邪魔しやがって」なんて思いながら受話器を取ったら、それが警察からの電話だった。
ーー嘘だろ……!
心臓がドクンと跳ねて、全身が粟立った。
両親が事故で即死という事実はもちろん衝撃だったけれど、その時に俺がまず考えたのは、『桜子にどう伝えようか』という事だった。
だけどどんな言い方をしたって『両親の死』の事実は揺るがないし、今は一刻も早く警察署に行かなければならない。
だから俺は覚悟を決めてドアを開け、桜子の前に立った。
桜子と目が合った途端に息が苦しくなって頬が震えたけれど、深く息を吸って呼吸を整えると、
「桜子、上着を着て暖かい格好をしろ……父さんと母さんが事故に遭った」
「えっ、事故?! どうしたの?大丈夫なの?!」
「大丈夫じゃない……あのな、桜子……2人とも即死だ。今から警察に向かう」
「え………」
あの時の桜子の表情を俺は今も忘れられない。
口を開けて目を見開いて、瞬きも、呼吸さえも忘れたかのように、一切の感情をシャットダウンしたあの顔。
俺は思わずバッと抱き締めて、「俺がいるから……」そう呟いていた。
「いいか、桜子。どんな事があろうとも、桜子には兄ちゃんがいるからな。ずっと一緒だから……お前は1人じゃないからな」
印鑑や保険証、免許証など、必要だと思われる物を片っ端からカバンに詰め込むと、放心状態の桜子にダウンコートを着せてブーツを履かせ、手を引いてタクシーに乗り込んだ。
ポケットからスマホを取り出し電話を掛ける。
『父さんと母さんが事故で死んだんだ…… これから警察に行って身元確認してくる。 悪いけど桜子の様子を見ててやってもらえないか』
向こうに着いたらきっと色々な手続きで忙しくなる。こんな状態の桜子を1人には出来ないと思った。
タクシーが走り出した途端、桜子は急に感情のラインが繋がったみたいに顔を覆って泣き出した。俺は細い肩を抱きしめ、ずっと手を握っていた。
「身元確認をお願いしたいのですが、遺体の損傷が激しいので……」
遺体安置所の前で、警察の人が桜子の顔をチラッと窺いながらそう言った。
ーーああ……そういう事か。
「分かりました。まずは僕が1人で確認させてもらいます。少しだけ待っていただけますか?」
状況を察した俺は、桜子を近くにあった長椅子に座らせ、1人で警官について行った。
ーー冬馬、頼む!早く来てくれ!
アイツは俺にとってライバルだったけれど、薄ら寒い廊下で1人うな垂れている桜子を頼めるのも、やっぱりアイツしかいなかった。
事故は居眠り運転の3トントラックが車線を超えてぶつかって来たもので、特に運転席側の損傷が酷かった。
遺体を見た途端に吐きそうになったけれど、そんな事をしたら父が可哀想だと思って必死で耐えた。母親の方も相当なものだったけれど、父に比べたらまだ見れなくは無かった。
それでもやっぱり桜子には見せられなかったけれど……。
後にお棺に入れた時、顔を包帯でグルグル巻きにされていた父とは違って、母親の方は傷にガーゼを貼ったり化粧で誤魔化したりして一応顔を拝むことが出来たから、桜子は最期に自分の母親の顔だけは見ることが出来た。
父さんには悪いけど、顔がグチャグチャになったのが父さんの方で良かった……と思った。
遺体安置所での身元確認と、その後の書類作成、葬儀社の手配なんかが漸く終わって桜子の元に戻ると、薄暗い廊下の長椅子に、寄り添う桜子と冬馬の姿が見えた。
桜子が冬馬の胸に顔を埋め、その肩を冬馬が抱き締めている。
それを見た時に、自分が桜子の兄じゃなかったら、冬馬と自分が逆の立場だったら、今あそこで桜子を慰めているのは俺だったのに……そんな事を考えた。
親の死んだ時にそんな事を考えてるなんて、俺の頭は相当イカれてるな……そんな風に思いながら、俺は2人の元へと歩いて行った。
10
お気に入りに追加
1,588
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている
と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。