仮初めの花嫁 義理で娶られた妻は夫に溺愛されてます!?

田沢みん

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<< 妹と親友への遺言 >> side 大志

23、両親の死

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 両親が交通事故で亡くなった。
 今でもハッキリと覚えている。12月28日の夜、雪がちらほらと散らついていた冬の寒い日だった。

 父が仕事の用事で群馬県まで行くことになり、せっかくだから温泉にでもと、母も連れて1泊2日で出掛けた帰り道での貰い事故。
 再婚14年目にして初めて夫婦水入らずで出掛けた旅行が最後の旅となった。

 俺はその頃28歳で、大手弁護士事務所で弁護士として働いていた。桜子は地元の大学の2年生で、成人式を目前に控えて、着物は何色がいいか……なんて母親と相談していた矢先だった。

 その時、俺と桜子は2人きりで夕食を食べていた。
『2人だけだから手抜きでいいよね』なんて言って宅配ピザを頼んで、向かい合ってトロトロのチーズが乗ったピザをパクついていたら、廊下で電話が鳴った。
 家の電話に掛けて来るのはセールスかあまり親しくない人だけだから、「せっかくの時間を邪魔しやがって」なんて思いながら受話器を取ったら、それが警察からの電話だった。

ーー嘘だろ……!

 心臓がドクンと跳ねて、全身が粟立った。
両親が事故で即死という事実はもちろん衝撃だったけれど、その時に俺がまず考えたのは、『桜子にどう伝えようか』という事だった。

 だけどどんな言い方をしたって『両親の死』の事実は揺るがないし、今は一刻も早く警察署に行かなければならない。
 だから俺は覚悟を決めてドアを開け、桜子の前に立った。
 桜子と目が合った途端に息が苦しくなって頬が震えたけれど、深く息を吸って呼吸を整えると、

「桜子、上着を着て暖かい格好をしろ……父さんと母さんが事故に遭った」

「えっ、事故?! どうしたの?大丈夫なの?!」

「大丈夫じゃない……あのな、桜子……2人とも即死だ。今から警察に向かう」

「え………」

 あの時の桜子の表情を俺は今も忘れられない。
 口を開けて目を見開いて、瞬きも、呼吸さえも忘れたかのように、一切の感情をシャットダウンしたあの顔。
 俺は思わずバッと抱き締めて、「俺がいるから……」そう呟いていた。

「いいか、桜子。どんな事があろうとも、桜子には兄ちゃんがいるからな。ずっと一緒だから……お前は1人じゃないからな」

 印鑑や保険証、免許証など、必要だと思われる物を片っ端からカバンに詰め込むと、放心状態の桜子にダウンコートを着せてブーツを履かせ、手を引いてタクシーに乗り込んだ。
 ポケットからスマホを取り出し電話を掛ける。

『父さんと母さんが事故で死んだんだ…… これから警察に行って身元確認してくる。 悪いけど桜子の様子を見ててやってもらえないか』

 向こうに着いたらきっと色々な手続きで忙しくなる。こんな状態の桜子を1人には出来ないと思った。

 タクシーが走り出した途端、桜子は急に感情のラインが繋がったみたいに顔を覆って泣き出した。俺は細い肩を抱きしめ、ずっと手を握っていた。



「身元確認をお願いしたいのですが、遺体の損傷が激しいので……」

 遺体安置所の前で、警察の人が桜子の顔をチラッと窺いながらそう言った。

ーーああ……そういう事か。

「分かりました。まずは僕が1人で確認させてもらいます。少しだけ待っていただけますか?」

 状況を察した俺は、桜子を近くにあった長椅子に座らせ、1人で警官について行った。

ーー冬馬、頼む!早く来てくれ!

 アイツは俺にとってライバルだったけれど、薄ら寒い廊下で1人うな垂れている桜子を頼めるのも、やっぱりアイツしかいなかった。


 事故は居眠り運転の3トントラックが車線を超えてぶつかって来たもので、特に運転席側の損傷が酷かった。
 遺体を見た途端に吐きそうになったけれど、そんな事をしたら父が可哀想だと思って必死で耐えた。母親の方も相当なものだったけれど、父に比べたらまだ見れなくは無かった。
 それでもやっぱり桜子には見せられなかったけれど……。

 後にお棺に入れた時、顔を包帯でグルグル巻きにされていた父とは違って、母親の方は傷にガーゼを貼ったり化粧で誤魔化したりして一応顔を拝むことが出来たから、桜子は最期に自分の母親の顔だけは見ることが出来た。
 父さんには悪いけど、顔がグチャグチャになったのが父さんの方で良かった……と思った。


 遺体安置所での身元確認と、その後の書類作成、葬儀社の手配なんかが漸く終わって桜子の元に戻ると、薄暗い廊下の長椅子に、寄り添う桜子と冬馬の姿が見えた。
 桜子が冬馬の胸に顔を埋め、その肩を冬馬が抱き締めている。

 それを見た時に、自分が桜子の兄じゃなかったら、冬馬と自分が逆の立場だったら、今あそこで桜子を慰めているのは俺だったのに……そんな事を考えた。

 親の死んだ時にそんな事を考えてるなんて、俺の頭は相当イカれてるな……そんな風に思いながら、俺は2人の元へと歩いて行った。
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