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<< 妹と親友への遺言 >> side 大志

22、クリスマスの贈り物

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桜子が中1で俺と冬馬が大学3年生のクリスマス。
 心の底で「冬馬、来んな」とチラッと思いながらも、俺はやっぱり例年通りアイツを呼んで、例年通り赤いサンタの帽子を被って出迎えた。

 このサンタ帽は、桜子がうちに来た翌年にアイツを喜ばせようと購入した7年ものの愛用品だ。
 最初こそ桜子は目を丸くして喜んでくれたけど、年々反応が鈍くなって、今年は何も触れてくれなかった。まあ、それはもういい。今では俺の自己満足だ。
 ちなみに桜子は小5で友達に真実を教えられるまでサンタさんを信じていたピュアガールだ。

「おう、来たか」
「おう、今年も呼んでくれてありがとうな」

 玄関のドアを開けた俺を見て、冬馬は目を細めてハハッと笑った。

「今年も似合ってるぞ、大志サンタ。いっそのことコスチュームも着ちゃえばいいのに」

 おっ、ちゃんとサンタ帽にウケてくれた。
 やっぱりコイツはいい奴だな。
 『来るな』なんてちょっとでも思ってごめん。

 2人連れ立って中に入って行くと、キッチンから母親と桜子が揃ってヒョコっと顔だけ出して、

「冬馬くん、いらっしゃい!」
「冬馬さん、いらっしゃい!」

 綺麗にハモって出迎えた。
 目をキラキラさせて嬉しそうだなぁ、おい。

 クリスマスの夜は毎年お約束の定番メニューで、今年も鶏モモ肉のローストにほうれん草のキッシュ、コーンスープ、コールスローサラダにラタトゥイユだ。
 冬馬の申し出で、昨年からクリスマスケーキを買って来るのは冬馬の担当になっている。

 和気藹々と食事を済ませた後はプレゼント交換で、俺と桜子からは両親にペアのパジャマ。両親から桜子にはブランドもののショートブーツとグレーのコート、俺と冬馬には図書券が贈られた。

「ほい、桜子、兄ちゃんからのプレゼントだ」

 前から欲しがっていた白い財布を渡してやると、桜子はピョンピョン飛び上がって大喜びした。

「お兄ちゃん、これ私が欲しかったやつだよ!ありがとう!大事にするね!」

 うん、天使の笑顔。この笑顔のためなら財布ぐらい10個でも20個でも買ってやる。

「あの……桜子ちゃん、俺からもプレゼントがあるんだけど……」

 ギクッ!
 
 喜びの余韻が醒めないうちに真打しんうち登場か……。
 せめてもう少し後にして欲しかった。空気読め!

 桜子は天馬が差し出した紙包みを受け取って不思議そうに見ると、ゆっくり包みを解いて……パアッと花咲くような笑顔を見せた。

 白いミトンのモコモコ手袋。手首のところに同じ素材のチェックのリボンがついている。

 桜子はそれをギュウッと胸に抱きしめてから冬馬を見上げ、

「冬馬さん、ありがとうございます……」

 頬をほんのり赤くして、潤んだ瞳で呟いた。

ーーああ……これが兄貴と初恋の君との態度の差か……。

 胸がギュッと苦しくなって、喉元まで何かが込み上げて来るのを必死で堪え、鼻をすすった。
 まあ、仕方がない。所詮オレは兄ちゃんなんだし、身内だし……。


 母さんが「ほら、桜子」と訳知り顔で背中を押すと、桜子がモジモジしながらキッチンから何か抱えて来る。

ーーんっ?

 桜子がくれるのはいつも肩たたき券だったはずなんだが……んんっ?

「はい、冬馬さん。メリークリスマス!」

 桜子が冬馬に手渡したのはリボンで結んだ可愛い透明な袋に入った……クッキー?!

「冬馬さん、そのクッキーは昨日桜子が焼いたものなの。良かったら食べてあげて」

 母さんがそう言うと、惚けた顔をしていた冬馬がリボンを解いて、丸いチョコチップクッキーを1枚頬張る。

「うん、美味い!サクサクしてて、甘さ控えめで……本当に美味しい!ありがとう桜子ちゃん、嬉しいよ!」

 普段からもっとその笑顔を女どもに見せてやれよ!ってくらい満面の笑みで、冬馬は桜子に微笑みかける。ニコニコと見つめ合う2人。

ーーくそっ!くそっ、くっそ~っ!

 やっぱり冬馬を誘うんじゃ無かった。帰れ!今すぐ帰れ!いや、俺が出て行く!

 頭をカッカさせて身体の横で握りこぶしを作っていたら、

「お兄ちゃん……はい」

 桜子の声で我に返った。

「あっ……えっ?」

「お兄ちゃんも、メリークリスマス!」

ーーあっ……。

 あっ、そうか。俺にもクッキーあったのか。ありがとうな、桜子。兄ちゃんにも今年は肩たたき券じゃなくてクッキーくれるんだな。
 成長したなぁ、兄ちゃんは嬉しいよ。冬馬に嫉妬なんてして、今すぐ出てくなんて思ってごめんな……。

 クッキーが冬馬と同じ枚数だったことに安堵しながらリボンを解いていると、不意に首にフワッと何かが掛けられて……。

ーーえっ?

 桜子が背伸びをして首に掛けてくれたのは、バーガンディーカラーの毛糸のマフラー。

「……えっ?………えっ?……」

「マフラー。お母さんにかぎ針編みを教えてもらって編んだの」

「それね、お兄ちゃんに手作りを贈るって言って、桜子が秋からせっせと編んだのよ」

「……マジか……うわっ、マジか……」

「まだかぎ針編みしか覚えてないけど、今度は棒編みも覚えてセーターとかにチャレンジするね!」

「桜子っ!大好きだ~!」
「きゃっ!」

 ガバッと桜子に抱きついたら、みんなが一斉にドッと笑って、桜子もフフッて笑ってた。

 だけど俺だけは泣き笑いの顔で鼻を何度も啜って、半端なく胸をドッドッと高鳴らせながら、このままこの腕を緩めたくないな……桜子を離したくないな……なんて思ってたんだ。

 冬馬の羨ましそうな表情に優越感を感じながら……。
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