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<< 妹と親友への遺言 >> side 大志
15、桜子が好きだ
しおりを挟む『もしもし、八神さんのお宅ですか? ……あっ、あの……僕は桜子さんと同じ中学の赤坂というものですが……あの、桜子さんに話があって……あの……桜子さんは……』
緊張で上擦った声。話があるって……思いっきり告る気満々じゃねえか。
ガチャン!
頭がカーッとして、耳から受話器を離すとそのまま電話機に叩きつけた。
「お前なんかに桜子をやるかよっ!」
ーーあっ……
俺、ヤバイな……。
またしても呼び出し音。
今度は受話器を耳に充てることもせず、すぐにガチャンと切ってやった。
受話器を押さえたまま絶句する。
「くっそ……やられた」
そのまましゃがみ込むと、廊下に向かって呟いた。
「くっそ……バカヤロウ! このタイミングで背中を押してんじゃねえよ!」
ギリギリのところで踏ん張っていた糸がプツリと切れた。
ずっと考えまいとしていたのに……必死で目を逸らしていたのに……。
ーーもう駄目だ……俺は……
桜子が好きだ。
固く封印していた心の蓋を開けてしまえば後はもうあっという間で、中を覗きこんだら桜子への気持ちで溢れかえっていた。
好きだ、大好きだ。
好きになって欲しい。
俺のものにしたい。
キスしたい、抱きたい、抱き締めたい。
兄じゃない。
妹じゃない。
ただの男と女として……愛してるんだ。
一度認めてしまうと簡単なことだった。
兄が妹に向けるにしては過剰な執着心と過保護ぶり。
最近感じる不安や焦燥感。
冬馬への複雑な感情。
そんなの全部まとめて『嫉妬』の一言で済むじゃないか。
彼女を作る気にならないのも、もう好きな女がいたからで、家にいたいのも桜子のそばにいたいからで、桜子を見て勃つのも、好きな女が相手だったら当然で……。
「俺は……桜子に恋をしている」
一度勇気を出して受け入れてみれば、その感情はとてもしっくり来るものだった。
胸の奥でしっかりと息づいて、恋するトキメキやドキドキを伝えてきた。
甘くて切ない痛みが胸を締め付ける。
「そうか……もう俺は……俺の心にだけは嘘をつかなくていいんだ……」
たとえ誰にも言えなくても……桜子に伝えられない想いでも……心の中で『好きだ』と叫んでもいいんだ。
「ふ………」
足元の床に涙がポトリと落ちた。もう1粒落ちたと思ったら、あとはポツポツとどんどん床を濡らしていった。
「桜子……愛してる……」
それが苦しみの涙なのか、喜びの涙なのか……それは自分自身でも分からなかった。
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