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<< 妹と親友への遺言 >> side 大志

12、俺の隣

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 家で輪になって宴会をしている時、桜子は俺の隣に座るのがデフォだった。

 桜子は俺にぴったりくっついて、俺の体温があれば大丈夫……みたいな顔で黙ってちょこんと座っている。
 だけど俺だって、桜子の体温を感じながら、『俺がコイツを守ってるんだ』って満足感と幸福感で満たされてたんだ。

 それがずっと続くものだと思っていた。
 続けば良かったのに……。



 ある時冬馬が、『桜子ちゃん、隣においで』そう言って桜子を手招きした。いつもの我が家での集まりの最中だった。

ーーえっ?!

 冬馬、なにを勝手に俺の許可なく桜子を呼んでんだよ。

 そう思っていたら、桜子もスッと立ち上がって歩いてきて、嫌がることなく冬馬の隣にちょこんと座った。

ーーええっ?!

 冬馬、なにをナチュラルに隣に座らせてんだ!
 お前もだ、桜子!お前はいつも兄ちゃんの隣って決まってただろう?!拒否れよ!ちょっとだけ悩むフリをして、それから拒否れよ!最終的には俺を選べよ!

 俺はすっくと立ち上がると輪の反対側に行き、桜子の隣にいたヤツに席を詰めさせて、そこにドカッと座り込んだ。
 俺と冬馬とで桜子を挟み込む形になる。

「おいおい大志、妹ベッタリが過ぎるぞ」
「シスコン極まれり……だな」

 みんなの声を無視して、俺は桜子の向こう側にいる冬馬を睨みつける。

「おい冬馬、桜子は俺のだ! 勝手に隣の座を奪うことは許さん!」
「ハハハッ、悪い、悪い。だけど俺だって桜子ちゃんを妹みたいに思ってるんだぜ。一緒に可愛がらせてくれよ」

 途端に場が盛り上がってどっと大きな笑いが起こる。

「ねえ、桜子ちゃんはどっちのお兄ちゃんがいいの?」
「大志は口うるさそうだから冬馬兄ちゃん一択でしょう!」
「いや、大穴で俺なんかどう?」
「大志と冬馬にお前が敵うわけないだろう!」
「ギャハハハっ!」

 桜子がビクッとしたのが分かった。

ーーヤバっ!

 俺のせいで桜子に注目を集めてしまった。しかも一斉に話しかけられて固まっている。

「母さ~ん! おつまみって買い置きまだあったっけ~?……なあ、お前ら枝豆食う?」

 キッチンにいる母親に話しかけ、何気に話題を逸らしながら桜子の背中をさする。

 ごめんな桜子。兄ちゃんのせいで困らせちゃったな。みんなに話しかけられて怖かったよな?
 だけど兄ちゃんは桜子に隣に座って欲しかったんだよ……。

 心の中でひたすら謝りながら、指先から気持ちが伝わるようにと、優しくゆっくり、何度も何度も背中をさする。

「桜子ちゃん、大丈夫?」

 声がした方をパッと見たら、冬馬が桜子の頭を撫でていた。
 俯いていた桜子が顔を上げ、冬馬と目が合うと安心したように表情を和らげる。

ーーあっ……。

 胸がドクンとした。
 そして心臓を針先でチクチクといたぶられるような不快感と不安。

ーーなんでお前が桜子を慰めてるんだよ。

 それは俺の役目なのに。
 桜子が安心するのは俺の隣のはずなのに。
 桜子を落ち着かせるのは俺の手のひらのはずなのに……。


 だけどまだこの頃は、俺は自分の本当の気持ちに気付いていなかった。
 冬馬も自分の中に芽生えていた気持ちの正体に気付いていなかった。

 気付かなければ良かったのに。
 桜子への気持ちに気付くのが、俺だけだったら良かったのに。

 まだ何も気付いていなかった俺たちは、桜子を挟んだ両側からひたすら背中をさすり、頭を撫で続けていた。

 その時から、桜子が座るのは『俺の隣』ではなくて、『俺と冬馬の間』になった。

 俺は冬馬が桜子の頭を撫でている間、絶対に背中を撫でる手を止めず、アイツの手が頭から離れるのを見届けてから、そっと背中から手を離すようになった。
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