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<< 妹と親友への遺言 >> side 大志

10、兆し

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 ある日家に帰ると、食卓に赤飯が出ていた。

「あれっ、母さん、何かお祝いごと?」

 ダイニングの椅子に座りながらキッチンの母親に声を掛けると、エプロンで手を拭きながら顔を出して、

「桜子の……女の子のお祝いなの」

 そう言われて一緒ピンと来なくて、「えっ?」と目の前の桜子を見る。
 顔を赤くして俯いたところで、漸く察することが出来た。

「………あ」

ーーああ、これはアレか。月に一度の……。

 昔彼女から聞いたことがある。女の子の生理が始まると、お祝いにお赤飯を炊くんだと。

ーーここは『おめでとう』と言うべきなのか?

 いや待て、デリケートな部分だから迂闊な事は言えないぞ。こういうのって男兄弟からは触れられたくないものなのかも……。

 なんてグルグル考えていたら、書斎で仕事をしていた父親が席につくなり、

「桜子、大人の女性になったんだね。おめでとう」
 とサラッと言ってのけた。

ーーおおっ、ナチュラル!

「桜子、これからはホルモンの関係で益々身体つきが女性らしくなってくる。男性の目を惹くようになると痴漢やレイプなんかの犯罪に遭遇する危険も大きくなるから、人けの少ない道や夜道を1人で歩かないこと、電車で痴漢に遭ったらすぐに声を上げること……これをしっかり頭に入れておきなさい。いいね?」

「はい、お父さん」

 そうか、こう言えば良かったのか。
 さすが父さん、亀の甲より年の功だ。

 父親のカッコいいアドバイスに全部持ってかれた俺は、お祝いを言い出すタイミングをすっかり失って、

「お赤飯なんて久しぶりに食べたよ。美味しいな。ほら桜子、お前のお祝いなんだからもっと食べろよ」

 なんて言うくらいしか出来なかった。

ーーそうか、いよいよ桜子も……。

 中1で始まるのが早いのか遅いのか知らないけれど、とうとう桜子が……と思うと面映おもはゆいものがある。

 目の前の妹をチラッと盗み見る。
 桜子は元々大人っぽい顔つきではあるけれど、改めて見てみれば胸も出てきているし、華奢なりに丸みを帯びた体つきになっているように見える。

 本音を言えば、内心かなり動揺していた。
 だって大人の身体になったって事は妊娠出産も出来るってことで、それはつまり、性交渉も可能って事で……。

 突如、フラッシュバックみたいにパッと桜子の裸が頭に浮かんで、ズクンと下半身が疼いた。

 脳裏に浮かんだ桜子の身体は陶器のように白くて透明感があり、どこもかしこも滑らかだった。
 未だ成長途中の胸は小さいなりに張りがあって、ピンクの乳首がツンと尖っている。
 下半身の繁みはまだ薄くて、その奥に隠れている秘所はまだ誰にも汚されていなくて……。

ーーおい、嘘だろ……。

 チノパンの下に隠れているモノがムクムクと勃ち上がり、布地の下から存在を主張し始めた。
 一気に血液が集まったそこは、すぐに解放しろとでも言うように、痛みと熱を伴って訴えかけてくる。

 俺は椅子を思いっきり引いてお腹をテーブルにくっつけるようにして、下半身をテーブルの下に隠した。こんなオスの姿を妹に見せるわけにはいかない。

 ……って言うか、なにを想像してんだよ、俺。
 
 ずっと可愛がってきた無垢な妹をそんな風に見た自分が汚らわしいと思った。
 桜子はイノセントなんだ。俺の天使なんだ……。

 なのに、そんな風に俗物的な対象に見るだけでも駄目だと思った。
 罪悪感が半端ない。

 母さんにも桜子にも悪いことをした。
 ごめんな、低俗な兄ちゃんで。

ーーずっとセックスしてないから溜まってんのかな。後で抜いとこ。


 その日から、トイレの一角に蓋つきのサニタリーボックスが置かれるようになった。
 なんだか気になって蓋を開けてみたら、血液のついたナプキンが入っていた。
 見てはいけないものを見てしまったようで、心臓がドクンと鳴った。
 慌てて蓋を閉めて、何故か周囲をキョロキョロと見廻した。

 桜子が処女を失うときにも、こんな風に血を流すのかな……と思った。

 その翌朝、何年か振りに夢精した。
凄く淫らで淫靡な夢を見ていた気がしたのだけど、どんな内容だったかは忘れた。

 ただ、何故か酷い罪悪感だけが胸の奥にこびりついていた。
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