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<< 妹と親友への遺言 >> side 大志

6、冬馬

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 冬馬は最初から目立つ存在だった。
 入学生総代で壇上に立って挨拶をした時から周囲の女子が色めきだっていたし、男の俺から見ても文句なしでカッコいい奴だと思えた。

 俺も身長178センチでそこそこある方だけど、アイツはそれより高い182センチ。ギリシャ彫刻のように彫りが深い顔立ちに、くっきりした二重瞼。
 少し吊り上がった猫のような瞳は、意志の強さを表すようにキリッとしていて目力が凄いんだけど、笑うと目尻にシワが寄って急に優しい印象になるものだから、そのギャップにハートを持ってかれる女が続出だった。
 今どき珍しく全く染めていない黒髪がアイツの顔立ちと相まってエキゾチックな雰囲気を醸し出していて、それがまた魅力を増幅させていたように思う。


 最初に話し掛けたのは俺の方だった。
 俺より成績が良くて俺よりカッコいい奴にはそれまでお目にかかった事が無かったから、単純に興味本位から。
 実際に話してみたら全然チャラついてないし、せっかくの容姿の無駄遣いって思うくらい遊んでないし、真面目で純粋な奴だった。

 俺たちが意気投合してツルむようになるのはあっという間で、一部の女子の間ではゲイ疑惑が出てカップル写真が売買されるほど、2人で行動する事が多くなった。


 冬馬は家庭の事情で高校時代から新聞配達やカフェのバイトを掛け持ちしていた。
 奨学金を得て大学に入学してからも、朝の新聞配達に加えて家庭教師のバイトをして生活費を工面していた。所謂苦労人という奴だ。

 父親が弁護士で金銭面で悩んだ事のない俺とは別世界の人間のようだけど、幼い頃に母親と死別していた俺と母子家庭の冬馬とは、どこか通じるものがあったのかも知れない。


 冬馬を初めて家に呼んだのは、大学1年の夏に差し掛かる頃。冬馬の唯一の身内であるお祖母さんが4月に心筋梗塞で亡くなったのがきっかけだった。
 古い平家の日本家屋を引き払ってアパートで1人暮らしを始めたアイツに、温かい料理を食べさせてやりたいと思ったのが始まり。

 大学から駅へと向かう道すがら、我が家の家庭事情を打ち明けると、冬馬は驚いていたものの、割とすんなり受け入れていた。親の再婚なんて珍しくもないから、そんなものなんだろう。
 ただ唯一、桜子が受けていたDVの話をした時だけは、珍しく感情を露わにした。

「…… クソ野郎だな」

 そのたった一言に、怒りと侮蔑とまだ見ぬ俺の妹への同情が窺えた。

「俺って顔が怖いだろ?桜子ちゃん、泣き出さないかな?」
「お前と付き合いを続けてくんだから、桜子ちゃんにも気に入って貰わなきゃいけないよな」
「小学生の女児とどうやって話せばいいんだ?」
「そこのコンビニでケーキでも買って行こうぜ。イチゴでいいのか?」

 なんて真剣に悩んでいる冬馬を見て、お前は俺の彼女かよ!ってマジで突っ込みたくなった。……けど、コイツに全部話して良かったと思った。


 だけどのちに俺は、冬馬を家に連れて行った事を後悔するようになる。


「噂通り本当に可愛い子だった。 よろしくね、 桜子ちゃん」

 握手を交わしたその瞬間に、桜子は恋に落ちた。
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