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<< 妹と親友への遺言 >> side 大志

2、特別な女

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 2階の洗面所で手を洗っていたら、頭にターバンみたいにタオルを巻いた桜子がやって来た。
 案の定モコモコした可愛いルームウェアを着ている。
  ショートパンツの裾から伸びている長くて真っ直ぐな脚をチラリと見てから、それを悟られないようすぐに視線を戻した。

「あれっ、お兄ちゃん、まだお風呂に入ってないの?」
「今から下に行く。あっ、歯磨きか。今ここをどくから待ってろ」

ーー俺ってイカ臭くないよな。服に精子ついて無いよな?

「ありがとう。髪を乾かそうと思って」
「……ドライヤーかけてやろうか?」

「本当? やった~!」

 鏡の前で丸椅子に座らせてから、自分は桜子の後ろに立って、長い黒髪に熱風を吹き掛ける。

 艶のある真っ直ぐな髪。
 昔はパッツン前髪のおかっぱ頭だったから『こけし』だなんて呼んでたけれど、今はもうそんな風に呼べないな。
 高校に入学した今はもう、雅で上品なお姫様だ。


「そう言えばお兄ちゃん、私のクラスメイトに何か言った?」
「えっ?学校で何か言われたのか?」

「今朝玄関で、『お前の兄ちゃん怖ええな』って」
「それだけ?」
「それだけ」
「ふ~ん……」

 それは多分、昨日電話を掛けて来た男だな。
 告白する気満々だっていうのが丸わかりだったから、

『挨拶がなってない』
『身長は桜子より15センチ以上あるのか』
『桜子と付き合える奴は常に学年上位ベスト3位内で、将来『士』が付く職業になれる奴だけだ』
『高校に入学して早々、色気づいてんなよ。これから大学受験に向けて必死にならなきゃいけないのに、女に電話してるなんて余裕だな』

 などなど、向こうが電話を切りたくなるまでネチっこく追求しただけのことだ。
 それを上手く切り返せないような男は所詮雑魚ざこだ。桜子には相応しくない。

 まあ、それでもしつこそうな奴がいたら、学校まで桜子を迎えに行って睨みを効かせるんだけど。
 大抵の男はこれで諦める。


「なんか勉強のことで聞きたいことがあったみたいだったから、『そんなの自分で調べろ。それか男友達に聞け』って言ったら納得してたよ。アイツは駄目だな、挨拶もちゃんと出来てなかった」

「そっか~、同じ風紀委員なんだよね」

ーー風紀委員が乱れた男女交際を目指してんじゃねえよ。サカりやがって!

 いや、サカってるのは俺だけどな。


「桜子の髪、綺麗だな」
「本当?もう少し細くてフワッとした髪に憧れるんだけど」

「いや、これでいい。癖のない真っ直ぐで艶々な髪が……俺は好きだな」
「お兄ちゃんがそう言ってくれるなら、それでいいけど」

 髪の束を掬いドライヤーをあてると、熱風に舞い、サラサラと指からこぼれ落ちていく。滑らかな感触に背筋がゾクゾクする。
 熱風に煽られて、桜子愛用のシャンプーのフルーティーな香りが漂い、鼻腔をくすぐる。

 いつからだったろう。このシャンプーの香りが俺にとって官能的で性的興奮を煽るようになったのは。
 いつからだったろう。目の前の義妹いもうとが俺にとって特別な女になったのは。

 いや、きっと最初から特別だった。
 10年前に桜子が俺の目の前に現れた時から、俺たちの運命は決まってたんだ。

 桜子、俺はお前を愛している。
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