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1、友との誓いと入籍の話 side冬馬

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「おめでとうございます、確かに婚姻届を受理いたしました」
「「 ありがとうございます 」」

 2人で顔を見合わせて微笑み合う。
 桜子の左手薬指には、俺が贈った0.5カラットのリングが輝いている。
 それはほんのついさっき贈ったばかりの誓いの印……。




「冬馬さん…… 泣いてるの? 」

 手紙を読み終わって立ち尽くしていたら、駆け寄って来た桜子に心配されてしまった。
 そうか、俺は泣いていたのか。駄目だな、彼女を支えると誓ったのに早速心配させるなんて。

「あっ…… いや…… アイツと仕事のやり取りをするなんて久し振りだったから…… ちょっと感傷的になったかな」

「そう……お兄ちゃんと冬馬さんには、 私が入り込むことのできない深い絆があるんですもんね」

ーーそうだな……俺たちは学生時代から張り合って来たライバルで、仕事のパートナーであり、心の友で……そして同じ女を愛した同志だった。

「桜子……」

 脇に抱えていたブリーフケースを地面に置いて彼女に向き直ると、内ポケットに畳んで入れてあった大志の手紙がカサッと鳴った。

 大して面白味もなくて気の利いた事が言えない俺は、サプライズもキザなセリフも思いつかなくて、墓地の地面に片膝をつきながら水色の小箱を差し出すくらいしか出来なくて……。

「八神桜子さん、僕と結婚して下さい」

 良くある定番のプロポーズ。
 そんなありふれた言葉でも桜子ははらはらと涙を流し、両手で顔を覆いながら頷いてくれた。

「ありがとうございます……よろしく…お願いします……」

 立ち上がって箱から指輪を取り出す。これもあまりにも定番で有名すぎる品だけど、太過ぎないプラチナの曲線が桜子の細い指に似合うと思ったし、『ブリリアントカットのダイヤモンドでこの大きさならきっと彼女も満足されますよ』……と店員さんに言われたから、その場で一括購入したものだ。

「桜子、左手を出して」

 そっと差し出された華奢な手を握り薬指にリングを嵌めると、思った以上にそれは似合っていて、満足感と喜びで胸が満たされた。
 
「……うん、とても似合ってる」
「ありがとうございます。……でも冬馬さん、膝が泥だらけになっちゃいましたよ」

「あっ。雨上がりだったからな。ハハッ、どうにも格好がつかないな」
「いいえ……王子様みたいで素敵でしたよ。感動しました。本当にありがとうございます」

 瞳を潤ませて何度も『ありがとう』を繰り返す彼女を見て、膝が泥だらけになろうが格好がつかなかろうが、やっぱりちゃんと改めてプロポーズをして良かったと思った。

「あの、もう一度だけお墓に戻ってもいいですか? 兄にちゃんと指輪を見せて報告したいので」

「ああ、もちろん」
「……冬馬さん」
「ん?」

「兄は、冬馬さんのことをちゃんと認めてましたよ」
「……えっ?」

「兄が唯一認めた男が冬馬さんなんだそうです」

 不意に桜子の口から出た言葉に心臓がドキンとした。

「どうして……何を言って…」

 みっともないほど声が震えていたと思う。だけど桜子は動揺する俺に柔らかく微笑んで、言葉を続けた。

「兄が亡くなる10日ほど前でした。急に『桜子は冬馬のことが好きなのか』って聞かれたんです」

「大志が?……それで、君はなんて……」
「はい……って」

ーーああ……。

 大志がその問いを投げかけた時の気持ちを考えると、胸がギュッと締め付けられた。
 桜子が頷いたその時、大志はどんな顔をしていたんだろう。
 微笑みを浮かべたのか、悔しがったのか、涙を浮かべて寂しい顔をしたのか……。
 だけどアイツのことだ、いずれにせよ最後には、桜子を想い、ニッコリ笑ってやったんじゃないだろうか……。


「兄は、冬馬さんにだけは敵わなかったって、唯一負けた相手だって言っていました」

「大志が俺に負けたって? そんなこと俺には一度も……俺の方こそアイツには敵わないって、ずっと……」

「負けた、完敗だ……でもそれでいいんだ……って。アイツと幸せになれ…って……」

 その時のことを思い出したんだろう。俯いた桜子の肩が震え、最後には両手で顔を覆った。
 
「桜子……」

 そっと抱き締めると、彼女は俺の胸に顔を埋めて嗚咽を漏らした。
 抱き締める腕に力を込めて天を仰ぐと、学生時代に大志と切磋琢磨し合ったこと、夜通し語り合った仕事のこと、アイツの闘病中のこと、そして俺にだけ打ち明けられた桜子への想い……なんかが一気に溢れて来て、涙がこぼれそうになった。

ーーあっ……

 急に雲が出て来て太陽がスーッと隠れた。
 辺りがフッと影になって薄暗くなる。

ーーああ、これは大志が怒っているな。

 慌ててグッと歯を食いしばり、涙を堪える。

ーーそうだな、大志。お前の大切な桜子を守っていくんだ。これくらいで泣くような弱い男じゃ駄目だよな。悪かったな、せっかく認めてもらったのに。これじゃ早速認定を取り消されそうだな。

 大志……お前の桜子は……俺が貰うよ。
 ここでお前に誓う。彼女を一生大切にする。俺の全てをかけて愛し抜くから……


「桜子、今から籍を入れに行こう」




Fin



*・゜゚・*:.。..。.:*・ .。.:*・・**・・*:.。..。.:* .。.:*・゜゚・*

再びお付き合いいただきありがとうございます。

番外編その1です。
この後、初夜の話、蓮根の挟み揚げの話(水口さんが彼女だと誤解した日)、それからside大志、最後に現在の冬馬と桜子の近況を書いて締める予定に(今のところ)なっています。

実は大志の最期の時のお話を既に書き上げてあるのですが、それを最後に持ってくるか、幻の最終話として没にするかどうか悩み中です。
途中に入れるにはちょっと印象が強すぎるし、かなり暗い内容なのでハッピーエンドの後に辛いお話を読みたくは無いかも知れないな……というのがあって。
もしもラストにこのお話が無かったら、やっぱり没になったんだ~と思ってやって下さい。
 
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