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<< 君の初恋 side成瀬 >>

2、幼馴染み

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 木崎雄大きざきゆうだいと初めて会ったのは、新年度の始めの仮入部の時……だと思う。

 正直言うと、彼に初めて会った時のことは殆ど覚えていない。
 印象に残っていないと言うことは、まあ、特にこれといった特徴も無い、沢山の仮入部者の1人だったという事なんだろう。


 僕たちの通っていた高校は部活に力を入れていて、生徒は全員何かしらの部活に所属していなくてはならなかった。

 熱血スポ根の青春を目指していない生徒は必然的に文化系の部活を選ぶことになり、その中でも幽霊部員狙いの奴らは緩そうな部活に入る。

 だから週に2日しか活動日がない写真部は狙い目だと思われやすく、仮入部には結構な新入生が集まって来た。


「写真部の活動日は月曜日と水曜日の週2回ですが、その日は余程の理由がない限り、きっちり顔を出してもらいます。それ以外の曜日にも写真を持ち寄って意見交換したり、暗室作業など、自主活動をしていただいて構いません」

 屋外での撮影会や文化祭での展示の他にも、行事ごとに担当を決めて活動風景の撮影に出向くこと、外部のコンクールでの入賞を目指して本格的な活動をしていると説明すると、大半の生徒が『予想と違った』という表情で顔を見合わせ始めた。

 別にそれで構わない。ヤル気が無い奴らにカメラの使い方を教えるだけ、時間の無駄だ。
 早いところ見切りをつけて、もっと緩いところに行ってくれ。

「部が所有している貸し出し用のカメラがありますが、入部したら自前の一眼レフがあった方がいいと思います。自分のカメラで手入れの仕方から覚えた方がいい」

 ここでザワつきが大きくなり、「マジかよ」とか「金が掛かるのは無理」なんて呟きが聞こえて来た。
 かなり人数が減るだろうけど、これで残った生徒は本当にヤル気があると言うことだ。それでいい。


 そんな風にふるいにかけられて残った中の1人が、彼、木崎雄大だった。


「1ーBの木崎雄大です。 よろしくお願いします」

 入部の挨拶をした木崎君の第一印象は、普通。
 地味でも派手でもなく、太っても痩せてもいない。
 身長は最終的には僕とほぼ同じ178センチまで伸びていたけれど、その当時はそこまで高くは無かったと思う。

 後に聞いたところによると、彼は友人に誘われて我が部に来たものの、誘った当の友人が仮入部の時点で見切りをつけて他の部に行ってしまい、彼の方だけ残ったそうだ。

『なんだかカメラのシャッター音が気に入ったんですよね』

 そう言っていたのを覚えている。


 そんな普通な彼だったけれど、入学して暫くする頃には、多くの生徒に注目される存在になっていた。
 彼の隣にいる子が普通じゃなかったから。

 森口彩乃もりぐちあやの
 どうやら中学の時から美少女で有名だったらしいその子は入学早々噂の的になり、3年生の俺でも名前だけは耳に入って来ていた。


 彼女が初めて写真部の部室に現れた時は、部員の驚き具合が半端なかった。

「雄大、お待たせ。帰ろっ!」

 ザワザワッ……

「おい木崎、お前、森口さんと付き合ってるの?」

 俺と同じ3年生の部員が驚いて大声を出すと、彼は「えっ?」と彩乃の方を見て、顔を赤らめた。

「ちっ、違いますよ!俺たちは……」

「「 ただの幼馴染みです! 」」

 綺麗にハモった2人の声。

 2人は家が隣で兄妹みたいに育ったらしく、ダンス部所属で帰りが遅い彼女を送って帰るよう、親から命じられているらしい。

「雄大、真理子さんが帰りに牛乳とパンを買って来てって。 今夜はクリームシチューだって」
「ええっ、 俺はビーフシチュー 派なのに」

「あっ、LINEでどっちがいいか聞かれたから、クリームシチューって返事しておいた」
「マジか。 なんで息子じゃなくてお前に聞いてんだよ」
「信頼関係の差じゃないの?」

「それこそ息子を信頼しなきゃ、おかしいだろ……あっ、お先に失礼します!」

 ドアの所で彼がお辞儀をすると、隣の彼女もペコリと頭を下げる。若夫婦か。

 夫婦漫才みたいな会話をしながら部室を出て行く2人を、みんなで呆気にとられて見送ったのを覚えている。

 あんなの、何処からどう見ても付き合ってるだろ。


 本当、2人とも嘘つきだよな。
 あれだけ全力で否定しておきながら、既にあの頃から君達はお互いの事が好きだったんだ。
 いわゆる『両片想い』ってやつだ。

 だけど、そんなの別にどうでもいいと思っていたんだ。
 ちょっと可愛いと騒がれてる女子が、部員の1人の幼馴染みで、カレカノ並みに仲がいい。

 ただ、それだけ。

 あの頃はまだ、そう思っていたんだ……。
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