【完結】1日1回のキスをしよう 〜対価はチョコレートで 〜

田沢みん

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美味しん坊将軍の話 (3)

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 俺の動揺を尻目に、じいちゃんは懐かしそうに目を細めて全て語り切った。

「あの時はコタローが畳に額を擦り付けて頼んできてなぁ、その心意気に、俺も協力してやらなきゃって、使うペンの色を変えて書いたり、蛍光ペンで葉書のフチを飾ってみたり……」

「嘘っ! あのサイン色紙にそんな苦労があったの?!」

 じいちゃんの話に、ハナが口をあんぐり開けて驚いている。

「俺は孫の恋路を応援してやりたくてな、実は翌日こっそり10枚追加でハガキを買って来たんだ」

「えっ、マジかっ!」

 今度は俺が驚いた。
 じいちゃんには俺の気持ちも行動も全部見抜かれていただけじゃなく、こんな風に後押ししてもらったり協力してもらったりで、本当に頭が上がらない。
 実際、サイン色紙が当選したのもじいちゃんが出した葉書だった。


「じいちゃん……恩にきる。頼むから俺とハナが結婚してひ孫が生まれるまで長生きしてくれよ」

「馬鹿っ、コタロー、何言ってるのよ!」

「うんうん、少なくとも3人は産んで欲しいな。二人の子供ならきっと可愛いだろう」

「宗次郎先生まで!」

 顔を真っ赤にしているハナ、めちゃくちゃ可愛い。
 絶対にじいちゃんにひ孫を見せてやる!
 俺はそう心に誓った。


「それにしても……コタローがそんなに頑張ってくれてるんだったら、私もちゃんとしたプレゼントをあげたかったよ。何よ、『声』だけでいいって。真に受けた私がバカみたいじゃん」

 ハナがシュンとして、恨めしそうに俺を見る。
 だから言いたくなかったんだ。
 俺が誕生日プレゼントのために必死になってるのがバレると、ハナが気にしちゃうに決まってる。

 俺はハナがくれるなら肩たたき券でも宇宙の石でも何でも嬉しいのに、俺にお返ししなきゃって、去年のペンケースみたいにグルグル悩ませちゃうだろ?

「私……今年の誕生日プレゼント、ちゃんとした物をあげてない……」

ーーあっ、ほら……。

 先日の9月10日の俺の誕生日は、受験で忙しいからという俺の希望で、特にパーティーとかは行わなかった。
 別にやっても良かったんだけど、そうするとハナの勉強時間を削らせることになるし、プレゼントで悩ませたくも無かったんだ。

『プレゼント、何か欲しいものある? 彼女になって初だしさ、ちゃんとコタローが欲しい物をあげたいんだ』

 そう言われたから、『彼女としての言葉』が欲しい……と言った。
 プレゼントで悩むのは一緒に高校に合格してからでいい。
 今はただ、ハナの彼女としての言葉をくれればそれで満足だから……。

 ハナがくれた言葉はスマホのボイスメールにしっかり残してある。
 これを言ったらハナが怒ったから2度と本人には言わないけれど、あそこまで素直に気持ちを伝えてくれるとは思っていなかったから、初めて聞いた時は感動で胸が爆発するかと思った。
 それはいつでも俺の心を暖めて、グンとやる気を起こさせてくれて、受験勉強の大きな励みになってるんだ。




 テーブルの向こう側で唇を尖らせて拗ねているハナに、俺はヘラッと笑ってみせる。

「ハナ、俺、高校に入ったらバイトするからさ。そしたらもっといい物を買ってやるな」

「ちょっと! これ以上差をつけられたら私の立つ瀬がないんですけど」

 すると俺たちのやり取りを見ていたじいちゃんが、横から助け舟を出してくれた。

「花名ちゃん、全部コタローが好きでやってる事なんだから、喜んで受け取ってやってくれないか? 男は大事な女の子のためにせっせとみつぎ物をする生き物なんだよ」

「宗次郎先生……」

「そうだよハナ。 それにお前が彼女になってくれたってことが、俺にとっては1番のプレゼントなんだぜ」

「コタロー……」

 俺の言葉を聞いた途端、ハナがポポポッと顔を赤くして、両手を頬にあてた。

ーーうわっ、すっげぇ可愛い!


「ハナ……可愛いな」
「ええっ!」

 思っていたことがそのまま口に出ていたみたいで、ハナが更に顔を赤くして完熟トマトになった。 更に可愛さが増した。

「もっ……もう! 宗次郎先生、後半の勉強を再開しましょう! コタローは来ちゃ駄目っ! 集中できないから!」

「ええっ?!」

 ハナはじいちゃんの背中を押して塾の廊下に出ると、俺の目の前でドア をバタン!と閉めた。

「ガーン!」

 ……と思ったらドアがバッと開いて、

「コタロー……サイン色紙のお話、嬉しかった。帰ったら色紙を見てコタローのことを考えて頑張るからね。……また明日!」

 またまた頬を染めながら今度こそ本当にドアを閉めた。


「くっそ~、不意打ちかよ!」

 おれは両手で顔を覆ってその場にしゃがみ込むと、しばらくそのままの姿勢で今の感動を噛み締めていた。



 2階の自分の部屋に戻り勉強机に向かうと、スマホを手に取ってボイスメールを再生する。


『えっと……コタローが『彼女としての言葉』が欲しいと言ったので……何を言えばいいのか悩んだんだけど、頑張って言ってみるね。

 コタロー、コタローとは幼馴染で一緒にいるのが当たり前で、私はそれがずっと続くんだって勝手に思っていました。お互い空気みたいな関係で、それが居心地が良くて……
 だからこのままがいいな……なんて思っていたけれど……
 コタローが好きだって言ってくれて、カレカノになってみて、関係が変わるのも悪くないなって今は思っています。

 コタローの事を考えたらドキドキするし、コタローの顔を見たらときめくし、毎日が、前よりもっと楽しくなったよ。
 目標ができて勉強もやる気になれたよ。剣道のことも料理も覚えられたよ。
 全部、ぜ~んぶコタローのお陰。コタローの彼女になれたからなんだよ。

 コタロー、私をコタローの彼女にしてくれてありがとう。
 私は今、とっても幸せだから、今度は私がコタローを幸せに出来るように頑張るよ。
 コタローに相応しいいい女になるから、それまでちゃんと待っててね!待ちくたびれても待っててね!
 えっと……大好き。以上です。バイバイ!』


「うわ~っ、好きだ~!」

 何度も何度も再生しているハナの言葉をもう一度聞き返し、今日も悶絶する。

ーーバカヤロー、誰が待ちくたびれるかよ。

 ずっと好きだったんだ。ずっとずっと待ってたんだ。今更くたびれるなんて、あるわけない。

 これ以上いい女になられてたまるかよ。
 おれを追い越して走って行くなよ。

 俺だって……お前に相応しくあるために、もっともっと頑張るから……。

「……うん、頑張ろう」

 俺は今ハナが使っているであろう数学のテキストを開くと、同じ高校で学ぶ姿を思い浮かべながら、問題を解き始めた。





*・゜゚・*:.。..。・:.。.:*・゜゚・・*:.。..。*:.。. .。.:*・゜゚・*

 お久しぶりです。

 美味しん某将軍様のサイン色紙のお話、本編で書こうと思いつつ話の流れの都合で出来なかったので、番外編として書いてみました。

 このあと高校編へと続きますが、そちらはちょっと長めの番外編みたいな感じで5~6話くらいで終わらせる予定です(たぶん)。
 そちらもお付き合いいただければ幸いです。
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