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<< 番外編 >>
優勝インタビューが甘いんですけど!(2)
しおりを挟む『月刊 剣道ニッポン 10月号』
今月号は、8月に京都武道センターで開催された『全国中学生剣道大会』の結果と詳細、優勝した 天野虎太郎選手のロングインタビューを全文掲載!
記者「天野選手、この度は優勝おめでとうございます」
天野「ありがとうございます。それと……お騒がせして申し訳ありませんでした」
*天野選手は試合終了後の会場で恋人と堂々とキスをするという大胆な行動で、観客や関係者を驚かせた。
記者「いやぁ~、驚きました。真面目で寡黙な印象のある天野選手が、まさか観衆の面前で堂々と公開ハグとキスを披露するとは!」
天野「公開……っ!いや……勢い余ってというか、感情が爆発して抑えられなかったというか……本当に申し訳なかったです」
記者「ですが、会場の空気は 概ね好意的で、拍手と声援に包まれていましたよ」
天野「それでも……神聖な武道場でああいう事をしたというのはやっぱり武士道に反する失礼な行為だったと思いますし、いくら試合後でテンションが上がっていたからって、アレは駄目でした。心から反省しています」
記者「それが分かっていても止められなかったと(笑)」
天野「……はい、あの試合は彼女のおかげで勝てたので……誰よりも先に感動を伝えたくて、つい……」
記者「仲が良いんですね。お付き合いは長いんですか?」
天野「はいっ!……あっ、いいえ……幼馴染なんで付き合い自体は長いんですが、試合に勝ったら彼女になってくれるって約束してて……」
記者「それで優勝して公開キスの流れになったんですね!そりゃあ試合にも気合いが入るわけだ」
天野「勿論どの試合の時も真剣に挑んでいるし、手を抜いたりふざけたりなんてしません。だけど今回は、彼女の存在がいつも以上に力を与えてくれたのは確かです」
記者「まさしく『愛の力』だと」
天野「そう、そうなんです!アイツ、料理が出来ないくせにお弁当なんか作っちゃって、テーピングまで覚えて来て……そうそう、この左足も、彼女がテーピングしてくれたんですよ!俺のために必死で練習してきたみたいで、巻き具合も絶妙で、バッチリだったんです!」
記者「そのテーピングを彼女が?そう言えば、試合中に足首を捻った時は最悪棄権になるかと心配しましたが、あの時はどんなお気持ちでしたか?」
天野「絶対に棄権はしたくなかったんですが、場外になった時は痛みがMAXで限界で……正直、もうダメだと思いました。だけどその時に彼女が『勇往邁進』の言葉をくれて……あれで立ち上がる事が出来ました。あと、皆さんの声援や拍手も心強かったですね。本当にありがたかったです」
記者「立ち上がった時の天野選手は本当に鬼気迫る迫力で、見ているこちらが息を呑む程でした。決勝戦の相手となった恩田選手とは昨年の決勝戦でも対戦されていますが、彼との因縁の対決は如何でしたか?」
天野「強かったです。本当に手強かった。昨年の試合で負けてから、ずっと彼との試合をシミュレートして来ましたが、どちらが勝ってもおかしくない闘いでした」
記者「天野選手は面、恩田選手は『面返し胴』が得意技と言うことで、やりにくかったということは無かったですか?」
天野「いや、どんな相手であれ、どんな技であれ、自分がそれよりも早く打ち込むだけの事です。そういう意味では、最初の1本が上手くキマったのが幸運でした」
記者「あの先制攻撃は本当にお見事でした。今回見ていて驚いたのは、天野選手が面のみで戦い抜いたという点です。こんな試合は前代未聞だと言えると思いますが、天野選手は最初から面のみと決めていたんでしょうか?」
天野「はい、決めていました。僕の得意技だという事もありますが……彼女に真っ直ぐに気持ちを届けたくて……」
記者「おおっ、ここでまた彼女の登場ですね。『勝利の女神』に捧げる一本……という事だったんでしょうか?」
天野「はい。こういうことを言うと、また叱られるかも知れないんですが……今回は彼女のために、どうしても勝ちたかった。ただ運が良かっただけだとか、中途半端な勝ちじゃ彼女に振り向いて貰う資格が無いような気がして……とにかく正面から正々堂々と、全力で勝ち取った勝利を彼女に捧げたかったんです」
記者「ゾッコンですね」
天野「ゾッコンです。めちゃくちゃ夢中です」
記者「ハハハッ、コレは優勝インタビューというよりも、婚約会見みたいになっちゃいましたが……」
天野「いつかソレもしたいです!だから、それまでにもっと精進して、もっと強くならないと……」
記者「それは今後の活躍が楽しみですね。高校ではインターハイもありますし、今後の益々のご活躍を期待しています」
天野「はい、期待に沿えるよう精進します!」
記者「最後に『剣道ニッポン』を読んで下さっているファンの皆さんに一言」
天野「はい……これからも真っ直ぐで美しい剣道を目指して鍛錬を続けて行きますので、よろしくお願いします」
記者「ついでに彼女さんにも一言いっちゃいますか?」
天野「いいんですか?それじゃ……◯ ◯、彼女になってくれてありがとう!大好きです!」
試合の3日後に行われたインタビューでは、捻挫した左足にテーピングをして現れた天野選手。痛々しい姿ながらも表情が明るかったのは、優勝後というだけではなく、出来たての彼女が毎日テーピングしてくれているのだと聞いて納得。
神聖な武道場でキスをしたことで賛否両論が巻き起こったのは記憶に新しいが、その是非はともかくとして、彼女の存在が天野選手の勝利に貢献したことは疑いようもないだろう。
又、その事を隠しも恥じもせず、真っ直ぐに目を見て答えてくれた態度には非常に好感が持て、彼女を気遣って名前を伏せるよう頼む姿は、男性である記者から見ても魅力的に映った。
世論の彼への評価が高いのも、好意的な意見が多いのも納得の好青年であった。
高校進学後も剣道を続けると宣言した天野選手のこれからの活躍を、記者としてもファンとしても、ずっと追いかけて行きたい。
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