69 / 100
69、 お前のことが好きなんだ
しおりを挟む驚いた顔のコタローの手を引き、 ベッドサイドに腰掛けさせると、 私はその足元にひざまずく。
「私もね、 動画を見てちょっとだけ練習してみたの。 だけど、 使ってたのはこのテープじゃなかった。 やっぱり本人に聞かなきゃダメだね」
コタローから奪い取ったテープを両手に持ち、 コタローの足にあてがう。
「えっ、 お前、 練習って…… 」
恥ずかしくて顔を上げることが出来ない私は、 コタローの足を見つめたまま、 早口でまくしたてる。
「テープの持ち方はコレで合ってるよね? シワやたるみが出来ないように、 人差し指、 中指、 薬指を使って持つんでしょ? 違う? 」
「あっ、 ああ……正解。 テープのテンションが一定になるように引き出すんだけど…… 俺はその前に、 まずはテープの角をハサミで丸く切って…… 」
「ええっ?! 私が見た動画では、 そんなこと言ってなかった! やっぱり最初からコタローに聞くべきだったな、 失敗」
「失敗って、 お前…… 」
頭上から、「ヤバいな…… ツンデレが過ぎるだろ……」というコタローの呟きが聞こえてきたけど、 私はそれを無視して、 コタローの足元に片膝を立てて座る。
そこにコタローの右足を置くと、 改めてテープを両手で持った。
ーー あっ、 これはあの時の……。
これはいつの日か武道場で私が逃げ出した時の、コタローと色葉先輩の体勢。 こっそり観に行った試合会場で、 2人がふざけ合っていた時の体勢。 私はそれを見て……。
私が人差し指でコタローのふくらはぎをツーッとなぞると、 コタローは身体を仰け反らせてピョンと足を浮かせた。
「おいっ、 ヤメロよ! 俺がこういうの苦手だって知ってんだろ! 」
「知ってるよ」
「そんじゃ、 やんなよ」
「他の女には簡単にさせるくせに」
「はあっ? そんなんさせるかよ! 」
「覚えてないならいいよ」
「ハアッ? 意味分かんね」
ーー 色葉先輩にはさせたじゃん。
そして私は、 それを見て……。
「ねえ、 コタロー」
「んっ? 」
私はコタローに言われた通り、 コイツの足首を90度に固定した状態でテープを巻いていく。
「私ね…… ずっと色葉先輩が羨ましかった」
コタローの右足がピクッと動いた。
「色葉先輩は美人で大人っぽくて、 剣道もテーピングも出来て……。 私の方がコタローと一緒にいたのに、 色葉先輩の方が、 私よりずっとコタローの近くにいるみたいに感じた。 色葉先輩の方がコタローの役に立ってて、 コタローに相応わしいって…… 」
「……。」
「私はコタローのために何もしてあげられなくて、 悔しくて…… そのくせ何の努力もせずに、 自分が変わろうともせずに……勝手に拗ねてた」
「……。」
「コタロー、 私はね…… 色葉先輩に嫉妬してたんだよ。 私はコタローを…… 」
そこまで言うと、 コタローの右足に手を置いたまま、 黙り込んだ。
耳も首筋も、 全身が熱でカッカしている。
顔を上げることが出来ない。
「うん…… 知ってた」
「ハハッ…… うん、 そうだよね。 コタローには全部お見通しだよね。 だって私ってば、 甘いもの禁止令が解除になっても黙ってて……。 私ばっかり意識しちゃって…… 馬鹿みたいでしょ? 」
手も膝も震えてきて、 なんだか泣きたくなってきた。 巻きかけのテープが、 手のひらで汗ばんでいく。
「意識すんのが遅いんだよ、馬鹿ハナ」
「はあ? 人がせっかく真剣に…… 」
「…… お前は? 」
「へっ? 」
「お前は俺の気持ち、 お見通しじゃなかったのかよ」
思わず顔を上げたら、 そこにはじっと見下ろすコタローの、 真剣な眼差しがあった。
「俺、 めちゃくちゃ頑張ってアピールしてたんだけど」
「え…… 」
「俺、 色葉先輩の告白を断ったよ」
「…… 知ってる」
「そっか…… すぐに噂になってたもんな」
「うん…… 」
「俺、 手を繋ぐのも、 貢ぎ物をするのも、 ハナだけだぜ」
「……。」
「キスだってさ…… ハナじゃなきゃしないよ」
「でっ、 でもアレは、 対価交換で! 」
「対価交換なんて、 ハナとキスする口実に決まってんじゃん。 そもそもハナのためじゃ無かったら、 だれがわざわざチョコなんか取ってくるかよ」
「あ…… 」
「じいちゃんが言ってたんだけどさ、 男は女を落とすためにせっせと貢ぎ物をする生き物なんだってさ。 動物界でもさ、 雄が気に入った雌に求愛するとき、プレゼントをする習性があるんだよ。『婚姻贈呈』って言って、 そういう求愛神経回路が組み込まれてるんだって」
「神経回路…… ? 」
「まあ、 つまり……さ」
コタローは勢いよくベッドから下りると、 私の横で正座をして、 膝に手を揃えた。
「ハナ…… 俺は、 お前のことが好きなんだ」
11
お気に入りに追加
387
あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

本格RPGの世界に転生しました。艱難辛苦の冒険なんてお断りです!
九重
恋愛
読書とビーズアクセサリー作りが趣味の聖奈は、大好きなファンタジーゲームの世界に転生した。
しかし、このゲームは本格的なRPG。ヒロインに待っているのは、波瀾万丈、艱難辛苦を乗り越える冒険の旅だった。
「そんな旅、全力でお断りや!」
これは、聖奈が、将来敵になる魔獣の子を拾って育てたり、同じくラスボスになる王子様と仲良くなったり、妖精騎士(フェアリーナイト)を従えたり、自分自身の魔法の腕をとことん磨いてチートになったりするお話。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。
喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。
学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。
しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。
挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。
パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。
そうしてついに恐れていた事態が起きた。
レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。
伝える前に振られてしまった私の恋
喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
第二部:ジュディスの恋
王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。
周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。
「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」
誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。
第三章:王太子の想い
友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。
ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。
すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。
コベット国のふたりの王子たちの恋模様

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる