38 / 100
38、 モテ期到来? (3)
しおりを挟む私が急いで武道場に走っていくと、 まだ入口のあたりに下級生たちが群がっていた。
「あっ、 桜井先輩! 何処に行ってたんですか? 」
「さっき練習が終わって今は着替え中です!もうすぐ天野先輩が出てきますよ、 ラブレターお願いしますね! 」
「私を天野先輩に紹介してもらってもいいですか? 」
跳ねる息を整える間も与えず、またしても一斉に、 喋る、 喋る。
私は皆に向き合って一つ深呼吸すると、
「ごめんなさい! 」
膝に手をついて頭を下げた。
「皆さんごめんなさい! 一度預かっておいて申し訳ないけれど…… 私からコタローに手紙を渡すことは出来ません! すいませんが自分の手で渡して下さい。 本当にごめん! 」
周囲がシーンとするなか、 頭を下げたまま、 両手で手紙の束を差し出した。
「何やってんだよ! 」
急に怒鳴り声がして顔を上げると、そこには武道場から出てきた制服姿のコタロー。
「あっ、 コタロー」
「ハナっ、 どうした?! 大丈夫か! 」
コタローは血相を変えて走ってくると、私を背にして下級生の前に立ちはだかる。
「お前らっ、寄ってたかって何やってんだよ! こんなに大勢で取り囲むなんて卑怯だろ! ハナに何を言ったんだ!フザけんな!」
鬼のような顔で一気にまくし立てた。
「コタロー、 ちょっと…… 」
「いいからハナは黙ってろ。……いいか、今度またコイツにこんな事をしてみろ、お前ら全員、武道場に出入り禁止だ! いや、もう来んな!」」
「コタロー、 違う」
「これからは文句があるなら俺に直接言ってくれ。頼むからハナには……ハナにだけは絶対に手を出さないで…」
「コタロー! 違うってば! 聞いてよ! 」
私の大声でようやく話すのをやめ、 クルッと振り向いた。
「違う? 違うって…… 何が? 」
「彼女たちは何もしてない! ただ私が預かった手紙を返してただけなの! 」
「手紙を? 預かった? …… ナニソレ」
「いいの。 とにかく…… 私は何もされてないし、 コタローが怒るようなことは何もない」
するとコタローは、「はぁ……」と心底ホッとしたように息を吐いて、 私をガシッと抱きしめた。
「もう……マジでビビったじゃん! なんだよお前、早く言えよ……」
「言ってたけど聞いてなかったんじゃん!」
「まあいいや、無事ならそれでいいよ。見学してたはずのお前が途中で消えちゃうしさ、マジで心配してたんだからな」
「うん…… それは、ごめん」
「集中できなくて、先輩に面を打たれまくったわ! お前、 責任取って慰めろよな」
「うん……悪かった」
コタローの背中に手を回して、ポンポンと軽く叩いていたら、視線を感じて手を止める。
コタローの肩越しにチラッと覗いてみたら……。
「「「 キャーーーーッ! 」」」
突然の叫び声にビクッとして、コタローからパッと離れた。
「凄い!尊い!先輩、 応援してます! 」
「ナイスカップルです! 」
「お邪魔しました! あっ、手紙は捨てといてください! 」
見るとさっきの女子がみんな顔を赤らめて、 口や頬に手を当てている。
そしてなんやかんや口々に叫びながら、一斉に走り去って行った。
「なんだ、あいつら。騒がしい……」
「コタローがそれだけ人気があるってことなんでしょ」
「別に人気なんてねーよ。このまえ準優勝だったから、 ちょっとどんなヤツか顔が見たかったんじゃね? 」
そう言って、歩き出す。
その背中を見て思った。
コタローは今までもこうやって、自分がモテることもシレッと内緒にしちゃって、私が何も気にせずにコタローのそばにいられるよう、自然でいられるように、気を配ってくれてたんだな……って。
こんなヤツの近くに長い間一緒にいてさ、今までずっと好きにならなかった私の目って、すっごいフシ穴だよね。
バカだな…… 私。
好きって気付く前に先にキスしちゃったよ…… ホントにバカだ……。
コタローが立ち止まり、私を振り返って不思議そうな顔をする。
「ハナ、何? 買い物に行くんじゃないの?」
「……あっ……うん…… そうだ!さっき京ちゃんがスイートポテトをくれるって言ってた」
「はあ? お前、俺の勇姿を見ないで京ちゃんとこに行っとったんかい! 」
「ハハハッ、ごめ~ん!スイートポテトを1個あげるから」
「お前が作ったんちゃうやろ!」
「ハハッ、なんでいきなり関西弁?!」
「そんなもん知るか~い! ほら、早いとこスイートポテトを貰って買い物に行くぞ!」
「うん! ほな行こか」
当然のように手を繋ぎ、一緒に並んで走り出した。
1
お気に入りに追加
387
あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

本格RPGの世界に転生しました。艱難辛苦の冒険なんてお断りです!
九重
恋愛
読書とビーズアクセサリー作りが趣味の聖奈は、大好きなファンタジーゲームの世界に転生した。
しかし、このゲームは本格的なRPG。ヒロインに待っているのは、波瀾万丈、艱難辛苦を乗り越える冒険の旅だった。
「そんな旅、全力でお断りや!」
これは、聖奈が、将来敵になる魔獣の子を拾って育てたり、同じくラスボスになる王子様と仲良くなったり、妖精騎士(フェアリーナイト)を従えたり、自分自身の魔法の腕をとことん磨いてチートになったりするお話。
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。
喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。
学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。
しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。
挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。
パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。
そうしてついに恐れていた事態が起きた。
レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。
伝える前に振られてしまった私の恋
喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
第二部:ジュディスの恋
王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。
周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。
「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」
誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。
第三章:王太子の想い
友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。
ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。
すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。
コベット国のふたりの王子たちの恋模様

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる