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30、 恋と独占欲

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「えっ、 すっぽかした?! お昼のチョコレートタイムを? 」
「シッ! 声が大きい! 」


 月曜日の放課後。
 靴箱の前で京ちゃんに近況報告をしたら、めちゃくちゃ驚かれた。
 周囲をキョロキョロ見回したけれど、 幸い近くにコタローはいないようだ。
 もう先に帰ったのだろう。


「すっぽかしたんじゃなくて、 ショートメールで行けなくなったって伝えたの。 日曜日にいろいろあってさ、 なんか気まずいって言うか、 落ち着かないって言うか…… 」

「え~っ! それじゃドタキャン?! チョコレートの行き先は? 必死で取ってきたコタローが可哀想じゃん」

「だって、 いろいろ考えてたら頭が混乱しちゃって、 どうしたらいいか分からなくて…… 」

「…… あなたねえ、 自分で頼んでおいたチョコを受け取らず、 帰りも私と遊ぶからって嘘ついて、 自分がどれだけ失礼なことをしてるか自覚してる? 」

 京ちゃんの言うことはいちいちごもっとも。
 正論すぎて反論の余地よちなし。

 でもさ、 だけどね……。


「自覚してるし悪いと思ってるよ。 だけど、 緊急事態なんだってば!  頭の中がいっぱいいっぱいでパニック状態なの! お願い、 助けて! 」

 神に祈るように両手の指を組んでおがんだら、 京ちゃんはフ~ッと一つ溜息ためいきをついて、 カバンから自転車のかぎを取り出した。


「まあいい、 お説教せっきょうは後でするとして、 とにかくその『日曜日のいろいろ』を聞かせてもらおうじゃないの」

 どうにか京ちゃんを口説き落とした私は、 家に向かってキコキコ自転車をぎながら、 どこまで『いろいろ』を話していいものかと考えていた。



***



「えええぇっ! キスぅう?! 」

「ちょっと京ちゃん、 声がデカい! 」
「そりゃあデカイ声も出るでしょう!  チョコとキスの対価交換って、 そんなの聞いたことないわっ! 」

「うん、 私もそんなの聞いたことなかったから最初は驚いたんだけどね…… おおっ! もしかしたら、 私とコタローが世界初なんじゃない?!  」


「…… ハナ」

 京ちゃんはめた目で私をチロッと見てから、 
「今あんたが考えなきゃいけないのはソコじゃない」と、 また正論を言った。


 京ちゃんにどこまで話すべきか悩んだけれど、 結局つつみ隠さず全部話すことにした。

 キスの事まで話すのは流石さすがにちょっと躊躇ためらわれたけれど、 そこをすっ飛ばしてしまったら、 私が悩んでることの核の部分が伝わらないと思ったから。



「そっか~、 剣道部の綺麗きれいなお姉さん先輩がコタローをねえ…… ホント漫画みたいだね」
「うん、 私も『漫画かよっ!』って思った」

「それで、 ライバルの出現でハナもコタローを意識しだして、 日曜日にとうとう恋心を自覚したと…… 」
「それで…… というか…… 」

 あれっ? 私はいつからコタローを好きになったんだろう。
 日曜日?  いや…… あれっ? 


「ねえ京ちゃん、 私っていつからコタローを好きだったんだろう? 」
「ええっ! 私に聞く?! 」

 私の問いに京ちゃんは目線を斜め上にしてちょっと考えていたけれど、 脳内に何か思い浮かべたみたいで急にフフッと鼻で笑う。


「まあ、 私が塾であんた達に出会った時には、 2人揃って『お互いがとても大事』光線がビシバシ出てたけどね。 それが恋かどうかは別としても、 その頃からずっとかけがえの無い大切な存在だったんじゃないの?  」

 京ちゃんと塾で知り合って友達になったのが小3の時だから…… まあ、 要は、 私はずっと前からコタローが大事だったってことだな、 うん。


「それで、 ハナとしてはこれからどうするつもり? コタローに気持ちを伝えて恋人になりたい?  綺麗きれい先輩とたたかう? 」

「綺麗先輩じゃなくて色葉いろは先輩ね。 う~ん…… 『私は関係ないんで。 キリッ!』ってやっちゃったからなぁ…… それに、 正直いうと、 この気持ちが幼馴染の独占欲じゃないとも言い切れないというか…… 」

 急に意識しだしたのが色葉先輩への対抗心からだとしたら、 それは『恋』ではなくて、 ただの『独占欲』だ。

 『恋』と『独占欲』なら、 『恋』の方が本物で強い気がする。


「何言ってるの? 『好き』で『独占』したくなるのが『恋』なんじゃないの? そこは分けなくてもいいじゃん」

「おおっ、 凄いね京ちゃん、 なんか上級者っぽい」
「ふふっ…… まあ、 私もまだ恋をしたことは無いけどね」
「無いんかいっ! 」

「でも、 恋をしたことがない私でも分かる。 今ハナに大事なのは、 ここでウダウダ私に悩み相談することじゃなくて、 コタローに会いに行くことだって。 まずはちゃんと顔を見て、 今日のことを謝っておいでよ」

「………… うん」

 そうだね、 京ちゃん。

 幼馴染としてか何なのかは分からないにせよ、 私がコタローのことが好きで大切だと思ってることに変わりはないんだもんね。

 近くにいたいんだったら、 避けてちゃダメだ。


「ありがとう、 京ちゃん。 私、 謝ってくる」
「うん、 頑張れ」

 ドアに向かって歩きだした私の背中に、 京ちゃんから最高のエールが投げられた。


「ハナ、 いいことを教えてあげるよ。『だったら私が天野くんをもらってもいいよね? 』なんてセリフはね、 『当て馬』が言うもんだって昔から決まってるから。 ……ヒロインはハナだよ! 」


 ありがとう京ちゃん、  ヒロインかどうかは分からないけど、 ちょっくら行ってくるよ!
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