たっくんは疑問形 〜あなたと私の長い長い恋のお話〜

田沢みん

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最終章 2人の未来編

25、愛の言葉をくれないの?

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「たっくん、合格したよ!」
「よっしゃ!小夏、合格おめでとう!頑張ったな」

 立春とは名ばかりの、まだまだ寒い2月の第2週。インターネットでセンター利用入試の合格を確認した私が真っ先に連絡した相手は、勿論たっくんだった。


「私……会いに行ってもいいんだよね」
「うん、会いに来てよ」

 昨年の3月に横須賀で会って以来、1年近く。本当の本当に長かった。

 大学に合格するまで会わないと決めたものの、その分FaceTimeや電話でやり取りすればいいと考えていたのが大間違いだったと気付いたのはすぐのこと。

 実際の受験勉強はそんなに甘いものでは無く、塾に模試に夏期講習。ひたすら勉強漬けの日々に、甘い空気は御法度だったのだ。


 何せ集中力が途切れまくる。
 メッセージが来たら速攻で返事を送りたいし、送ったらその返事を期待して待ってしまう。結果、延々とやり取りが終わらない。

 最初の頃は寝る前のFaceTimeがお約束になっていたのだけれど、それだと会話を打ち切るのが辛くて、1時間でも2時間でも平気で話し続けてしまう。
 ある夜、明け方近くまでずっと話していて全く勉強しなかった事に気付き、さすがに愕然がくぜんとした。

ーーこのままじゃ駄目だ。受験のために会わないと決めたのに、これじゃ意味が無い!

 それからは、基本的には『おはよう』と『おやすみなさい』の挨拶をメッセージで送るのみ。
 あとは模試の結果だったり、どうしても伝えたい事があった場合に短い文章で近況報告をするに留めた。

 それでもどうしても辛くなって電話してしまう事もあったけれど……『駄目だ、もうそろそろ切るぞ』たっくんが心を鬼にしてそう言うのを合図に、泣く泣く電話を切って、また机に向かったのだった。


 会いたくて堪らない時には、心の中で呪文を唱えた。

ーー会えなかった6年間を思い出せ。

 あの時の辛さを思えば、希望が待っている1年間なんてあっという間だ。それにここで頑張らなかったら、この辛さを更に1年間延長する事になってしまう。
 そう思ったら俄然がぜんやる気が起こり、勉強にも身が入った。

 その結果、無事に第一希望だった東京の私立大学に合格することが出来、3月の中旬からはアパートで1人暮らしする事が決まっている。

 しかも私の専攻する経済学部のキャンパスがあるのが神奈川県の川崎市なので、たっくんのアパートまでは電車とバスを乗り継いで約2時間の距離。
 近いとは言い難いけれど、新幹線を使わなくても日帰りできる距離だ。充分ありがたい。


 名古屋の大学に進む千代美と清香には、『その大学を選んだのって、和倉くんの側に行きたかったから?』って聞かれたけれど、私の成績でも頑張れば行けそうで、しかも経済学部のレベルが高い所を探したら、たまたま候補の1つにこの大学が上がっただけのこと。

 でも、最終的な決め手はキャンパスの場所だったから……やっぱり千代美たちの言う通りなのか。



「私、明日から2泊3日でアパート見学に行くよ」
「うん」

「お母さんも一緒だけど、たっくんと穂華さんに会いに行くからね」
「うん、そうか……」

ーーあれっ?

「たっくん……もしかして、あまり喜んでない?……とか?」

「違うわ!」
「ひゃっ!」

ーー急に大声出したらビビる!

「なっ、何?!ビックリするじゃん!」
「嬉しいに決まってるだろっ!」

「だって反応が鈍いから……」
「感動してんだよ!」


「やっとお前に会えるんだぞ?!そんなの嬉しすぎて言葉も失うだろっ! 」
「……そうなんだ」

「そうなんだよっ! 嬉しくて感動して……胸が一杯なんだよ。小夏、頑張ったな。合格してくれてありがとう。愛してる」

ーーあっ、愛してるって……!

 こういうイケメンな台詞セリフを電話でサラッと言えちゃうのってズルイなぁ……。
 別れの時ならいざ知らず、素面シラフで愛の言葉を囁くのは私にはハードルが高い。

「うん……私も」

 だから私には、これが精一杯。

「私も……何?」
「えっ?!」

「なんだよ、受験が終わった途端に忘れたの? けい助詞の後は強調される言葉が続くんだろ?『も』の後に続く言葉をちゃんと言えよ」

ーーうわっ……

「今日のたっくんはなんだかSっ気が前面に出てるね」
「ハハッ、こんなのまだまだだよ。今度2人っきりで会ったら思いっきりかせるよ」

「え~っ、私、何もされなくてもたっくんの顔を見た途端に泣いちゃうと思う」
「違うって、そうじゃなくてさ……」

「えっ、違うの?」
「違う、天然かよっ! お前がやめてって言うまで一晩中抱き潰して、思いっきり啼かせるって意味に決まってるだろ!」

ーーはぁ?!

「何言ってんの? 馬鹿っ!」
「おっ出たな。久々の『馬鹿っ!』が。1年ぶりに聞くと新鮮でいいな」

「もっ、もういいよ! 今から学校に報告に行くから電話切るからね。それじゃあね」

「おい、待てよ」
「えっ、何?」

「愛の言葉がまだだって!」

ーーはぁあ?!

「『愛の言葉』って、自分でそこまで言っちゃってるじゃない」
「自分で言うのと小夏に言ってもらうのとじゃ全然違うだろ。なんだよ、愛の言葉をくれないの? 」

「ええっ、改めて言うのは照れる」
「改めなくていいから言ってよ。ほんとマジで頼む!一生のお願い!1年ぶりの甘い囁きをちょうだい!」

 こんなに甘々モードのたっくんなんて珍しい。
 それだけずっと我慢してくれてたんだ……。

「ふふっ、安い一生のお願いだね……愛してる」
「うわっ、軽っ!もう一声!」

ーーもう、全く、本当に……もう!

「たっくん大好き、愛してる……早く会いたい。会ったら思いっきりギュッてしてね」

「…………。」

ーーえっ?

「やだっ、たっくん、黙り込まないでよっ、恥ずかしいじゃん!」

「……最高だな。俺の脳内レコーダーにバッチリ記憶したぜ。今日から本番まで何度も思い出してオカズにするわ」

「お……!ばっ、馬っ鹿じゃないの?!もう切るからね!じゃあね!」


『ハハハッ』と言う笑い声を聞きながら通話終了ボタンを押した。

 首筋まで火照っているのは、たっくんの言葉に期待した訳じゃないからっ! 本当に、本当だからねっ!
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