209 / 237
最終章 2人の未来編
15、母の本音 (1)
しおりを挟む帰りの新幹線では、白い雪を被った雄大な富士山が右側の車窓からクッキリと見えた。
たっくんと一緒に見ながら帰るという望みは残念ながら叶わなかったけれど、心の中はとても晴ればれとしている。
ーー大丈夫、私たちには次がある。
あれからたっくんは、部屋で穂華さんと待っていた母に丁寧に御礼を言い、玄関前で見送る時には『小夏さんとこれからもお付き合いさせて下さい!』と深々と頭を下げてくれた。
私も慌ててたっくんの隣に並んで一緒に頭を下げると、母は『あら、まるで結婚の申し込みみたいね。こちらこそ、小夏をよろしくね。私達で出来ることがあれば言ってちょうだい』とたっくんの肩に手を置いた。
後ろで穂華さんが車椅子に座って見ていたから、彼女の前でこんな会話をしていて大丈夫なのかな?と心配だったけれど、たっくんによると以前『拓巳くんは彼女いるの?』と聞かれて、『はい』と答えてあったそうだ。
『そこはどうしても嘘をつきたくなくってさ』そう首の後ろをさすりながら照れたように言うたっくんが愛おしかった。と同時に、だから穂華さんは最初から私に対してあの態度だったのか……と納得がいった。
『また連絡するから』
たっくんはそう言って新しい電話番号もメアドも私のスマホに登録し直してくれた。
私たちに『また』がある……それが嬉しくて堪らない。
ーーやっぱり行ってよかった……。
スマホを胸に抱きしめて、改めて喜びを噛みしめる。満足感と達成感で心が満たされている。
帰ったらすぐに清香たちに会いに行こう。借りたお金も返さなきゃ。
ーーだけどまずは……
「お母さん、ありがとう」
一緒に富士山の方向を眺めていた母に顔を向けると、「あら、急に何?」とキョトンとされた。
「何って……私が知らないところで穂華さんの力になってくれて、今回は私のワガママに付き合ってくれて……お母さんがいなかったら、きっとあそこまで辿り着けなかった」
「本当にね~、小夏には驚かされてばかりよねぇ」
「ごめんなさい。だけど私……もう後悔したくなかったの」
それを聞いて母は苦笑しながらも、何故か瞳を潤ませている。
「……お母さん?」
母は黒いハンドバッグからハンカチを取り出すと、目尻にそっと当てた。
「小夏…… ごめんね」
「えっ?」
「……正直に言うわ。お母さんね、本当は小夏を拓巳くんと関わらせたくないって思ってた」
ーーえっ?
「えっと……それは、穂華さんがアルツハイマーだから?」
突然の告白に一瞬戸惑ったけれど、穂華さんの病状を見れば、母親としてそう考えるのも仕方がないだろうと思えた。
ーーそれでもお母さんはたっくんとの付き合いを許してくれたんだ。今は感謝しかない。
そう解釈して勝手に納得していた私に、母はゆっくりと頭を振る。
「違うの。もっと前……私は最初からずっと……」
「えっ? 最初から……って…… 」
「ええ、 最初の最初。拓巳くんと初めて公園で会った時から、 この子は家庭に問題がありそうだから、 小夏と仲良くさせたくないな……って思ってた」
ーーえっ、だって……。
「ウソでしょ? お母さんはいつだってたっくんに優しくしてくれたじゃない」
「そうね。 優しくて常識のある大人でいようと……そうあろうと努力していたわ。拓巳くんには何の罪もない。 社会や一部の大人が悪いだけなんだ。 だから私だけでも子供達を正しく導く立派な大人でいなければいけない…… そう自分に言い聞かせていたの。 だけど…… 」
母は時折言葉を詰まらせながらも、ゆっくりと話を続ける。
「だけどね、心の中ではずっと、『お願いだから、小夏を巻き込まないで』って思ってた。 拓巳くんを可哀想だと思いながらも、 疎ましく思ってもいたわ。ずっとずっと…… 心の中で葛藤を続けていたの」
『小夏が好きになったのが普通の子だったら良かったのに』
……そんな風に思う自分が嫌だったのだと、母は涙ながらに語った。
0
お気に入りに追加
262
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる