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第5章 失踪編

3、まんざら嫌じゃないだろ?

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 たっくんは私の手に自分の手を重ねたまま、正面から真っ直ぐに見つめて話を続ける。

「お祖母さんが入院したって、さっき話したろ?」
「うん……だから会いに行くの?お見舞い?」

「そう。お見舞いと……荷物の整理」
「整理?」

 私が首を傾げると、たっくんが電話の内容と事情を説明してくれた。

「お祖母さんだけどさ、3日前……22日なんだけど、心筋梗塞で入院してカテーテル治療ってのをしたらしくて、今も入院中なんだ」

「心筋梗塞……って、大変な病気なんだよね?」

 私が不安げな表情を見せると、たっくんは「うん」とうなずく。

「電話をくれたのは叔父おじさんなんだけど、お祖母さんももう高齢だし、何かあったら離れの整理をしなくちゃいけないから……置いたままにしてある俺や母さんの荷物を片付けてもらえないかって」

「えっ?!」

 驚いて口を半開きにした私を見て、何を考えているかが分かったんだろう。たっくんが苦笑した。

「そう思うよな? 俺だってビックリしたよ。お祖母さんの見舞いに来いって話かと思ったら、荷物を片付けろって……でもさ、実際問題、お祖母さんの面倒を見てるのは叔父さん達で、向こうからしてみれば、確かに俺たちの荷物は邪魔でしか無いんだよな」

「だからって……」

「いいんだ。荷物って言っても大したものは無いし、お祖母さんの顔を見に行って、ついでに片付けて来るよ」

 暗い顔になった私を元気付けるように、握る手に力を込めて、ニカッと笑って見せた。


「ちゃんと帰って来るんだよね?」
「当然だろ?俺が小夏と離れて生きていけると思ってんの?」

「たっくんと離れたら、私が生きていけない」

 すがるように見つめたら、たっくんが目を細めて頷いた。

「俺たちは、もうあの時みたいな子供じゃない。絶対に離れないよ。ずっと一緒だ」
「うん……」

 その言葉に安心した私はようやく笑顔を見せることが出来て、その後はたっくんの腕に抱きついて思いっきり甘えながら、一緒にお土産屋さんを覗いたり、ゲームセンターでUFOキャッチャーをしたりと楽しんだ。

「ねえ、プリクラ撮ろうよ」
「えっ、嫌だよ!目がデカくなるんだろ?怖っ!」

 両手で自分の身体を抱き締めて、ブルブルっと大袈裟に震える仕草をする。

「あまりってないのもあるんだってば。前に千代美たちと撮ったけど大丈夫だったし」

 記念に撮りたいと粘ったら、渋々ながら一緒にゴテゴテした派手なカーテンをくぐってくれた。

「俺、こんなの初めてだから緊張するわ」
「本当? やった!またしてもたっくんの初めてをゲット!」

「何言ってんだよ。これからずっと一緒にいるんだから、俺の初めてなんていくらでも見られるだろ?」

「いいの。そのたびに感動して喜んで、心にちゃんと刻み付けておきたいから」

「そっか……それじゃ俺も小夏との初体験を楽しむとするわ」

 そう言いながら小銭をチャリンチャリンと投入していく。


「どうすりゃいいの? 俺、マジで初めてだから何も分かんないぜ」

「へへっ、実は私もあまり慣れてないんだよね。とりあえずモードを選んで写真を撮ったら後で背景を選んだり文字を書き込んだりしてたよ」

 よく分からない2人で機械の陽気な声に言われるままにモードを選択してボタンを押す。
 とりあえず棒立ちでカメラを見つめていると、カウントダウンが始まった。

ーー3、2、1……えっ?!

 最後の1がカウントされる直前に、たっくんにグイッと肩を抱かれて頬にキスされた。
 手にしていたUFOキャッチャーの戦利品のペンギンのぬいぐるみを、思わずポトリと落とす。

「えっ、ちょっと!」
「ほら、次のポーズしろよ」
「もうっ!」

 3、2、1……

 次はチュッと唇にキス。

「もうっ、バカっ!思いっきり顔が隠れたし!」
「ハハッ、最後くらいはちゃんと前見ようぜ」
「たっくんのせいなのに、何言って……」

 3、2、1……

 悔しいから最後は私から頬にチュッとキスしてやったら、たっくんが目を見開いて驚いて……それからお腹を抱えて大笑いした。

「ハハハッ、小夏、なかなかやるなぁ。でも、これじゃ2人で正面向いたの1枚も無いぜ」
「……撮り直す」
「マジか!やる気満々だな」

 それから再チャレンジしてちゃんと2人で顔を寄せ合った写真も撮って、慣れないなりにラブとか名前とか書き込んだりして…… 撮った写真を2人で分けっこしてスマホケースと生徒手帳に貼り付けた。

「キスプリなんか撮っちゃって、馬鹿ップルだな」
「あ~っ!キスプリとか言って、なんか慣れてるるし!」

「慣れてねえし過去に誰とも撮ってもいねえし!キスプリなんて普通に耳に入ってくる単語だろっ?! 俺だって恥ずかしいのに頑張ったんだから褒めてくれよ」

「ふふっ……御苦労様でした。それと、ありがとう、恥ずかしいのに我が儘を聞いてくれて。思い出が増えて嬉しい」

 私がそう言うと、たっくんが顔をクシャッとさせて、私を抱き寄せた。

「たっくん……ここ、ゲーセンだし、目立ってるし……」
「……いいじゃん、恥ずかしいついでに、馬鹿ップル全開だぜ」

「……本当に馬鹿ップルだ」
「……でも、まんざら嫌じゃないだろ?」

ーー満更というか、かなり、結構……

「嫌では……ない」

 躊躇ためらいがちにくぐもった声で答えたら、「ハハハッ」と頭上から笑い声が降って来た。

ーー良かった……いつものたっくんだ。

 たっくんが一番肝心な事だけを私に告げていなかったなんて知らなかった私は…… さっきまでの不安が吹き飛んで、今度は安心感で胸が一杯になって、また泣き顔になっていた。
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