たっくんは疑問形 〜あなたと私の長い長い恋のお話〜

田沢みん

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第2章 再会編

40、お前、嘘をついてたの?

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 翌朝、私が千代美ちよみ清香きよかと3人で駅の改札を出ると、いつものようにたっくんが柱にもたれて待っていた。
 気を利かせて先に歩いて行った2人から遅れて、私がゆっくりとたっくんに歩み寄ると、彼は柱から体を起こして私を見た。


「風邪は……もう大丈夫? 」
「うん、ありがとう。昨日は来てもらえなくてごめんね」

「いや、お前が寝てるのを邪魔したら意味ないし…… 」

 たっくんがいつものくせで、 私の手を握ろうと自然に指先を伸ばしてきたけれど、私は無意識にバッ! と振り払ってしまった。

ーーあっ!

 途端に彼はひどく悲しそうに目を伏せて、行き場を失った手をポケットにおさめて歩き出す。

ーーああ、たっくんを傷つけてしまった……。

 たっくんを好きなのに、そばにいたいのに……朝美さんとのことが頭をよぎって、その手で触れられたくないと瞬間的に思ってしまったのだ。

 そんな風に思ってしまう時点で、私たちはもう駄目になりかけているんだろうか……。

ーーううん、そんな風に考えちゃ駄目だ。

 こんな事で弱気になったら朝美さんの思うツボだ。

「そんなの駄目! 絶対に! 」

 頭の中で考えていたことがそのまま口に出てしまったらしい。
 たっくんがハッと立ち止まり、驚いた顔で私を見つめた。ブルーの瞳が自信なさげに揺れている。

ーー大切な人にこんな目をさせてちゃいけない。

 逃げてないで、彼とちゃんと向き合おう……そう思った。

「ねえ、たっくん、今日ってバイトなの? 」
「いや、今日は休みをもらってる」

「……それじゃ、放課後にたっくんのアパートに行ってもいい? 」
「ああ、俺もそのつもりでバイトを入れなかったから……」

 同時にうなずきあって、また歩き出す。

 お互いハッキリとは口に出さなかったけれど、今日会うということは、過去の女の子たちとのこと、朝美さんとのこと……それらを含む、たっくんの過去について話すことになるんだろう。





 放課後、部室に向かう千代美たちに別れを告げ、私はたっくんと並んで校舎を出た。

 校門を出て左折しようとした途端、それに気付いた私たちはギョッとして足を止めた。

「朝美、どうして…… 」

 道路に向かって校門にもたれ、退屈そうに遠くをながめていた朝美さんが、たっくんの声でパッと顔を向けた。

「拓巳っ! 」

 顔をパアッと輝かせて、彼女は小走りで掛け寄って来る。
 そして顔に触れようと伸ばしたその手をスッとけて、たっくんは一歩後ろに下がった。

「拓巳……? 」

 朝美さんが一歩前に出ると、たっくんはまた一歩下がる。

「お前、どうしてここが……? 」

 朝美さんはチラッと私を見て口角こうかくを上げると、またたっくんを見つめて、自慢話をするかのように語り出した。

「昨日、そこにいる小夏さんが私と別れて帰る時にね、どこ行きのバスに乗るか遠くから見てたの」

ーーあっ!

「私の後をつけてたんですか?! 」
物騒ぶっそうなことを言わないで。私は遠くから見送ってただけよ」

「小夏 ……お前、嘘をついてたの? 昨日は朝美に会いに行ってたのか? 」

「そうよ、彼女、拓巳のことが信じられなくて不安でたまらなくて、わざわざ私を訪ねて来たの」

「違う!私はただ……! 」

「それにしてもラッキーだったわ。小夏さんの乗ったバスと拓巳のバイト先からアタリをつけて、『青い目のイケメン高校生を知らないか』って、この付近の高校で聞いて回ったの。長期戦を覚悟してたけど、拓巳はやっぱり有名なのね。1校目でいきなり『うちの高校じゃないけど……』って教えてもらえたわ。カラコンをやめててくれて助かった」


ーー あっ……。

「この前はまだ黒目くろめでいると思ってたから、『外人みたいに彫りの深いイケメン高校生を知らないか』って、学生が集まっていそうな場所で片っ端から聞いて回って、結構時間が掛かったの。 『高校生かは分からないけど、ハーフっぽい青い瞳のイケメンが働いてるバーがあるよ』って教えてくれた子がいて、行ってみたらビンゴだったわけだけど…… 」


 その言葉を聞いた途端、地面が真っ二つに割れて、そこからストンと地の底に落ちたような感覚があった。

ーー私のせいだ……。

 私がたっくんにコンタクトレンズをやめるようにすすめたから ……青い目が好きだって言ったから……。

 もう風邪はなおったはずなのに、昨日みたいに頭痛がする。目がぐるぐる回って吐きそうだ。

 背骨をせり上がってくるような悪寒と不快感に襲われながら、私は真っ暗な地の底で慄いていた。
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