たっくんは疑問形 〜あなたと私の長い長い恋のお話〜

田沢みん

文字の大きさ
上 下
69 / 237
第2章 再会編

18、今度こそ逃げるなよ?

しおりを挟む

「アイツらが……紗良たちがいい気がしないのは分かってた。だけど、俺がおどしておけば大丈夫なんじゃないかって、心の中では楽観視していて……馬鹿だよな、こうなることは予想出来たのに、それでも俺はお前といたくって、 深く考えないようにしてたんだ」

 そこまで言うと、たっくんは右手で額を押さえて辛そうに俯いた。

「だから、実際にお前に被害が及んだって分かった瞬間に、頭ん中がブッ飛んで、アイツらを殴りつけて黙らせる事しか浮かばなかった。アイツらに腹が立ったのもそうだけど、油断してた自分自身への怒りもあったんだ」

「うん…… 」

 たっくんの話をさえぎりたくなくて、私はひたすら相槌あいづちをうつのにてっした。

「怒りに任せて飛び出そうとしたら、お前に止められて、悪魔になるって言われて……あんなに憎んでた男と同じことをしようとしてる自分がショックで、愕然がくぜんとした」

「でも、たっくんは思いとどまってくれたじゃない」

「ああ……あそこで暴力沙汰ざたを起こして退学にでもなってたら、小夏と一緒に学校に通えなくなるところだった。後で思い出して恐ろしくなった。絶対に、もう二度とあんな風になっちゃ駄目だって思った。それから……」

 何故か言い淀むのを見て、私が「それから?」と聞き返すと、たっくんは思い切ったように先を続ける。

「生徒指導の飯田いいだに呼び出された時に、急に俺の目が青くなったらみんなが騒ぐから、今まで通りに黒いカラコンをしたらどうだって言われた」

ーーえっ?!

「そんなのヒドイ! たっくんの本当の色なのに!」

「ああ、俺も断った。小夏がこの瞳の色を好きだって言ってくれたから、迷わなかった。たぶん小夏と再会する前の俺だったら、面倒くさがって言われるままにしてたと思う。そもそも、本当の色に戻そうとも思わなかっただろうしな」

 私の顔を見て、クスッと笑った。

「それで……その時に、下駄箱の貼り紙や嫌がらせのことを話した。『犯人に心当たりはあるのか』って聞かれたから、『ある』って答えた。でも、証拠は無いし、しかも紗良たちのグループだって言ったら、飯田が一気に弱腰よわごしになった。 ……紗良の父親は市会議員で、母親がそいつの愛人だっていうのは、先生たちや一部の人間だけが知っている」

ーーえっ……。

「プライベートな事だから言わない方がいいんだろうけど……この辺りを誤魔化すと、小夏がねるからな」

「拗ねっ?!……ごめん」

 たっくんはハハッと愉快ゆかいそうに目を細めると、話を続ける。

「元々大人なんて信用してなかったけど、ちょっと下駄箱の見廻みまわりを強化してくれたらいいかな……ぐらいには考えていた。でもアテにならないって分かったから、自分でどうにかしようと思った」

「それでしょっちゅうB組に来て…… 」
「うん、そう」

 清香が言ってたことが当たってたんだ……。

「小夏の事が心配だったから、休み時間のたびに様子を見に行った。だけどずっとくっついてる訳にはいかないし限界がある。どうしようかと思ってたら、紗良から『会いたい』ってメールが来た」

「それで…… 」

「ああ。小夏への嫌がらせをめさせるなら、リーダー格のアイツに頼むのが一番手っ取り早いと思ったんだよ。それで呼び出しに応じてお願いしたら、キスをせがまれたんだ。口じゃなければギリセーフだと思ったし、それに……お前が見てるなんて思わないだろ? 」

「たっくんにはギリセーフでも、私にはアウトだよ」

「ああ、小夏はそうだろうな。だから来て欲しくなかったのに……なんで追いかけて来るんだよ。 知らなきゃ済んだ話なのに」

「知らないところでコソコソされてる方が嫌に決まってるでしょ! ……そりゃあ、目の前で堂々とキスされても嫌だけど…… 」

「あんなホッペにしたぐらいじゃキスとも言わねえよ」
「言うよ! 何それ、信じられない! 」

「そんじゃ、俺はどうすりゃ良かったんだよ! お前が嫌な思いするのを黙って見てろって言うのかよ! 」
「そうだよ! 黙って見てればいいんだよ! 」

「……えっ?!」

 たっくんがソファーから体を起こして私を見つめた。
 思いっきりキョトンとしている。


「たっくん、私はたっくんの彼女になるってうなずいた時に、とっくに覚悟してたよ。たっくんがモテるのなんて保育園の時からいやっていうほど知ってるし、こうなる事は予想がついてた。それでもたっくんと付き合うことを選んだのは私なんだから、これは私の問題なの」

「違うだろ、小夏は何も悪い事してねえのに…… 」

「好きな人が離れてくのは苦しいんだよ。その苦しみを誰かにぶつけたいと思っちゃうんだよ……。私もね、たっくんがいなくなった時、母親に当たりまくった」

「そうなの? 」

「うん、酷かった。でもお母さんは受け止めてくれて、一緒に泣いてくれた。だから紗良さんたちは、大好きなたっくんには怒りをぶつけられなくて、私を対象にしたんじゃないかな。確かにあんなことをされて腹が立つし悔しいけど、たっくんと離れる苦しみを思ったら全然耐えられる。命を奪われるわけじゃないしね」

 たっくんは呆気に取られた表情で私を見つめる。

「小夏……お前、強くなったな……。違うか、お前は前から強かったよな。俺を守るために、大人相手に必死で戦ってくれてたもんな」

「うん……だからもう、ああいう……内緒で会うとかキスとかは……嫌だ」

「分かった。小夏がそう言ってくれるなら、俺も腹をくくる」

ーー腹を括る?

「俺がケリをつけたら、今度こそ逃げるなよ? 」

 たっくんはガラステーブルに置いていたスマホを手に取るとアドレス帳を開き、誰かに電話を掛け始めた。
しおりを挟む
感想 264

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

受けさせたい兄と受けたくない妹(フリー台本)

ライト文芸
受験生になった妹がインフルエンザの予防接種を受けに行くことになったが

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...