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第2章 再会編
14、お前だって知ってるだろ?
しおりを挟むたっくんと並んで学校に行ったら、校門のところで前と同じ派手な女子の集団が待っていた。
「拓巳、昨日どうして電話に……えっ?! その目……カラコン? 」
その言葉で、彼女が昨日の電話の『紗良』さんなのだと気付いた。
スラッとした長い手足に少し吊り上がったキツい目元。明るい色のロングヘアーは毛先が緩く巻かれている。
私の表情が変わったのに気付いて、たっくんが顔をしかめてチッと舌打ちをする。
「ねえ、拓巳、聞いてるの?! その目はどうしたのよ! ちょっとってば! 」
彼女がそう言って腕に手をかけた途端、たっくんは乱暴にバッと振り払い、「触んじゃねえよ! 」と、キッと睨みつけた。
「電話にはワザと出なかった。もうお前らの番号は消去するしツルむのもやめる。俺、言ったよな、もう近寄るなって。分かったら話しかけんな」
低い声色で言い放つと、私の手首を掴んで大股で歩き出す。
「ちょ……ちょっと! 」
私は殆ど引っ張られるようにして、小走りで彼について行った。
異変に気付いたのは、玄関に入ってすぐ。
誰かの下駄箱に白い紙が貼られているなと思ったら、実はそれが私の所だった。
『アバズレ! 』
『ビッチ! 』
赤いマーカーでデカデカとそう書かれた紙が、テープで貼り付けられている。
「……んだよコレ! 」
たっくんが紙をベリッと剥がして下駄箱の扉を開けると、私の上履きにも赤いマーカーでXマークが書かれていて、中にはバナナの皮や噛み終わったガム、そして花壇の土が入れられていた。
靴からこぼれた土が、ロッカーの底にも落ちている。
「くっそ……あいつら! 」
「たっくん、やめて! 」
外に飛び出して行こうとするたっくんの腰にしがみついて、必死に止める。
「なんで止めんだよ! 」
「誰がやったかも分からないのに、怒鳴っちゃダメだよ! 」
「バカヤロウ! そんなのアイツらがやったに決まってんだろ! 怒鳴るどころか全員ぶん殴ってやる! 」
振り向いた顔は怒りに歪み、大きく見開かれたその目は血走っている。
それを見たときに、絶対にたっくんを行かせてはいけないと思った。
「ダメ! 絶対にダメ! 私は大丈夫だから! 」
「小夏、お前、自分が何をされたか分かってんのか?! こういうのはどんどんエスカレートしてくんだよ。 最初のちょっとを許すとな、物に当たってたのが人に向かって、平手打ちがそのうち拳に変わるんだ! お前だって知ってるだろ?! 」
ーーああ、たっくんは……。
皆川涼司 のことを言ってるんだ……と思った。
たっくんが彼から受けていた数々の暴力は、今も彼の心と身体に深く刻まれているんだ。
ーーだけどたっくん、たっくんはアイツとは違うんだよ。絶対に。
「たっくん! 私もたっくんもアイツじゃない! アイツと同じことをしたら、悪魔になっちゃうんだよ! 」
腰に回す腕に力を込めながらそう叫んだら、たっくんの身体から力がフッと抜けた……と同時に、その肩が震え出した。
「く……っそ……。アイツもアイツらも、みんなクソだっ……。またお前を守れなかった俺も……クソ野郎だ…… 」
腰に回している私の手に左手を重ね、右手で自分の顔を覆ったまま、たっくんは絶句した。
私とたっくんを後ろから見守っている千代美と清香。
そして、そんな4人を遠巻きにしながらザワつく生徒たち。
陽向高校の朝は、異様な雰囲気に包まれていた。
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