64 / 237
第2章 再会編
13、青と黒、どっちがいいの?
しおりを挟む『駅の改札を出たところ』
待ち合わせ場所が曖昧だったから、ちゃんと会えるか心配だったけれど、そんな心配は全くの無用だった。
私たちが駅の改札を通り抜ける前に、近くの柱のところに人垣が出来ているのが目に入ってきたから。
そして、その中心で、腕組みしながら柱にもたれているたっくんが見えたから。
「小夏……あなたの彼氏って、訪日したばかりの外タレだったっけ?」
清香が半分本気の口調で呟いた。
ーーあっ、言い忘れてた!
昨夜、千代美と清香に電話をして、心配をかけたことへの謝罪と、たっくんと付き合うことになったという報告をした。
2人はとても驚きながらも、6年ぶりに私の初恋が実った事を喜んでくれた。心配の言葉の方が多かったけれど。
今朝ここへ来る電車の中で、たっくんと駅で待ち合わせをしていると伝えたら、案の定たいそう驚かれてたいそう不安がられた。
そして……うっかりものの私は、今日からたっくんが青い瞳になっているということを伝え忘れていたのだった。
*
「青と黒、どっちがいいの? 」
昨日、アパートから駅まで私を送る道すがら、たっくんがそう聞いてきた。
「えっ、どういうこと? 」
「俺の目……小夏は青い方が好きなんだろ? 学校でも青い方がいい? 」
「そりゃあ、私はたっくんそのままの色の方がいいと思うけど…… 」
『こんなに綺麗な瞳を隠してしまうなんて勿体無い』
私がアパートでそう言ったから、たっくんは気にしたのかも知れない。
だけど、わざわざカラコンをしていたのには理由があるんだろうし、だったら私の好みで決めていいものではないだろう。
「私と2人でいる時は本当の姿でいて欲しいけれど、学校で隠してる方が都合がいいのなら、そうして。私の好みは二の次でいいよ」
「……いや、お前の好みが最優先だろ」
そんなイケメンなセリフを吐かれて、一瞬で顔面が茹で蛸のようになった。
「……じゃ、たっくんの好きな方で」
「そんじゃ、俺が好きな小夏が好きだって言う青で」
益々顔が赤くなり、完熟トマトになった。
*
「えっと……改めまして、こちらが長谷千代美さんと野田清香さん。 2人とも中学からの親友」
私たちが改札から出てきたのを目ざとく見つけ、たっくんが女子を掻き分け歩いて来たので、まずは親友2人を紹介することにした。
「それでこちらが、月島……じゃなくて……たっくん、今の苗字って何だったっけ? 」
「和倉。 2人とも、初めまして…… じゃないよな。昨日一緒にお昼を食べたばかりだし」
私がちゃんと紹介する前に、たっくんが親友2人に勝手に話し出した。
「ええ、お昼を食べる以前に校門でも会ってるわ。 あなたが女の子を侍らせてた時に居合わせて」
「侍らせてたんじゃなくて付き纏われてたんだけど」
いきなり清香とたっくんの間で静かに火花が散っている。
昨日電話でたっくんと付き合うことになったと報告した時、清香は声のトーンを少し落として言っていた。
『ごめんね、小夏。あなたがそれで幸せなのならいいと思うけれど、私はまだあの人が信用しきれないの。しばらく様子を見て、あの人が小夏に相応しくないと思ったら、速攻で反対するわよ』
だから今はまだ警戒中といったところなんだろう。
「まあまあ2人とも、せっかく小夏が初恋の人とカレカノになれたんだから、楽しくいこうよ。ほら、早く行かないと遅刻しちゃうよ! 」
千代美が必死に空気を和ませてくれたところで、4人で学校へ向かうことにした。
さあ行こうと一歩進み出たところで、私たちは駅の構内で沢山の生徒に遠巻きにされていたことに気付いた。
私や千代美たちは一瞬たじろいだけれど、たっくんはこういう事に慣れているのか、ポケットに片手を突っ込んだまま、真っ直ぐ突き進んでいく。
たっくんが一睨みしたところから人が後ずさりして、道がザザッと拓かれていく。
その真ん中を堂々と歩くたっくんと、少し前屈みになりながら、申し訳なさそうに付いていく私たち。
たっくんを先頭にギャラリーの輪に切り込みを入れるようにして、私たちは外に出た。
ーーたっくんと一緒にいるということは、こうやって注目されるって言うことなんだ……。
改めて考えたら背筋がゾワリとした。
高校生活の目標は『目立たず騒がず平穏に』……の筈だったのに……。
たっくんと付き合うと決めてから初日の登校は、嬉しいとかはしゃぐとかと言うよりも、不安や恐怖の方が心を占めていた。
ーーだけど、私はもう、たっくんと再会する前の私には戻れない。
ううん、もう戻りたくない。二度と離れたくないから……。
だから私は足を速めてたっくんの隣に追いつくと、背筋を伸ばして顔を上げて、前に向かって歩き出した。
1
お気に入りに追加
262
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる