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第2章 再会編
12、俺の彼女になる?
しおりを挟むマナーモードにされているらしいたっくんのスマホは、ガラス製のセンターテーブルの上で、低く唸りながら振動を続けている。
「電話……鳴ってるよ」
画面の表示をチラッと見たくせに、知らん顔をしているたっくんにそう言うと、「チッ」と舌打ちをしてから苦々しそうに、「知ってるよ」とだけ答えた。
スマホは一旦静かになり、数秒後にまた震えだす。再び『紗良』の表示。
たっくんは今度はすぐにスマホを手に取り電話を切って、続けざまに電源をオフにする。
「……いいの? 電話に出なくて」
「いいんだよ」
「ふ~ん……そう」
ーーあっ、なんだか拗ねてるっぽい言い方をしてしまった……。
今の私は彼女でもないのに、なんだか嫌だな……と自分で思っていたら、たっくんから見ても動揺しているのが丸わかりだったらしい。
「あのさ……違うから」
「えっ? 」
「今の……関係ないから」
「……ああ、別にいいよ。たっくんがモテるのはもう知ってるし」
ーーあっ、今のは嫌味っぽい。
さっきの教室での、川田さん達のやり取りを思い出す。
『和倉くんは特定の彼女は作らないでしょ』
『折原さんは、そういうタイプじゃないでしょ』
『折原さんは真面目っぽいもんね』
なんだか胸がモヤッとして、さっきまで暖かいもので満たされていた心が、急激に冷え込んでいく。
「あの……私、もう帰るね。お邪魔しました」
カバンを掴んで立ち上がろうとしたら、その腕をグイッと引っ張って戻された。
「ちょっと待てよ、だから違うって! 」
「私は別に…… 」
「俺はずっと小夏だけだから! 信じろよ! 」
腕を掴んだまま必死になって訴えるその表情は、真剣そのものだ。
だけど……。
「だったらなぜ、いつもあんな風に女の子たちに囲まれてるの? あの人たちはたっくんの何? 」
こんな言い方をしたら、たっくんはきっと、私がヤキモチを妬いていると思うだろう。
だけど仕方がない。だって私は実際、見知らぬ『紗良』さんにも、取り巻きの女子にも妬いているんだから。
ーーそうか……私、妬いてるんだ。
そう自覚した途端にどんどん顔が赤くなっていく。
狼狽る私を見て、たっくんがハッと目を見開いた。
「小夏……やっぱりお前、俺のことが好きなんじゃねえの? 」
「…………。」
「なあ、お前、俺のことが好きなんだろ? 」
もう観念するしかない。
私が黙って頷くと、たっくんはパアッと表情を明るくして、私の両肩をガシッと掴んだ。
「好きなの? 小夏が? 今の俺のことを? 」
私はますます赤くなりながら、もう一度コクコクと頷く。
「………ったあっ! よっしゃ! 」
ーーあっ、たっくんの笑顔だ……。
私が大好きだったひまわりの笑顔。
青空を写したビー玉のような瞳に、ひまわりのような輝く笑顔……。
「たっくん……好き…… 」
思わず口から溢れた言葉に、私もたっくんも驚いて、そして不思議な表情で見つめあった。
「小夏……俺のこと、好きって言った」
「……うん」
泣きそうな顔で何度も首を縦に振る。
だってあんな笑顔を見せられたら、もうたっくんにも自分の気持ちにも嘘をつくなんて出来やしない。
「小夏は俺のことを、好きになった」
「うん……好きになった」
ーーうん、好きになった。 ずっと……大好きだった。
「小夏…… 」
たっくんにそっと抱き寄せられて、私も背中に腕を回すと、ギュッと力を込めた。
「小夏……俺もお前のことが好き。ホント大好き…… 」
何度も何度も耳元で私の名を呟やかれて、身体中が甘い痺れで満たされていく。
ーーこれは2度目の初恋だ……。
たっくんのことが好きで好きで大好きで、この人のためならどうなってもいいと、愚かなほどに夢中になっていた幼い日の恋。
気になって気になって仕方がなくて、戸惑い恐れながらも、やはり近付かずにはいられない今の複雑な気持ち。
この感情を一言で言い表すのは難しいけれど、やっぱりこれも、『恋』なんだろうと思う。
幼い頃からたっくんのことが大好きだった私は、今また同じ人に恋をした。
だから結局のところ私は、彼にずっと恋をし続けていると言うことなんだろう……。
「小夏……俺の彼女になる? 」
甘く囁かれて、今度は迷わず頷いた。
「うん……たっくんの彼女になる…… 」
そっと身体を離されて、彼の黒い睫毛が伏せられた。
私も目を閉じたら、柔らかくて懐かしい彼の唇が触れた。
6年ぶりの口づけは、甘くて深いムスクの香りがした。
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