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第2章 再会編
9、今の俺じゃダメなの?
しおりを挟む「小夏……本当に……会えて良かった…… 」
いきなり抱き寄せられて動揺してるのに、そのうえ耳元で吐息まじりに囁かれて、全身が心臓になったかと思うくらい、ドクンドクンと脈打った。
「ちょっ……たっくん! 」
両手で押してみたけれど、その厚い胸は硬く、背中に回された腕は力強くて、ビクともしなかった。
「あの……ちょっと……話を…… 」
胸に顔を強く押し付けられて呼吸が苦しいなか、息も絶え絶えにそう言うと、ようやく腕の力が緩んで、顔を上に向ける余裕を与えられた。
「なに? 話って」
「あの……たっくんのこと、教えてくれるんだよね? 」
私がそう言った途端、彼はゆっくり1つ瞬きをして、私の瞳をじっと見つめた。
濡れたように黒くて長い睫毛がバサリと動く。
「小夏はさ、俺の何が知りたいの? 」
「えっと……あの日、どうしていなくなったのか……とか、今までどうしてたのか……。あっ、その目と髪の毛! どうして色が変わってるの? 何があったの? だから私、最初はたっくんだって分からなくて…… 」
そこまで言ったところで、またしても頭を胸に押し付けられて、何も見えなくなった。
「いいじゃん、そんなのどうだって。 小夏はさ、今の俺じゃダメなの? 俺は俺だし、関係ないだろ? 」
ーー関係ない?!
「関係なくないよ! 」
今度はドンと強く胸を突いて、その腕から逃れた。
「この6年、私がどんな想いでいたと思ってるの?! たっくんが急にいなくなって、私が平気だったと思う? もう二度と会えないって諦めて、でも諦めきれなくて…… 」
「小夏…… 」
たっくんが伸ばしてきた手を振り払って、6年分の怒りをぶつけるように、言葉を続ける。
「たっくんが一緒に滑り台に登ろうって言ったから……4年生で同じクラスになろうって言ってくれたから…… 」
また三つ編みをしてくれるって言った。
ずっと一緒にいてくれるって言った。
大好きだ……って、キスをした。
「私は別れの言葉も言えなくて、寂しくて辛くて、たっくんのことを憎んで呪って……なのに今頃、全然違う姿で現れて…… 」
「小夏……ごめん、ごめんな」
今度はゆっくりと片手で抱き寄せられて、たっくんの胸元に頬を寄せた。
溢れる涙が、たっくんの白いシャツの胸元に染みを作って拡がっていく。
そこにあるのはすっかり大人の身体で、あの日、病室で私を抱き締めてくれた華奢で薄い身体と細い腕はもうここには無くて……だけどこの人はたっくんで……。
そう思うとまた悲しくなって、涙が次から次へと溢れて、また白い布に染み込んでいく。
その間、たっくんは黙って私の髪を撫でてくれていた。
「小夏…… 」
ようやく感情の波が落ち着いてきた頃、たっくんが頭の上から名を呼んだ。
体を起こして見上げたら、たっくんの黒い瞳がじっと見つめていた。
「小夏……見てて」
「えっ? 」
そう言うと、たっくんはおもむろに両目に指を突っ込んで……目玉を取り出した。
……ように見えたけれど、その指に乗っていたのは黒いコンタクトレンズで……。
「あ……たっくん…だ」
私を見つめるその瞳が、青いビー玉に戻っていた。
今ようやく、私の大好きな空の色が帰って来た。
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