たっくんは疑問形 〜あなたと私の長い長い恋のお話〜

田沢みん

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第2章 再会編

5、あいつらがいなかったらいいの?

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「えっ……あの……っ!」

 焦る私を尻目に、たっくんは大きな声で言い放った。

「冷たいんだな~、小夏は! この前は俺の胸に顔をうずめて喜びの涙を流したのに!」

「ちょ……ちょっと! 」

 この人は公衆の面前めんぜんでなんて事を言うんだ!
 しかもコレ、わざと大声で言ってるに違いない。

「あの……誤解されるような言い方をしないで欲しいんですが……」
「えっ? 俺、嘘はついてないよな」

「嘘じゃないけど!合ってるけど!いや……っていうか、言い方! 」
「それじゃあ、敬語をやめてくれる? 」

ーーええ~っ!

 再び周囲を見渡すと、沢山の興味津々な視線が遠巻きに突き刺さって来た。

「ちょっ……あまり親しげにされると…」

 途端にたっくんの表情が険しくなる。

「親しくしちゃ駄目なのかよ。お前、俺のことをどう思ってんの?」
「だから、そういう言い方は誤解されるので……」

「敬語!やめろよ!」

 いたたまれなくて、慌ててコクコクと頷いた。

「分かりましたからっ!」
「はあ? 分かりました?」

「……分かった!分かったから!」

 たっくんは「よろしい」と言ってようやく笑顔を見せると、スマホのアドレス帳を開いて、私のメアドと電話番号を登録した。
 そしてすぐさま私に電話を掛けてきて、「それ俺の番号だから。いつでも電話して」とウインクして見せる。

ーーはぁ? ウインクって……。

 やっぱりこの人は、たっくんだけど、たっくんじゃない……と、なんだかガッカリする。

「そんじゃ、行こうか」

 私がまた頭の中でいろいろ考えていたら、たっくんが私のカバンをヒョイっと取り上げて先に歩き出した。

「えっ、ちょっと! 」
「なに? 」

「そういう事をされると困ります! 」
「言葉遣い! 」
「えっと……困る! 」

「カバンを持つとなんで困るの? 」

 私は返事をする代わりに、校門の方をチラッと見た。
 校門のところにいる集団が、さっきから腕組みしながらこちらをすっごい目つきでにらんでいる。

ーーうわっ、目を合わせたら石にされそう……。

 私の視線を追って、たっくんはフンと鼻を鳴らす。

「ああ……アレか。気にするな。アイツらは同中だった奴とか、前に同中にいた先輩とかだ」
「えっ、先輩も?! 」

 と言うことは、あの中には2年生や3年生もいるのか……どうりで大人っぽいはずだ。
 っていうか、そんな年上の人達とも付き合いがあるんだ……。

 なんだか地味にショック。ますます彼が、私の中のたっくんぞうとかけ離れていく。


「あの……私、目立ちたくないし、てきも作りたくないんです。平和な学校生活のため、私には学校で話しかけないでもらえますか? 話は今度ゆっくり改めて…… 」

 たっくんに手を差し出して、カバンを返すよううながした。

 たっくんはあからさまに不機嫌な顔をしてチッと舌打ちすると、私にズイッと近寄って、高いところから見下ろしてきた。

「じゃあさ、あいつらがいなかったらいいの? 」
「えっ? 」

「……分かったよ」

 たっくんはカバンを持ったままクルッと背を向けて、門に向かって歩き出した。

「えっ、ちょっと!カバン! 」

 私のカバンを右手で肩に乗せたまま、大股でグングン歩いて行く。
 そして門の前まで来ると、女子の集団に向かって言い放った。

「お前ら、もう俺に近寄るな、じゃあな。……小夏、行くぞ」
「えっ……ええっ?!ちょっと、たっくん!」

 先にスタスタ歩き出したたっくんの後を追い掛けながら、射るような視線を背中にいくつも感じていた。

ーー怖くて振り返れない!



 たっくんはB組の教室の前でようやくカバンを返すと、「それじゃ、また後でな」と言って自分の教室に入っていった。

ーー後でな……って、また後で会いに来る気? 
学校で話し掛けないで……って言ったの聞いてなかったの?!

 唖然あぜんとして廊下に立ち尽くしていたら、ようやく追いついた千代美ちよみ清香きよかが、たっくんのいるA組の方を振り返りながら微妙びみょうな表情をした。

「ビックリしたね……さっきのアレ。『お前ら、もう俺に近寄るな』…… って、先輩もいるのに、あんなハッキリ言っちゃうんだ」

「小夏がいなくなった後、凄かったのよ。門のところでみんな騒然そうぜんとしちゃって。 『あの子は拓巳たくみの何なの? 』とか言っちゃってて怖かったから、追求される前に千代美と小走りで逃げてきたの」

「2人とも、巻き込んでごめん…… 」

 3人で溜息ためいきをつきながら教室に入ったら、いきなり空気がザワついた。
 つい先程起こったばかりの出来事が、もうクラスでもうわさになっているらしい。

 平穏へいおんなはずの高校生活が早々に掻き乱されて、その原因であるたっくんを腹立たしく思った。

 次から次に予想外のことが起こって混乱中の私にも、唯一分かっていることがある。
 私の平和な学校生活は、これで完全に失われたに違いない。
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