16 / 237
第1章 幼馴染編
15、俺にやらせてくんない?
しおりを挟む「小夏、なんで今日は三つ編みにしてなかったの? 」
たっくんがプリントに文字を書く手を止めて顔を上げた。
小学校に入学後2日目。
今日は担任の先生からの宿題で、『わたしについて』というプリントを書かなくてはいけなかったので、たっくんの家のダイニングテーブルで向かい合いながら、プリントの空欄を埋めているところだった。
プリントには、好きな色とか好きな食べ物など、8項目の質問が並んでいる。
字が難しくて書けなければ、シールやイラストでもいいと先生が言ったけど、私は覚えたばかりのひらがなとカタカナを駆使してちゃんと仕上げるつもりだ。
小1は帰宅が早い。
母は仕事があるので、帰宅は大抵5時半過ぎか6時頃になる。当然、私が家に着く午後3時頃には家にいない。
そこで私を学童に預けようという話が出たときに、穂華さんが言った。
「だったら拓巳と一緒にうちにいればいいじゃない」
穂華さんの仕事は夜の7時半からなので、子供たちの帰宅時間には家にいる。
私は学校が終わると自宅ではなくて、たっくんの家に帰ることになった。
その代わり、穂華さんが早めに出勤しなくてはいけない時や、週末お出掛けしたい時にはたっくんを我が家で預かって一緒にご飯を食べる。
お互い母子家庭ということで保育園時代から何かと助け合ってきたけれど、これからはルールを決めて、約束事として、それを毎日実行することになったのだ。
「えっ、何故って…… 」
必死でプリントとにらめっこしていた私は、突然斜め上から飛んできた髪型の質問に、一瞬答えに詰まった。
少しでもたっくんに釣り合うように、見栄えを良くしようとしたんです……だなんて、そんなの正直に言えるはずがない。
だって私は聞いてしまったのだ。
今日のお昼休み、トイレで樹里ちゃんと結衣ちゃんが話していたのを。
『やっぱり拓巳くんカッコいいね』
『うん、めちゃくちゃカッコいいよね! 』
『私、一緒のクラスになれて良かった~ 』
『うん、同じ登校班の結芽ちゃんが、いいなぁ~って羨ましがってた』
『私たち、ラッキーだね』
『うん、でも小夏ちゃんの方がもっとラッキーだよ』
『あっ、そうだよね』
『小夏ちゃんは全然可愛くないのに、お隣さんっていうだけで拓巳くんが優しくしてくれるし、登校班だって一緒なんだよ。おさげとかしててダサいのに』
『うん、ダサいよね。メガネだし』
『そうだよね、あの子ブスだよね』
『うん、ブスだよね』
『絶対に私たちの方が可愛いよね」
『ね~~っ』
2人がそう言いながらクスクス笑っていたのを聞いて、正直、かなりのショックだった。
そりゃあ私だって自分が絶世の美女だとは思ってないし、アイドルみたいに可愛いとも思ってない。
就学児検診で斜視と診断されてメガネもかけ始めたから、ダサメガネというのも本当だ。
だけど、それほど酷いとも思っていなかったので、ブスブス連呼されるとハートにヒビが入る。
だから私は決意したのだ。
もう少し努力して、ちょっとでもマシな女の子になろうと。
だってブスでダサいままじゃ、一緒にいるたっくんにも恥ずかしい思いをさせてしまう……。
だからその日は母に頼んでポニーテールにしてもらったのだけど、たっくんのムッとした表情を見ると、どうやら気に入らなかったらしい。
やはり何をしようが、ブスはブスということなのか……。
「お母さんにやってもらったんだけど…… 変かな? ごめんね」
「別に変じゃないけど…… なんで謝るの? 」
「えっ? 」
「小夏はすぐ謝る。悪くなくても謝るの、なんか腹が立つ」
「ごめん…… 」
「ほら、また」
「あっ、ごめ……本当だ……ごめん」
ちょっとでもマシになろうとしたら、逆に腹を立てられた。更にズンと落ち込む。
なんだか泣いちゃいそうだ。
瞼がヒクヒクしてきてマズイと思い、必死で意識をプリントに戻す。
ーー えっと……『わたしのともだち』……たっくん。
ーー 『わたしのすきなもの』……たっくん。
ーー 『すきなあそび』……たっくんと砂遊び。
あっ、ダメだ、本当に泣きそう……。
その時、たっくんが隣の椅子に移ってきて、私のプリントを覗き込んだ。
「なんだ、俺のと一緒じゃん」
「えっ? 」
「ほら…… 」
半泣きのブサイクな顔でたっくんのプリントを覗き込んだら、先生の質問の隣に、片っ端からおさげ髪の女の子の絵が書いてあって、その下に『こなつ』と書いてあった。
「……これ、私? 」
「うん、上手く書けてるだろ? 」
「……ヘヘッ、下手くそだ」
「えっ、マジ?! 」
「……マジ」
たっくんはハハッと笑いながら、私のポニーテールの先をツンツンと引っ張った。
「小夏……小夏はこの頭も可愛いけどさ、悪くないけどさ……俺はやっぱり、いつもの三つ編みの方が小夏って感じで好きだ」
「……それじゃ、明日から元に戻す」
「うん、そうして」
たっくんが思案顔をしてからパッと表情を輝かせる。
「…… なあ、小夏、俺がやってみてもいい? 」
「えっ? 」
「俺が小夏の髪の毛、三つ編みにしてやる。俺にやらせてくんない? 俺、絶対に上手いと思う」
「……いいけど…… 」
私が戸惑いながらもゴムを取って髪をほどくと、たっくんは物珍しいオモチャでも見るように瞳を輝かせて、私の髪を指で梳き始める。
「サラサラだな」
「そう? 三つ編みにする前に、ちゃんとブラシで梳かなきゃダメなんだよ」
「そうなの? 」
「うん、お母さんがそう言ってた」
「そっか……ちょっと待ってて」
たっくんは和室で誰かと電話していた穂華さんの所に行って、ヘアブラシを借りてきた。
「これでいいのかな? ……で、どうするの? 」
「えっ、私も知らないよ。いつもお母さんがやってくれるから」
「え~~っ、ダメじゃん! 」
「たっくんも全然出来ないじゃん、ダメじゃん! 」
「……ごめん」
たっくんと私は顔を見合わせて大笑いした。
なんだかさっきまで泣きそうになっていた自分が馬鹿みたいだ。
たっくんの友達は私で、たっくんが好きなものも私で、たっくんは私と公園で砂遊びするのが好きで……そして、私のおさげ髪を気に入っている。
ーーうん、もうそれで十分。
それからたっくんは穂華さんに三つ編みの仕方を教えてもらって猛練習したみたいで、翌朝から登校前にうちに押し掛けて、私の髪をおさげに仕上げるのが日課になった。
最初はゆるくて不揃いで不恰好だった三つ編みは、1週間もしないうちに、きっちりセンターで分けた見事なおさげ髪に仕上がるようになった。
0
お気に入りに追加
262
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる