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54、マジメ御曹司と結婚することになりマシタ!

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 11月半ばの週末。
 澄み切った青空の下、緑溢れるホテルの中庭で、透とヨーコの挙式披露宴が行われた。

 出席者は両家の身内と親友、数名の会社関係者のみ。
 こじんまりと、だけど暖かい雰囲気に満ち溢れたパーティーだ。


 マンハッタンから車で1時間ほど北上した閑静な街、タリータウン。
 ハドソン川に面した森の中の高台に、その古城は建っている。

 約120年前に建てられたスコットランド調の古城は、元は将軍の邸宅として実際に使用されていたものだ。
 2回に渡る改築を経て、約20年前に日本人オーナーの元でホテルとして生まれ変わると、非日常を体験出来るラグジュアリーホテルとして一躍有名になった。

 10エーカーの広大な敷地に、石造りの堅牢な古城ホテルと美しいガーデン。
 屋外プールに5つ星レストランやスパも備わっている。


「うん、海外挙式に参加するのは初めてだが、こういうのもなかなか良いもんだな」

 中庭のベンチに腰掛けて古城を見上げながら、定治がしみじみと呟いた。

「うん、そうだろ? このお城の事を知った時に、絶対ここにしよう!って決めたんだ。なっ?」

 透が自慢げに胸を張り、隣のヨーコを優しく見つめる。

「ハイ、歴史ある場所で皆さんから祝っていただけて、感無量デス!」

「本当に素敵だわ。まるでおとぎ話の世界みたいね。ヨーコさんもお姫様みたいで本当に綺麗」

 雛子がウットリと見つめているのは、有名なイギリスブランドのカラードレス。

 胸元のレースにはビーディングがふんだんに施されており、そこから続くシャンパンゴールドのグラデーションチュールが、豪華で上品な美しさを醸し出している。
 挙式の時はトレーンの長いAラインのウエディングドレスだったけれど、披露宴に合わせて着替えている。
 
「お腹が目立つ前だったので、普通のドレスが着れたのデス。こんなに早く、しかもニューヨークでの挙式を許可して下さったカイチョーさんやお義父様に感謝デス」

「黒瀬家の大事な後継ぎが出来たんだ。安定期前の妊婦を飛行機に乗せる前にはいかんだろう」

 定治の言葉に皆が頷く。

 ヨーコは現在妊娠8週の妊婦だ。
 10月に入ってしばらくしてから妊娠が発覚し、それからは黒瀬家とホワイト家、そして会社も巻き込んで「おめでたい」の大合唱。
 すぐに「入籍だ」、「結婚式だ」、「業務の軽減だ」と大騒ぎとなった。

 一番の問題となったのは結婚式と披露宴についてだが、「別にしなくても構わない」と言ったのはヨーコ本人のみで、周囲の全員がそれに異を唱えた。

 特に強く結婚式を望んだのが透だった。

『花嫁衣装を着れるのは一生に一度だけなんだよ! ヨーコをお姫様にしてやれないなんて俺が許せない!』

 それでは2人で教会に行きヒッソリと挙式を……となった時に、定治の鶴の一声が出た。

『いや、我々がそちらに出向こう。身内だけでいいからお祝い出来る場所をお前たちで決めておけ。金はいくらかかっても構わん。好きなようにやれ』

 それでもう決まりだった。

 妊娠したからこそ実現出来た事だった。
 日本で披露宴をするとなると、会社や家のしがらみで、本人達に関係ない顔触れが招待客リストにズラリと並ぶ。

 花を飾る位置や席次、挨拶の順番に至るまで、細かいことに気を使わなくてはならず、当日ギリギリまで気が抜けない。

 自分たちが選んだ場所で、自分たちの大切な人達に囲まれてのパーティーは、アットホームで距離が近く、思い出深いものとなった。


「こういうのもいいよなぁ~、俺たちの時は年寄りの挨拶が長くて面倒だった」

「あら、私は沢山の方に祝福していただいて嬉しかったわよ。だって朝哉のお嫁さんだって認めてもらえた瞬間ですもの」

 朝哉の愚痴に雛子がサラリと釘を刺すと、途端に朝哉がフニャリと表情を崩して「ヒナ~、大好きだ~!」と抱き付いている。

「十人十色で良いのですヨ。どんな形であれ、本人達がシアワセだって思えれば、それで良いのデス。ねっ、トオル?」

「うん……俺、めちゃくちゃ幸せ」

 嫁にデレデレの息子達に苦笑しつつ、琴子と時宗夫妻も顔を見合わせて笑みを浮かべる。

「次はいよいよタケの番かな……」

 朝哉の言葉に皆が一斉に竹千代に注目した。

「いえ、俺は赤城さんのような優秀な右腕になるのが目標なので……」

「赤城を尊敬するのはいいが、未婚なところまで真似する必要は無いんだぞ」

 定治の言葉に竹千代が「参ったな……」と頭を掻くと、皆が笑って和やかな空気に包まれた。

「皆さん、写真を撮りますよ~!」

 日本から同行して来た社内報のカメラマンが、カメラを向けた。

「はい、皆様、カメラのココを見て下さいね。ハイ、チーズ!」

 カシャッ!



 その夜は、日本から来た黒瀬家や友人一同も古城のホテルに宿泊した。
 透とヨーコは一番広いスイートルームに入り、漸く一息ついた。

「今日は疲れただろう。お腹の調子はどう?」
「大丈夫デスヨ。まだほとんど自覚症状が無いデスシ」

 生理が来なかった時点で心当たりがあったので、すぐに妊娠検査薬を買ってきて調べてみた。
 陽性反応が出たので透と一緒に産婦人科を受診して妊娠が確定したのだけれど、今のところツワリも無いし、あるとすれば多少胸が張るくらい。

 体調も悪く無いので、仕事も普通に出来ている。
 本人よりも周囲の方が身体を何かと気遣ってくれていて、逆に申し訳ないくらいだ。

 
 アンティーク調のソファーにヨーコが腰掛けると、隣に座った透がお腹に手を当ててそっと撫でる。

「俺たちの赤ちゃんがここにいるんだな……」
「そうですヨ。トオルと私の愛の結晶ですヨ」

「幸せって際限が無いな。ヨーコと出会えて、両想いになって結ばれて……それだけでも奇跡みたいだって思ってたのに……なんだか怖いくらいだ」


 全く怒涛の3ヶ月弱だった。
 8月末にニューヨークに来て、透と再会して、好きだと言われて。

 身体から始まった関係だと思っていたら、まさかの1年越しの恋心を告白され、本当に結ばれて。

 身分違いで後ろ向きになりがちなヨーコを、透がしっかり捕まえていてくれた。
 日本に連れ去られた透を今度はヨーコが追い掛けた。

 周囲に認められ、婚約者となり、望んで出来た命を自分のお腹に宿して……とうとう今日、愛する人の花嫁となった。

 急流に流されるような激しい勢いの中で、それでもお互いを想う気持ちだけは一貫して変わらなかった。
 だからこそ得られた、この穏やかな時間。
 全てが奇跡だと思えるのだ。


「怖いことなんて、一つも無いデスヨ」

 透の手の上に自分の手を重ね、ニッコリと微笑む。

「トオルが私を愛して、私がトオルを愛して。私たちが子供を愛して、子供が私たちに愛をくれる。シアワセしかありません」

「うん、そうだな……幸せだ」

 潤んだ瞳が近付いて、優しくそっと唇が触れた。

ーーハイ、とってもシアワセデス。


 この8ヶ月後に可愛い男の子が生まれることも、透が開発した新型カテーテルが特許を取り、その後それがグローバルスタンダードとなる事も、もう少し先のお話。





Fin


*・゜゚・*:.。..。.:* .。.:・**・゜゚・*:. .。.:*・゜゚・*

『マジメ御曹司を腐の沼に引き摺り込んだつもりが恋に堕ちていました 』
これにて完結です。

『あしながおじさまは元婚約者でした』の透とヨーコを主役としたスピンオフ。
当初は雛子とヨーコを身内にしてあげたい!という作者の願望から生まれたカップリングでしたが、描いているうちに、やはりこの2人は結ばれるべくして結ばれたんだな……と思えるようになっていました。

腐女子要素が思ったより出せなかったのが心残りですが(BLを知らない読者様がドン引きしないレベルに留めたので)、可愛いヨーコを堪能出来たので満足しています。

本編はこれにて完結となりましたが、また機会があれば、新婚中や出産時のエピソード、特許を取った時のお話などを、番外編で追加出来たらいいな……と思っております。

あっ、最終話に出て来た古城ホテルは実在するのですヨ!
もしも機会がありましたら泊まりに行ってみて下さいネ!


コ◯ナ禍でのステイホームから、通学、出勤再開でのバタバタと、皆様も毎日忙しくしてらっしゃる事と思います。

この作品が、慌ただしい日々の息抜きに、多少でもお役に立てていたら幸いです。

最後に、沢山の作品の中から本作を見つけて下さり、どうもありがとうございました。

また次回作でもお会い出来ることを祈って。

2020年8月末

田沢みん
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