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32、CEOとの対決デス
しおりを挟む「ヨーコの気が変わらないうちに話を進めないとね」
片目を瞑ってニカッと口角を上げながら、透が通話をスピーカーに切り換えた。
電話の相手は透の『父さん』。
それは即ち黒瀬時宗氏、クインパスグループのトップでCEOで……。
ーーこっ……怖すぎる…。
会話の内容を聞きたいような、聞きたくないような……。
だけど数回の呼び出し音の後、スピーカーから低くて凄みのある声が聞こえて来た。
『私だ……午後4時8分。就業時間内に私用電話とは、感心せんな……急用か?』
「申し訳ありません。私事でしたので、会社ではなくこちらに掛けさせていただきました。ですが、お忙しいのでしたら改めて掛け直します」
『いや……今は移動の車内だ。話せ』
親子なのに畏まった口調。
社内でならそれも頷けるけど、私用の電話でもこれなんて……。
不安そうに見守っていると、透はニコッと微笑みかけて、シーツに置かれていたヨーコの手を、上からギュッと握りしめて来た。
「大丈夫」というように頷いてから口を開く。
「……結婚したい相手が出来ました」
ゴクリと唾を飲み込んだのは、ヨーコも透も同時だった。
『相手は?』
「ヨーコ・オダ・ホワイトさん、28歳。クインパスニューヨーク支社の秘書課課長。以前は朝哉の秘書を務めていた」
『ヨーコ・ホワイト……知っているよ。朝哉についていた時に会社で会っているし、朝哉の結婚式の時には受付をしてくれていたな。美しく、聡明でしっかりした女性だ』
「そう、そうなんだよ! しっかりしていて思い遣りのある素敵な女性なんだ!」
握る手にグッと力が籠もった。
『いつからの付き合いだ。朝哉の秘書をしていた時か? 』
「ニューヨークに来てからです。 以前から顔見知りではありましたが、朝哉の家のパーティーで再会して付き合い始めて、俺からプロポーズしました」
『寝たのか』
ビクッ……とスマホを持つ手が跳ねた。
透が一瞬だけヨーコを見て、すぐに視線を前に戻す。
「それはお父さんに関係ないでしょう」
『私に関係なくても、黒瀬家と会社の未来には大いに関係がある。……もう寝たのか』
「……はい」
しばしの沈黙の後……
『………話にならんな』
「父さん!」
透の声を遮って、時宗は淡々とした口調で語る。
『お前にはちゃんと話しておいたはずだがな、何も学んでいなかったか』
ちょっとした不注意が後継者問題の火種になるから言動には気を付けろ。
親友、恋人、その他の人間関係においても、付き合う相手を選べ。
恋人を作るのは構わないが、相手を厳選しろ。別れる時には遺恨を残すな。手切れ金は十分な額を用意して、誓約書にサインさせろ。
揉めそうであれば会長秘書の赤城を頼れ。
結婚するまで子供を作るな。愛人を妊娠させるな。遺産相続で揉める元を作るな。
『あれだけ散々言っておいたにも関わらず、社内の人間に手を出していたとはな』
「父さん!」
『ニューヨークに単身赴任では人恋しくなるのも理解出来る。だが、そんな一時の感情に流されて安易に身体の関係を持つとは、軽率以外に言いようがない』
大きな溜息が聞こえて、カッと顔が熱くなる。
ーーそれは私が愛人だっていう意味デスカ?!
「父さん!俺はヨーコと結婚するって言ってるんだ。 失礼な言い方は慎んでくれ!」
『慎むのはお前の方だ。本城のお嬢さんは、どうする』
「それは……」
透から聞いている。
本城茜、23歳。
関東地方を中心にいくつもの病院を経営している本城グループの御息女。
本城グループは外科医をしている兄が継ぐことになっていて、茜本人は大学卒業後、家事手伝いの傍ら、父親の病院に時々顔を出して、秘書のような仕事をしているらしい。
つまり、たまの出社で給料はちゃっかりいただいているという役員待遇というわけだ。
『あちらはお前がニューヨークから帰ってからの仕切り直しでいいと仰って、待って下さっているんだぞ』
「そんなのはそっちが勝手に決めただけだろ!」
『お前が、今はニューヨークでの仕事に精進したい。それ以外のことは考えられない……と言うから先延ばしにしただけの事だ。 なのにお前はニューヨークに着任して早々……』
透がグッと言葉を詰まらせる。
時宗の言葉選びは乱暴だけど、言っている内容は間違ってはいないのだ。
透はクインパスグループの御曹司で長男で。
彼の配偶者問題は、黒瀬とクインパスに関わって来る重要なことで。
本城茜とのお見合い話は継続中で。
なのに透は、ニューヨークであっという間にヨーコと身体の関係を持ってしまった。
大人同士の交際は自由なはずだ。 だけど『クインパスの御曹司』の『結婚問題』に於いては、それが当て嵌まらないということなんだろう。
ヨーコが項垂れていると、透がヨーコの肩を抱き寄せた。彼の指がグッと腕に埋まる。
「父さん、お願いだ……。俺は今まで誰かと揉めたり、意見を闘わせる事を避けて生きて来た。だけど今回ばかりは……父さん相手だろうと、クインパスグループを敵に回すことになろうと……一歩も引く気は無いよ」
「トオル?!」
透は優しく微笑み、ヨーコに頷いて見せる。
「俺たちの結婚を認めて下さい。……いや、認めてもらえなくてもいい。俺はヨーコと別れる気はありませんから。黒瀬の家を出る事になっても、俺は自分の意志を貫き通すよ。ヨーコの素晴らしさを理解せずに頭ごなしに反対するトップがいる会社なんて、どのみち先が無い」
『透……お前、そこまで言い切ったか……』
「ああ、これが本当の俺だよ。気持ちを我慢する必要なんて無いって、彼女が教えてくれたんだ! 」
沈黙が続いた後で、またもや大きな溜息が聞こえて来た。
CEOは心底ご立腹のようだ。
『……電話じゃ話にならんな。時差で会話がズレるのが煩わしい』
「そんなの、どうだっていいよ」
『いや、問題だな』
時宗は一つ深く息を吸い……
『よし、透、日本に帰って来い』
低いバリトンボイスで言い放った。
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