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27、君に出逢えて良かった (1) side透
しおりを挟む2つ下の弟が羨ましかった。
社交的で行動的で、いつの間にか人の輪の中心にいる。
がむしゃらになっているようには見えないのに大抵のことは器用にこなしてしまい、そのくせ興味が無くなれば周囲に期待されていながらアッサリ辞めて次のことを始める。
『全くこいつはしょうがないな』と言いながら笑って許されてしまうのは、何をさせてもそれなりに成功するだろうと、周囲も分かっていたからだろう。
それでも幼い時には俺の後ろを必死で追い掛けて来ていた。
俺が読む本を読み、俺が聞く音楽を聴く。何でも俺の真似をしたがった。
俺は漫画や小説を読むよりも、図鑑や辞典を読む方が好きだった。
空想のフィクションの世界ではなく、実在するものについて詳しく知るのが楽しかった。
動物や植物の生態、乗り物の種類や構造。
この世界の仕組みはいくら知ってもキリが無い。
調べれば調べるほど面白くなって、新しい知識を得ることに夢中になった。
両親は仕事や人脈作りに忙しく、会社が休みの日でも殆ど家にいる事は無かった。
代わりに俺たち兄弟の世話をしてくれていたのは家政婦や秘書で、俺たちが退屈そうにしていると、たまに動物園や水族館に連れて行ってくれた。
「朝哉、コウテイペンギンはマイナス40度の南極で子育てするんだぞ。メスは卵を産むと夫に預けてエサを探しに行き、卵を預かったオスは3か月近くも断食しながら温め続けるんだ」
「へぇ~っ、ペンギンのオス、凄いな」
「クリオネは、『流氷の天使』なんて呼ばれてるけどな、食事の時は頭の部分がパカッと開いて、6本の触手で獲物を捕らえて養分をチューチュー吸って消化するんだぜ」
「ゲゲッ、クリオネめっちゃヤバイ奴じゃん。誰だよ、天使とか名付けたヤツ」
俺の話に目を輝かせて相槌を打ち、次は何を聞かせてくれるのかと続きを促して来る弟が可愛くて、自分が凄く偉くなれたような気がして……。
俺自身も朝哉に話をするのが楽しくて、新しい知識を得るたびに朝哉の驚く顔を思い浮かべて、我知らず微笑んでいた。
それを苦痛に感じるようになったのは、いつからだったか……。
朝哉が俺の背を追い抜いて。
俺のあとをついて歩くだけの少年じゃ無くなって。
両親や祖父の朝哉への躾が厳しくなって来た時に気付いてしまった。
『ああ、父さん達は朝哉を選んだんだな……』と。
自分勝手な話だと思う。
俺はクインパスグループを継ぎたくなんかなかった。
注目されるのは好きじゃないし人前でのスピーチも苦手だ。
会社のトップに立って全方位に気を遣いながら生きていくなんて、とてもじゃないけど出来そうにない。
『朝哉、クインパスはお前が継いだ方がいいよ。俺はお前のサポート役でいい』
『えっ、嫌だよ。トップは兄さんに決まってるだろ。俺が兄さんの右腕になって支えるよ』
だけどな、朝哉。俺には分かっているんだ。
俺はその器じゃない。お前には敵わない。
俺は一つの事にじっくり向き合う仕事がしたい。コンピューターに向かって計算したり設計している方が面白いんだ。
会社は朝哉が継げばいい。
そう思っていながら、いざその気配を感じると寂しく感じた。
まるで自分が切り捨てられたように感じて、卑屈な負の感情を持ってしまった。
ーーそうか……やっぱり父さん達は朝哉を認めてるんだな……。
それは徐々に徐々に、だけど確実に俺たちの関係を変えて行った。
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