マジメ御曹司を腐の沼に引き摺り込んだつもりが恋に堕ちていました

田沢みん

文字の大きさ
上 下
28 / 56

27、君に出逢えて良かった (1) side透

しおりを挟む
 
 2つ下の弟が羨ましかった。
 社交的で行動的で、いつの間にか人の輪の中心にいる。

 がむしゃらになっているようには見えないのに大抵のことは器用にこなしてしまい、そのくせ興味が無くなれば周囲に期待されていながらアッサリ辞めて次のことを始める。

『全くこいつはしょうがないな』と言いながら笑って許されてしまうのは、何をさせてもそれなりに成功するだろうと、周囲も分かっていたからだろう。

 
 それでも幼い時には俺の後ろを必死で追い掛けて来ていた。
 俺が読む本を読み、俺が聞く音楽を聴く。何でも俺の真似をしたがった。

 俺は漫画や小説を読むよりも、図鑑や辞典を読む方が好きだった。
 空想のフィクションの世界ではなく、実在するものについて詳しく知るのが楽しかった。

 動物や植物の生態、乗り物の種類や構造。
 この世界の仕組みはいくら知ってもキリが無い。
 調べれば調べるほど面白くなって、新しい知識を得ることに夢中になった。


 両親は仕事や人脈作りに忙しく、会社が休みの日でも殆ど家にいる事は無かった。
 代わりに俺たち兄弟の世話をしてくれていたのは家政婦や秘書で、俺たちが退屈そうにしていると、たまに動物園や水族館に連れて行ってくれた。


「朝哉、コウテイペンギンはマイナス40度の南極で子育てするんだぞ。メスは卵を産むと夫に預けてエサを探しに行き、卵を預かったオスは3か月近くも断食しながら温め続けるんだ」

「へぇ~っ、ペンギンのオス、凄いな」

「クリオネは、『流氷の天使』なんて呼ばれてるけどな、食事の時は頭の部分がパカッと開いて、6本の触手で獲物を捕らえて養分をチューチュー吸って消化するんだぜ」

「ゲゲッ、クリオネめっちゃヤバイ奴じゃん。誰だよ、天使とか名付けたヤツ」

 俺の話に目を輝かせて相槌を打ち、次は何を聞かせてくれるのかと続きを促して来る弟が可愛くて、自分が凄く偉くなれたような気がして……。

 俺自身も朝哉に話をするのが楽しくて、新しい知識を得るたびに朝哉の驚く顔を思い浮かべて、我知らず微笑んでいた。


 それを苦痛に感じるようになったのは、いつからだったか……。
 
 朝哉が俺の背を追い抜いて。
 俺のあとをついて歩くだけの少年じゃ無くなって。

 両親や祖父の朝哉への躾が厳しくなって来た時に気付いてしまった。

『ああ、父さん達は朝哉を選んだんだな……』と。


 自分勝手な話だと思う。
 俺はクインパスグループを継ぎたくなんかなかった。

 注目されるのは好きじゃないし人前でのスピーチも苦手だ。
 会社のトップに立って全方位に気を遣いながら生きていくなんて、とてもじゃないけど出来そうにない。

『朝哉、クインパスはお前が継いだ方がいいよ。俺はお前のサポート役でいい』

『えっ、嫌だよ。トップは兄さんに決まってるだろ。俺が兄さんの右腕になって支えるよ』

 だけどな、朝哉。俺には分かっているんだ。
 俺はその器じゃない。お前には敵わない。

 俺は一つの事にじっくり向き合う仕事がしたい。コンピューターに向かって計算したり設計している方が面白いんだ。

 会社は朝哉が継げばいい。


 そう思っていながら、いざその気配を感じると寂しく感じた。
 まるで自分が切り捨てられたように感じて、卑屈な負の感情を持ってしまった。

ーーそうか……やっぱり父さん達は朝哉を認めてるんだな……。

 それは徐々に徐々に、だけど確実に俺たちの関係を変えて行った。
しおりを挟む
感想 166

あなたにおすすめの小説

ヒヨクレンリ

なかゆんきなこ
恋愛
二十八歳独身。オタクで腐女子の峰岸千鶴はある日突然親にセッティングされた見合いで一人の男性と出会う。それが、イケメン眼鏡の和風男子・柏木正宗さん。なんでこんなリア充が見合なんか……!! 驚愕する千鶴だったが、とんとん拍子に話は進んで……。見合い結婚したオタク女と無口眼鏡男の、意外にらぶらぶな結婚生活の物語。サブタイトルは、お題サイト『TV』様(http://yadorigi1007.web.fc2.com/)のお題を使わせていただきました。※書籍掲載分を取り下げております。書籍版では(一部を除き)お題タイトルをサブタイトルとして使わせていただいております。その旨、お題サイト管理人様にはお許しをいただいております。※

御曹司の極上愛〜偶然と必然の出逢い〜

せいとも
恋愛
国内外に幅広く事業展開する城之内グループ。 取締役社長 城之内 仁 (30) じょうのうち じん 通称 JJ様 容姿端麗、冷静沈着、 JJ様の笑顔は氷の微笑と恐れられる。 × 城之内グループ子会社 城之内不動産 秘書課勤務 月野 真琴 (27) つきの まこと 一年前 父親が病気で急死、若くして社長に就任した仁。 同じ日に事故で両親を亡くした真琴。 一年後__ ふたりの運命の歯車が動き出す。 表紙イラストは、イラストAC様よりお借りしています。

偽物のご令嬢は本物の御曹司に懐かれています

玖羽 望月
恋愛
 役員秘書で根っからの委員長『千春』は、20年来の親友で社長令嬢『夏帆』に突然お見合いの替え玉を頼まれる。  しかも……「色々あって、簡単に断れないんだよね。とりあえず1回でさよならは無しで」なんて言われて渋々行ったお見合い。  そこに「氷の貴公子」と噂される無口なイケメン『倉木』が現れた。 「また会えますよね? 次はいつ会えますか? 会ってくれますよね?」  ちょっと待って! 突然子犬みたいにならないで!  ……って、子犬は狼にもなるんですか⁈ 安 千春(やす ちはる) 27歳  役員秘書をしている根っからの学級委員タイプ。恋愛経験がないわけではありません! ただちょっと最近ご無沙汰なだけ。  こんな軽いノリのラブコメです。Rシーンには*マークがついています。  初出はエブリスタ(2022.9.11〜10.22) ベリーズカフェにも転載しています。  番外編『酸いも甘いも』2023.2.11開始。

【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」 度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。 事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。 しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。 楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。 その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。 ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。 その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。 敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。 それから、3年が経ったある日。 日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。 「私は若佐先生の事を何も知らない」 このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。 ❄︎ ※他サイトにも掲載しています。

クリスマスに咲くバラ

篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。

初恋は溺愛で。〈一夜だけのはずが、遊び人を卒業して平凡な私と恋をするそうです〉

濘-NEI-
恋愛
友人の授かり婚により、ルームシェアを続けられなくなった香澄は、独りぼっちの寂しさを誤魔化すように一人で食事に行った店で、イケオジと出会って甘い一夜を過ごす。 一晩限りのオトナの夜が忘れならない中、従姉妹のツテで決まった引越し先に、再会するはずもない彼が居て、奇妙な同居が始まる予感! ◆Rシーンには※印 ヒーロー視点には⭐︎印をつけておきます ◎この作品はエブリスタさん、pixivさんでも公開しています

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

処理中です...