上 下
11 / 56

10、痛くても……イイのデスヨ

しおりを挟む

 ヨーコは小学生の頃から日本の漫画が大好きで、日本語版も英語版も各ジャンル読み漁ってきた。
 アメリカのヒーローもののコミックには興味が湧かないけれど、日本の漫画は何冊読んでも飽き足らない。

 アメリカの本屋に置いてある英訳版だけでは嫌だ。微妙にニュアンスが違ってしまう。
 日本語で内容を理解したいから、頑張って日本語の勉強をした。


 ヨーコがBLに目覚めたのは中2の冬休み。
 母親に連れられて、日本で1人暮らしをしている祖母の家に遊びに行った時のことだった。

 祖母から貰ったお年玉を持って本屋に行き、いつものように漫画を物色していた。
 普通の漫画のコーナーより少し奥まった一画に、カラフルなポップが飾られた、大きめの漫画のコーナーがドンとあった。

『あなたはこの尊さに歓喜する!』

『美人攻めと無自覚タラシ受けの攻防!』

『アナコンダサイズなんて、俺ぐらいしか引き受けてやれないだろ?……の威力!』

 聞いたことのない単語の羅列に興味を惹かれた。適当に1冊手に取りページを捲る。
 一瞬で引き込まれた。そこには性別を超えた美しい愛の形があった。感動した。

 すぐに2冊購入して持ち帰り、親には内緒でこっそり読んだ。夢中になった。



 初めて彼氏が出来たのは高1の時。中学校を卒業する時に同級生に告白されて付き合い始めた。
 高校に入って暫くしてBL好きをカムアウトしたらフラれた。

 それに懲りて、高2で出来た彼氏には、告白された時にBL好きを宣言した。
 それでもいいと言うので付き合うことになった。

 付き合って2週間程したある日、彼の家に招待されて遊びに行った。家族は出掛けていて留守だった。

 ベッドに腰掛けてお喋りしていたら突然押し倒されてキスされた。
 キスを許したら胸を揉まれて、ワンピースの下のショーツを下ろされた。

 彼のことは嫌いじゃなかったけれど、まだ気持ちがそこまで熟成されていなかったから、「ちょっと待って」と手を掴んで止めた。

 彼はいきなり怒り出して上に跨ってきた。
 頭の上で両手を押さえつけられ、片手でワンピースの裾を捲ると、自分の前をはだけて硬く勃ち上がったモノをグイグイ押し付けてきた。

「俺の彼女なんだろ。ヤラせろよ」

 いきなり突っ込もうとしてきたけれど、前戯も甘い空気も無いままのソコは全く濡れていなくて、入口をこじ開けようと押しつけられるけれど、全く入っていかなかった。
 やみくもに皮膚が引きられ押さえつけられ、不快感と痛みしかない。

「痛い! やめて!」

 思わず大声で叫んで突き飛ばしたら、彼氏はベッドの上で尻餅をついた体勢のまま、「チッ」と舌打ちして醒めた目で見つめてきた。

「なんだよ、エロ本好きだって言うから簡単にヤらせてくれると思ったのに、騙されたよ」

「エロ本なんかじゃない……」

「エロ本だろ。しかも野郎同士のセックスなんてアブノーマルにも程があるだろ。何を今更清純ぶってるんだよ」

 相手を平手打ちして部屋を飛び出した。それきり交際は終わったけれど、高校卒業まで、廊下ですれ違うたびにソイツとその友人にヘンタイだと陰口を叩かれた。

 アイツの前では絶対に泣かなかった。いつも平気な顔をして、毅然として見せた。

 家に帰り、自分の部屋に戻るとこっそり泣いた。襲われた時の痛みと恐怖と気持ち悪さに身体が震えた。

『私はヘンタイなんかじゃない。BL好きで何が悪い!』

『酷い……初めてなのに……こんなの嫌だ…』

『嫌だ……怖い……』

 夜中に怖い夢で目が覚めることもあった。色々な感情が湧き上がって苦しくなった。

 もう誰とも付き合いたくない……自分の人生に恋愛もセックスもいらない……そう思った。





「それから私はますますBLの世界にのめり込みマシタ。BLの世界の男子は清くて美しくて、私を襲ったりシマセンからネ」

 だから透に指を入れられて「痛い」と言ったのは、きっと朦朧とした意識の中で、あの時の記憶と混同していたせいだと思う……と教えてあげた。
 彼が自分のテクニック不足だと自信を無くしては可哀想だ。


 ベッドを背に、床に2人並んで黙り込む。

 透はしばらく茫然としてから俯いて……肩を震わせた。

「うっ……くそっ!」

「ええっ! 泣いているのデスカ?! こんな事で!」
「こんな事……なんて、言わないでくれよ……」

 顔を上げて眼鏡を外すと、腕でグイッと涙を拭う。
 目が合うと、クシャッと顔を歪ませた。

「やはり兄弟で似てるのデスネ。トモヤは普段はお澄ましさんですケド、ヒナコの事となると簡単に泣いちゃうんデスヨ」

「俺だって、泣くのはヨーコの事だけだ。それと……恋人同士の時間に俺以外の男の名前を呼ばないで。妬けるから」

「ふふっ、焼きもち妬きなところもトモヤと……」
「言うな」
「あっ……」

 唇を押し付けられ、口を閉じられた。
 だけどそれはすぐに離れ、透が気まずそうな顔をする。

「ごめん……男は気持ち悪いって言ってるのに……。俺、馬鹿野郎だな。もうしないから……ヨーコが嫌ならセックスなんて一生しなくても別に……」

「そんなの私がイヤですヨ」
「えっ?」

「私がトオルに触れたいのデス。もう我慢出来ません」

 目を見開いている透に抱きついてチュッとキスをした。


「言ったデショ。トオルは他の男とは違うのデス。特別なのデス。だから……ネッ、シマショ」
「……いいの? 俺、ヨーコを痛がらせないように出来るか……」

「大丈夫デスヨ。男子も女子も、初めては痛いものだと決まっているのデス。トオルとなら……痛くても……イイのデスヨ」

 首に腕を回したままニッコリと微笑んで見せたら、透の頬に朱がさして、三日月みたいにふんわり微笑んだ。

 目尻に小さなシワが寄る。
 ああ、やっぱりこの笑顔が好きだな……と思った。

 ギシッ……とスプリングを軋ませながら、2人同時にベッドによじ登った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

性欲の強すぎるヤクザに捕まった話

古亜
恋愛
中堅企業の普通のOL、沢木梢(さわきこずえ)はある日突然現れたチンピラ3人に、兄貴と呼ばれる人物のもとへ拉致されてしまう。 どうやら商売女と間違えられたらしく、人違いだと主張するも、兄貴とか呼ばれた男は聞く耳を持たない。 「美味しいピザをすぐデリバリーできるのに、わざわざコンビニのピザ風の惣菜パンを食べる人います?」 「たまには惣菜パンも悪くねぇ」 ……嘘でしょ。 2019/11/4 33話+2話で本編完結 2021/1/15 書籍出版されました 2021/1/22 続き頑張ります 半分くらいR18な話なので予告はしません。 強引な描写含むので苦手な方はブラウザバックしてください。だいたいタイトル通りな感じなので、少しでも思ってたのと違う、地雷と思ったら即回れ右でお願いします。 誤字脱字、文章わかりにくい等の指摘は有り難く受け取り修正しますが、思った通りじゃない生理的に無理といった内容については自衛に留め批判否定はご遠慮ください。泣きます。 当然の事ながら、この話はフィクションです。

イケメンエリート軍団の籠の中

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり 女子社員募集要項がネットを賑わした 1名の採用に300人以上が殺到する 松村舞衣(24歳) 友達につき合って応募しただけなのに 何故かその超難関を突破する 凪さん、映司さん、謙人さん、 トオルさん、ジャスティン イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々 でも、なんか、なんだか、息苦しい~~ イケメンエリート軍団の鳥かごの中に 私、飼われてしまったみたい… 「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる 他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

孕むまでオマエを離さない~孤独な御曹司の執着愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「絶対にキモチイイと言わせてやる」 私に多額の借金を背負わせ、彼氏がいなくなりました!? ヤバい取り立て屋から告げられた返済期限は一週間後。 少しでもどうにかならないかとキャバクラに体験入店したものの、ナンバーワンキャバ嬢の恨みを買い、騒ぎを起こしてしまいました……。 それだけでも絶望的なのに、私を庇ってきたのは弊社の御曹司で。 副業がバレてクビかと怯えていたら、借金の肩代わりに妊娠を強要されたんですが!? 跡取り身籠もり条件の愛のない関係のはずなのに、御曹司があまあまなのはなぜでしょう……? 坂下花音 さかしたかのん 28歳 不動産会社『マグネイトエステート』一般社員 真面目が服を着て歩いているような子 見た目も真面目そのもの 恋に関しては夢を見がちで、そのせいで男に騙された × 盛重海星 もりしげかいせい 32歳 不動産会社『マグネイトエステート』開発本部長で御曹司 長男だけどなにやら訳ありであまり跡取りとして望まれていない 人当たりがよくていい人 だけど本当は強引!?

性欲のない義父は、愛娘にだけ欲情する

如月あこ
恋愛
「新しい家族が増えるの」と母は言った。  八歳の有希は、母が再婚するものだと思い込んだ――けれど。  内縁の夫として一緒に暮らすことになった片瀬慎一郎は、母を二人目の「偽装結婚」の相手に選んだだけだった。  慎一郎を怒らせないように、母や兄弟は慎一郎にほとんど関わらない。有希だけが唯一、慎一郎の炊事や洗濯などの世話を妬き続けた。  そしてそれから十年以上が過ぎて、兄弟たちは就職を機に家を出て行ってしまった。  物語は、有希が二十歳の誕生日を迎えた日から始まる――。  有希は『いつ頃から、恋をしていたのだろう』と淡い恋心を胸に秘める。慎一郎は『有希は大人の女性になった。彼女はいずれ嫁いで、自分の傍からいなくなってしまうのだ』と知る。  二十五歳の歳の差、養父娘ラブストーリー。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

処理中です...