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7、コレがいわゆるセフレというやつデスカ?
しおりを挟む果たして透はその夜もヨーコのアパートにやって来た。
「本当に来たのデスカ?!」
驚いた声をあげてみたものの、ダイニングテーブルには2人分の食器が揃えて置いてあり、キッチンに置かれたオレンジ色の鍋からはカレーの匂いが漂っている。
既に7時半になっていたにも関わらず夕食を食べていない時点で、透が来る前提でいたのがバレバレだ。
「ヨーコさん、俺が来るのを待っていてくれたんですね……」
頬を紅潮させて抱きつこうとする透を制して1人キッチンに向かうと、
「べっ……別に待ってたわけじゃないデスヨ! ちょうど今から食べようと思っていたのデス」
鍋をかき混ぜてコンロの火を止めたところで、後ろからギュッと抱き締められた。
「ハハッ、ツンデレですね。大好きです」
ーーサラッと好きって言った!
「……トオルさんはカレーは好きデスカ?」
「大好物ですよ。カレーもヨーコさんも大好きです」
首筋に鼻を擦りつけながら甘えた声で言われると、腰が砕けそうになる。
トドメにうなじにチュッとキスを落として、
「手伝います」
何事もなかったかのように、大皿にご飯とカレーをよそってテーブルへと運ぶ。
ーーなんだか慣れている!
堅物なマジメ人間に見えていたけれど、実は案外経験豊富なのかも知れない。
何も知らないフリをしているだけで、本当はBLの事も知っていたんじゃないか?
お行儀よく両手を合わせて「いただきます」とスプーンを手にする姿をジッと観察する。
ーー見るからに育ちのいいお坊ちゃまという感じだけど……爽やかだし、甘いマスクだし、モテないはず無いデスヨネ……。
なんと言っても、あのクインパスグループの御曹司なのだ。放っておいても女性の方から寄って来るに決まっている。遊び放題、選び放題だ。
「んっ、凄く美味しいです! ヨーコさんは綺麗で仕事も出来るだけじゃなく、料理もお上手なんですね」
「肉と野菜を炒めてカレールーをぶっ込んだだけデスヨ」
「ぶっ込んだだけでも……ヨーコさんの手料理は美味しいです」
ニコニコしながらカレーを頬張る姿は少年みたいで好感が持てる。
だけど、これも彼の常套手段だとしたら……簡単に絆されるわけにはいかない。
「トオルさんは女慣れしてますネ。遊び人だったのデスカ?」
気になったことをそのままにしておくのは嫌なので、ストレートに聞いてみた。
「はぁ? 慣れてないし遊んでないですよ」
「それでは、女の子を食い散らかしてはいないのデスネ?」
「食い散らかす……って、有り得ないでしょう!」
「それじゃトオルさんは彼女はいないのデスカ?」
「は? 彼女って……ヨーコさんでしょ?」
「私?」
「……えっ?」
最後の質問では透が絶句した。しばし無言で見つめ合う。
「ちょっと待って……俺、この前プロポーズしましたよね?」
「えっ、本気じゃないデショ?」
「ヨーコさんは俺のこと何だと思ってるんですか。一晩共にした相手に冗談でプロポーズなんてしませんよ、本気ですよ」
ーーだけど、それって……。
「私の処女を奪った責任を取ると言うのなら、そんな必要ないデスヨ。私も大人の女性デスカラ、それしきで結婚を迫ったりはしないのデス」
「そんなんじゃない!」
透は勢いよくガタン!と立ち上がると、テーブルを回りこんですぐ横からヨーコを見下ろす。
「確かに俺は責任を取ると言ったけれど、それは結婚したいがための方便というか……」
体の関係があろうが無かろうがヨーコと付き合いたいと思っているし、キスするのも抱きしめるのも、気持ちがあってこそなのだ……と、熱く語る。
透は歯痒そうに自分の髪をクシャッと掴んで、大きな溜息を溢した。
「それじゃヨーコさんは……俺が本気じゃない相手を勢いで抱いて、責任感からプロポーズして、好きでもないのにこうしてアパートにも通っていると?」
「仰る通りデス」
コクコクと頷いたら、さっきよりもっと深くて長い溜息を吐かれた。
そして隣の椅子を引いて座り、膝を突き合わせるようにして向かい合う。
「俺、あなたに好きだって言いましたよね。そしてあなたも昨夜は自分からキスしてくれた。両想いになれたって思ってたのは俺だけだったんですか?」
本当に嬉しかったのに……と唇を噛むのを見ていたら、罪悪感が湧いてきた。
自分の言葉が酷く彼を傷つけてしまったのだ。
「トオルさん、あなたが本気で私を好きだと思ってくれているのは分かりマシタ。デスガ、プロポーズはお受け出来ませんヨ」
「どうしてですか!」
「クインパスの御曹司が庶民の私と結婚できるハズ無いでショウ。あなたはいずれ日本に帰ってどこかの御令嬢と結婚するのデス」
「俺は跡継ぎじゃないし関係ない! 付き合うのも結婚するのもヨーコさんがいいんだ!」
それでも朝哉を見てきたヨーコは、御曹司の結婚がどれだけ大変かを知っている。
白石メディカ御令嬢だった雛子でさえ、その後結婚に漕ぎ着けるまで紆余曲折があったのだ。
だから、今日ずっと考えていたことを思い切って口にしてみた。
「トオルさん、私はあなたと結婚することは出来ませんが、お付き合いなら出来マスヨ」
「えっ、それって……」
セフレって事なのか?……透が呻くように呟くのを聞いて、ああ、そうなのかな……と思った。
いずれ別れる前提の、未来のないお付き合い。
それはつまり、セフレと言い換えてもいい関係なのかも知れない。
たとえそこに恋愛感情があったとしても……。
ヨーコがコクリと頷くのを見て、透が瞳を潤ませながらヨーコに抱きついた。
「嫌だ! そんなの絶対にダメだ! だって俺は……俺はずっとあなたが好きで……」
「そんな大袈裟な。ほんの1日、2日前のことデスヨ」
「違うんだ!俺は一年前のあの日から!」
ヨーコにずっと恋してたんだ……。
切羽詰まった声が、耳元でそう言った。
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