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グングニル、墜つ
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“グングニルが落下を開始”
その一言は両軍の生きている回線を駆け巡った。
「なん…だと?」
ティーメ少将やケスラー准将らは最初、意味がわからなかった。
だが一つの事実を思い出す。
リーコン要塞主砲”グングニル”は浮遊砲台なのだ。
それでリーコンの衛星軌道上を周回して迎撃にあたる。
原因はおそらくというか確実に先程の電磁波攻撃によるものだろう。
「提督!グングニルの様子をリアルタイムで投影します!」
その映像はリーコン要塞付近に退避していた有志連合軍の艦艇の駆逐艦G-二十五が撮影したものだった。
移動用のスラスターが各所で破損したのか、徐々に落下を開始しているように見える。
そのスラスターの小爆発が原因か、軌道が狂い、しかもそれがリーコン星に押しつけられる形となった為落下を開始したのだろう。
「まずいぞ…」
ティーメ少将は顔面蒼白にならざるを得なかった。
リーコン要塞司令室内は混乱を極めていた。
電磁波攻撃による大小の頭痛や体調不良、嘔吐。落下を開始し始めた要塞主砲グングニル。
混乱するには十分すぎる情報量だった。
ちなみに要塞司令のメッゲンドルファー少将は幸い、体調不良も頭痛も、嘔吐も無かった。
傍らの幕僚は一人二人を除いて嘔吐しているが。
「これくらいで情けない…。おい!グングニルはあと何分で落ちてくる!」
周りの脆弱さに呆れつつ問いかけると司令室のモニターと数字の格闘を続けていたオペレーターの一人が体調不良の為か(体調的)瀕死状態で答えた。
「あと、うぷ…四十分ほどで落下、おぇ…します…」
「落着予想地点は?」
「…ここ、ですぉろろろろろろ」
オペレーターはたまらずその場で蹲って吐き出した。
「…ご苦労」
あちこち吐かれまくって司令室とは思えない惨状となってしまったがこれは最早やむなきことであるし、どうせここに落ちてくるなら司令室もろとも吹き飛ぶだろう。
「掃除する必要がなくなって良かったな」
そう司令室の端で嘔吐している少年兵の掃除当番に目を向ける。
すると参謀の一人がメッゲンドルファー少将に具申してきた。
「司令、脱出の準備を」
メッゲンドルファー少将はそんなこと言われんでもわかっとるというような顔で返事を返す。
「輸送船に人員、物資。艦船用資材を積めるだけ積め。工作船や医療船も全隻出せ。ここを脱出し、ミュンヘンへと向かうぞ」
「了解しました」
リーコン星にはベルリン、ハンブルク、ミュンヘンの三つの地区がある。
ベルリンは司令室を含んだ大型港。
ハンブルクは中型港。小型修理ドッグ。
ミュンヘンには大型兵器工廠と大型修理ドッグ、小型港。
もちろん各地区には最低限の施設はある。
が、このように分散させることで一撃で要塞が致命傷を負わないように設計されているのだ。
グングニルの落下の衝撃でベルリンは壊滅状態になると判断したメッゲンドルファー少将はミュンヘンに向かうことに決めた。
理由としては有志連合軍宇宙艦隊の補給は必須であることがあげられる。
なぜなら電磁波攻撃を放つゾラ星をそのままにする気は毛頭なかったからである。
そのためベルリンにある輸送船や工作船を全隻避難させるついでにミュンヘンで補給物資を満載し、次の攻撃の準備をさせるつもりであった。
「司令!脱出艦の準備が整いました。お乗り下さい」
「馬鹿。要塞の主がぬけぬけと離脱するわけにはいかん。最後に出る」
「しかし…」
「俺にそんなこと言う暇があったら脱出の指示をしてきたらどうだ。どうせ混雑しとるんだろう?」
「は…」
だろうなという顔になりながらメッゲンドルファー少将は要塞内通信のスイッチを押した。
「おい!早く乗れ!」
「押すな!押すなって!」
「どけぇ!邪魔だ!」
「騒ぐな貴様ら!落ち着いて行動せんか!」
「士官から先に乗せろ!!当然だろう!?」
「んだと!?ふざけんな爺!」
「誰が爺だ!」
「静かにしろ!」
ベルリンの港湾ゲート内は混乱の極みだった。
ごく一部の年寄り士官らが列に割り込んだり、少年兵たちが右往左往したり、物資の搬入で道が塞がれていたりしていた。
そんな中、要塞内通信が全員の鼓膜を打つ。
キィィィィィンという耳をつんざく音に皆が暴言を止め、近くのスピーカーに目を向ける。
ハウリングをわざと起こし、無理矢理注目させた。
「あー。ゴホン。リーコン要塞司令メッゲンドルファーだ。諸君、落ち着いて行動しろ。物資は重要だが人命に変えられるものではない。少年兵たちから輸送船に乗せろ。それから物資を通路の真ん中で押すな。人を先に通せ。人が減ればすぐに動かせるから待機せよ。最後に…おい、爺のアホ士官ども。監視カメラで全て見たぞ。列に割り込む輩は射殺を許可する。殺されたくなかったらさっさと後ろに並べ!!!」
一分ほどの発言だったが、混乱していた港湾ゲートはこれを機にどんどん混雑が解消されていった。
アホ士官どもと呼ばれた年寄りらは肩身が狭そうに輸送船の隅に乗って行った。
「さて、人員、物資搬入。輸送船、工作船の発進状況は?」
「はい。人員を乗せた輸送船は九十九パーセント発進しました。司令の輸送船のみ待機中です。物資はベルリンの在庫の七割を輸送船、工作船に載せております」
「物資はもういい。全隻発進せよ。それと落下まであと何分だ?」
「あと二十分です」
「よし。出るぞ」
メッゲンドルファー少将のこの巧みな事後処理、人員誘導は結果的に多数の人員を救った。
要塞兵士全てを脱出させ、物資を七割焼けるのを防いだ。
ベルリンは十月十三日午前二時十分に落下してきたグングニルによって完全破壊された。
その一言は両軍の生きている回線を駆け巡った。
「なん…だと?」
ティーメ少将やケスラー准将らは最初、意味がわからなかった。
だが一つの事実を思い出す。
リーコン要塞主砲”グングニル”は浮遊砲台なのだ。
それでリーコンの衛星軌道上を周回して迎撃にあたる。
原因はおそらくというか確実に先程の電磁波攻撃によるものだろう。
「提督!グングニルの様子をリアルタイムで投影します!」
その映像はリーコン要塞付近に退避していた有志連合軍の艦艇の駆逐艦G-二十五が撮影したものだった。
移動用のスラスターが各所で破損したのか、徐々に落下を開始しているように見える。
そのスラスターの小爆発が原因か、軌道が狂い、しかもそれがリーコン星に押しつけられる形となった為落下を開始したのだろう。
「まずいぞ…」
ティーメ少将は顔面蒼白にならざるを得なかった。
リーコン要塞司令室内は混乱を極めていた。
電磁波攻撃による大小の頭痛や体調不良、嘔吐。落下を開始し始めた要塞主砲グングニル。
混乱するには十分すぎる情報量だった。
ちなみに要塞司令のメッゲンドルファー少将は幸い、体調不良も頭痛も、嘔吐も無かった。
傍らの幕僚は一人二人を除いて嘔吐しているが。
「これくらいで情けない…。おい!グングニルはあと何分で落ちてくる!」
周りの脆弱さに呆れつつ問いかけると司令室のモニターと数字の格闘を続けていたオペレーターの一人が体調不良の為か(体調的)瀕死状態で答えた。
「あと、うぷ…四十分ほどで落下、おぇ…します…」
「落着予想地点は?」
「…ここ、ですぉろろろろろろ」
オペレーターはたまらずその場で蹲って吐き出した。
「…ご苦労」
あちこち吐かれまくって司令室とは思えない惨状となってしまったがこれは最早やむなきことであるし、どうせここに落ちてくるなら司令室もろとも吹き飛ぶだろう。
「掃除する必要がなくなって良かったな」
そう司令室の端で嘔吐している少年兵の掃除当番に目を向ける。
すると参謀の一人がメッゲンドルファー少将に具申してきた。
「司令、脱出の準備を」
メッゲンドルファー少将はそんなこと言われんでもわかっとるというような顔で返事を返す。
「輸送船に人員、物資。艦船用資材を積めるだけ積め。工作船や医療船も全隻出せ。ここを脱出し、ミュンヘンへと向かうぞ」
「了解しました」
リーコン星にはベルリン、ハンブルク、ミュンヘンの三つの地区がある。
ベルリンは司令室を含んだ大型港。
ハンブルクは中型港。小型修理ドッグ。
ミュンヘンには大型兵器工廠と大型修理ドッグ、小型港。
もちろん各地区には最低限の施設はある。
が、このように分散させることで一撃で要塞が致命傷を負わないように設計されているのだ。
グングニルの落下の衝撃でベルリンは壊滅状態になると判断したメッゲンドルファー少将はミュンヘンに向かうことに決めた。
理由としては有志連合軍宇宙艦隊の補給は必須であることがあげられる。
なぜなら電磁波攻撃を放つゾラ星をそのままにする気は毛頭なかったからである。
そのためベルリンにある輸送船や工作船を全隻避難させるついでにミュンヘンで補給物資を満載し、次の攻撃の準備をさせるつもりであった。
「司令!脱出艦の準備が整いました。お乗り下さい」
「馬鹿。要塞の主がぬけぬけと離脱するわけにはいかん。最後に出る」
「しかし…」
「俺にそんなこと言う暇があったら脱出の指示をしてきたらどうだ。どうせ混雑しとるんだろう?」
「は…」
だろうなという顔になりながらメッゲンドルファー少将は要塞内通信のスイッチを押した。
「おい!早く乗れ!」
「押すな!押すなって!」
「どけぇ!邪魔だ!」
「騒ぐな貴様ら!落ち着いて行動せんか!」
「士官から先に乗せろ!!当然だろう!?」
「んだと!?ふざけんな爺!」
「誰が爺だ!」
「静かにしろ!」
ベルリンの港湾ゲート内は混乱の極みだった。
ごく一部の年寄り士官らが列に割り込んだり、少年兵たちが右往左往したり、物資の搬入で道が塞がれていたりしていた。
そんな中、要塞内通信が全員の鼓膜を打つ。
キィィィィィンという耳をつんざく音に皆が暴言を止め、近くのスピーカーに目を向ける。
ハウリングをわざと起こし、無理矢理注目させた。
「あー。ゴホン。リーコン要塞司令メッゲンドルファーだ。諸君、落ち着いて行動しろ。物資は重要だが人命に変えられるものではない。少年兵たちから輸送船に乗せろ。それから物資を通路の真ん中で押すな。人を先に通せ。人が減ればすぐに動かせるから待機せよ。最後に…おい、爺のアホ士官ども。監視カメラで全て見たぞ。列に割り込む輩は射殺を許可する。殺されたくなかったらさっさと後ろに並べ!!!」
一分ほどの発言だったが、混乱していた港湾ゲートはこれを機にどんどん混雑が解消されていった。
アホ士官どもと呼ばれた年寄りらは肩身が狭そうに輸送船の隅に乗って行った。
「さて、人員、物資搬入。輸送船、工作船の発進状況は?」
「はい。人員を乗せた輸送船は九十九パーセント発進しました。司令の輸送船のみ待機中です。物資はベルリンの在庫の七割を輸送船、工作船に載せております」
「物資はもういい。全隻発進せよ。それと落下まであと何分だ?」
「あと二十分です」
「よし。出るぞ」
メッゲンドルファー少将のこの巧みな事後処理、人員誘導は結果的に多数の人員を救った。
要塞兵士全てを脱出させ、物資を七割焼けるのを防いだ。
ベルリンは十月十三日午前二時十分に落下してきたグングニルによって完全破壊された。
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