戦場立志伝

居眠り

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肉弾戦

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 クライバー大佐が大きくスペースバトルアックスを振りかざす。
避けれると一瞬思ったツヴァイク大佐だがスペースアックスを上に構え、防ぐ。
「…速いっ!」
「そぉおおい!!!」
一撃。
あまりの力強さに膝をついてしまった。
しかもスペースアックスに若干のヒビが入っている。
それを好機と見たクライバー大佐はスペースバトルアックスを右手のみにし、左手で腰からスペースナイフを取り出す。
ツヴァイク大佐の意識がヒビに向いているうちにというわけだ。
「させるかっ!」
だが片手になった隙をツヴァイク大佐は見事に突いた。
スペースバトルアックスの柄をスペースアックスの刃先で引っ掛け、思い切り引っ張る。
「うぉっ」
バランスを崩し、前によろめく姿を見た両軍装甲兵は歓喜の声と悲嘆の声を上げる。
しかしクライバー大佐はニヤリと笑う。
まだ左手にはスペースナイフがしっかり握られている。
「甘いな、小僧!」
スペースバトルアックスから右手を離し、よろめいた身体をその右手で床につきバランスを保つ。
そして前へ倒れる勢いを利用し、一気に左手のスペースナイフを突きつける。
「何っ!?」
回避も弾くことも不可能。
その刃はツヴァイク大佐の右脇腹を深々と貫いた。
「「「隊長!!!」」」
朱の装甲隊の隊員何名かが駆け寄ろうとした時、ツヴァイク大佐が叫んだ。
「来るなっ!!まだ、負けてない!!」
自身の右脇腹に刺さるスペースナイフを無視し、逆にクライバー大佐の左手首を掴んだ。
そして右回転し、投げ飛ばす。
「くぅお!?」
投げ飛ばされたクライバー大佐が立ち上がろうとした時、スペースバトルアックスを下げたツヴァイク大佐が見下ろしていた。
「意外と軽いな、これ」
そして肩に担ぎ、左肩目掛けて振り下ろした。
「…がはっ!!」
あまりの激痛に泣き叫んでもいいはずの重傷を負ったクライバー大佐だったが、血を吐くときに出た声しか漏らさなかった。
ツヴァイク大佐は深々と左肩に食い込んだスペースバトルアックスを引き抜いた。
血が止めどなく流れ出る。
どうやら左肩から心臓手前まで切り下げられたようだ。
「これは…もう助からんな…おい、小僧。…そのスペース、バトルアックス…ゾラ連合軍に、一本の業物だ。…出来れば…使ってくれ…」
ツヴァイク大佐は頷いたが、彼は既にヴァルハラへと旅立っていった。
装甲兵の鑑とも言うべき死に様だった。
「…痛っー…残ったのは貴様らだけだが…降伏するか?」
痛みに顔中汗まみれのツヴァイク大佐を見た敵装甲兵達は隊長が戦死したことで完全に士気が低下し武器を捨て、投降した。
それを確認したツヴァイク大佐は床に倒れ込んだ。
「ツヴァイク大佐!おい!衛生兵ー!」
慌てて部下達が駆け寄ってきた。
担架を持った衛生兵が手早く装甲服を脱がし、応急処置を施す。
その間アイスナー大佐は投降兵の武装解除、他の装甲兵の治療指揮に当たった。
するとドカドカと多人数が集まってくる音がした。
「おい!大丈夫か!?」
他艦から増援の装甲隊が到着したのだ。
しかし既に制圧された現場を見て、応援部隊は苦笑いするしかなかった。
「強すぎだろ…朱の装甲隊…」

十月十三日午前零時三十分に戦闘開始した肉弾戦は十分で終了した。
午前零時三十三分には突入隊壊滅の報を受けたマインツ大将は信じられない命令を出した。
「艦長、機関全力後進!ユランガルごとゾラ星に落とすぞ!」
「了解!」
錨が艦首に刺さっている為ユランガルも引っ張られる。
異変に気付いたシュムーデ准将が急いで副長に機関全力後進を指示する。
両艦綱引きを続けていたが徐々にユーフラテスが引き始める。
航空戦艦ユーフラテス級一番艦ユーフラテスは二番艦ユランガルに比べ、機関が少し高性能なのだ。
「…引き寄せられますっ!」
航海長が悲痛な声を上げると戦闘処理を応援の装甲隊に任せてきたアイスナー大佐が艦橋に姿を現した。
「おいっ!どーなってる!?」
「落ち着けアイスナー大佐。貴官は負傷者と全装甲隊、それと戦闘要員を率いて脱出しろ」
「シュムーデ准将はどーするんです?」
「私は事後処理をしたら退艦する。このままではゾラ星に落ちてしまうからな」
「わかりました。…お気をつけて、准将」
こう話してる間にもユランガルとユーフラテスはどんどん高度を下げ始めていた。

そして綱引きを開始して二十分。
両艦があまりにも密着している為両軍攻撃出来ずに見守るしかなかった。
その間ユランガルでは早急にデータの処理をしていた。
「艦内データ削除開始。旗艦専用データを副司令官の座乗艦へ移行開始」
「艦内、AブロックからFブロックの乗組員総員退艦。まだGからIブロックには装甲隊の一部が居ます。脱出艇に向かっているので問題なしかと」
「間も無く高度130万キロメートル!大気圏突入まであと10万キロメートル!」
オペレーターからの報告を受けたシュムーデ准将が脱出指示を出す。
「よし、我々も脱出する」
その時。
艦内を少し揺らす程度の衝撃が発生した。
「何事だ?」
「閣下、鎖が外れたようです!おそらく負荷に耐えかねたのかと」
ユーフラテスとユランガルは互いに離れだす。
「よし、ならばこのまま離脱する」
ユランガル側としてはユーフラテスが全く攻撃せずにこんな道連れ方法を取ろうとしたことに疑問を隠せなかった。
考えられる理由としては航空戦艦ほどの大型艦が撃沈すると周辺の僚艦に被害が及ぶことがある。
故ピーター・フォン・ブレーメン中将(元帥)の旗艦ユーゴスラビアと航空戦艦ユードレスの誘爆沈没などが良い例だろう。
それもありマインツ大将は友軍への配慮をしたのだろうか。
そうシュムーデ准将が考えていると再び衝撃が艦を震わす。
「閣下!ユーフラテスからの攻撃です!機関故障、航行不能です!」
「くそっ!そう簡単に逃げられんか…」
「高度125万キロメートル!もう脱出ギリギリです」
ユランガルはもう助からない。
脱出もそろそろ出来なくなる。
シュムーデ准将は総員退艦を告げた。
副長をはじめとした艦橋要員達は次々と装甲隊の一部が待つ脱出艇へと走る。
しかしシュムーデ准将は動かない。
「…?閣下?」
副長が気付いたがシュムーデ准将は笑って言った。
「先に行ってくれ。後から行く」
「…何か中将にお伝えすることは?」
「そうだな、閣下のようなお優しい上官を持てて幸せでした。とだけ言ってくれるか」
「わかりました。またいつか、ヴァルハラで会いましょう」
そう言って副長は艦橋から退出した。
シュムーデ准将と副長はマインツ大将のもとで戦ったことがあった。
ウィリバルトも優しく、優秀な軍人だったがシュムーデ准将が共に一番長く戦ったのがマインツ大将だったのだ。
おそらく准将は死にゆくマインツ大将の後を追うつもりなのだろう。

副長は脱出艇の中でユランガル、ユーフラテスに向けて敬礼した。

十月十三日午前一時。
大気圏に突入し、燃えさかるユランガル、ユーフラテスは同時に沈没した。
駆けつけたアルベルト、アンハルトら空戦隊は何も出来なかったことと愛した乗艦が沈むことに涙し、彼らもまた敬礼した。

いずれも歴戦の艦であった。
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