戦場立志伝

居眠り

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特攻

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 マインツ大将率いる第六航宙艦隊は旗艦ユーフラテスを先頭に突進を開始した。
それを捕捉した第七航宙艦隊はウィリバルトの指示のもと散開。
半包囲の態勢を整える。
直掩の空戦隊も次々と天頂方向や天底方向に移動し、突撃の合図を待つ。
「「アプシーセン!!!」」
両艦隊、射程圏に入った途端各司令官の指示により発砲を開始した。
「正面よりミサイル多数接近!算出不能!」
「慌てるな!フレア、迎撃ミサイル発射!」
ユランガル艦長、リュディガー大佐がオペレーターと緊密に連携を取り、ユランガルをはじめとする第七航宙艦隊は第六航宙艦隊が放った第一射に軽微な被害を与えられたのみだった。
しかしどうやら第六航宙艦隊は戦艦や重巡が数隻沈んだようでこちらより損害は多かった。
数が第七航宙艦隊に比べ少ないからだ。
しかし尚も突進を続けた。
「全艦隊、三方から火力を集中!目標は敵旗艦ユーフテラス!」
「ミサイル発射管、一番から八番順次発射!続けて主砲全門斉射三連!ってぇー!!」
リュディガー大佐の完璧な指揮は周りの艦艇よりも一歩先んじた攻撃を可能にする。
僚艦、敵艦よりも早く攻撃し、またもや敵戦艦のシールドが負荷に耐えきれず貫通。
艦橋を吹き飛ばし、主砲を破壊。
極めつけには艦首から艦中央部までビームが貫通。
その戦艦は出力を維持したまま突進し続け、爆散した。
旗艦ユーフテラスも二発ミサイルが命中。
シールドの薄いところに当たり、艦内で炸裂する。
ユーフテラスは左舷から黒煙を上げている。
「よし!」
ウィリバルトの副官トーマ・フォン・アイスナー大佐が思わずガッツポーズをとる。
今まで空戦隊が戦場の主役だった為、純粋な対艦戦闘を行えなかった鬱憤をこれで晴らしたようだ。
もちろん他の戦場では対艦戦闘がひっきりなしに起こっていたが。

「戦艦三隻撃沈されました!」
「駆逐艦G-二十二、三十五と連絡が取れません!」
「隔壁閉鎖!ダメージコントロール!」
「副砲二基、沈黙!」
「左舷ミサイル発射不能!」
旗艦ユーフテラスはたった二発のミサイルで左舷側の副砲二基が破壊され、左舷ミサイル発射管が誘爆を阻止するために発射不能となってしまった。
「閣下!左舷…」
「まだエンジンは生きてるな!」
「はっ、はい!」
マインツ大将の突然の問いに思わず艦長は驚くがすぐに答える。
「なら主砲、副砲、ミサイル、対空火器に回すエネルギーをカット!艦首から中央部までシールド最大展開!敵旗艦ユランガルに突撃せよ!」
「りょ、了解しました!」
艦橋をはじめ、艦内は非常電源に切り替わり機関が作り出すエネルギーはほぼ全てシールドに回される。
するとビームやミサイルを面白いぐらいに弾きだす。
実弾のミサイルはシールドが放つ電磁波により目標を見失い、フラフラと何処かへ飛んでいく。
「よし、進路このまま!Attacke‼︎」
猛進を続けるユーフテラスに更に過剰とも言える攻撃が叩きつけられる。
がそれをも乗り越えてくるその姿にユランガルの艦橋要員は動揺した。
何故なら進路上にユランガルがいるからだ。
「取舵一杯!仰角五十度!回避ー!」
急速接近するユーフテラスを回避しようとリュディガー大佐が命令するが間に合わない。
物凄い衝撃がユーフテラス、ユランガル両艦を襲う。
そしてユーフテラスの艦首から錨が発射され無理矢理接続された。
更にユーフテラスの艦首には装甲兵が集まっていた…。

「閣下、閣下!ご無事ですか…?」
参謀長のシュムーデ准将が傍らに倒れてきたアイスナー大佐を起こしながらウィリバルトの姿を探す。
すると床に突っ伏しているウィリバルトを見つけたが背筋に冷たい汗が流れた。
ピクリとも動かないのだ。
「閣下!閣下ぁ!おい、アイスナー大佐!手を貸せ!」
アイスナー大佐より二つ歳上であり、上官でもあるシュムーデ准将が珍しく怒鳴り声を上げて走り出す。
アイスナー大佐も急いで立ち上がり、ウィリバルトのもとへ駆け寄る。
ウィリバルトはスペーススーツを完全着用していたが必ずしも体を守ってくれるわけでは無い。
そう、特に頭などは。
ヘルメットを外すと血がボタボタと垂れ落ちる。
「軍医を呼べ!早く!」
シュムーデ准将が叫ぶと同時にヘルメット付属の通信機から軍医を大声で呼び出すアイスナー大佐。
大慌てで艦橋にある救急セットを取りに行くオペレーター。
しかし大怪我を負ったのはウィリバルトだけではなかった。
「艦長!艦長!しっかりして下さい!艦長ー!!」
「落ち着け…大丈夫だ…」
艦橋最上部にある司令官席の下。
艦長席ではリュディガー大佐がぐったりしていた。
意識があり、なおかつ返答は出来るものの艦の指揮が出来ないことは一目瞭然だった。
副長がリュディガー大佐の肩を持ち、担架を抱えてきた衛生兵に手伝ってもらいながら乗せる。
ウィリバルトは頭に応急処置として包帯が巻かれリュディガー大佐と共に急いで医務室に運ばれて行った。
ユランガルの艦橋要員で怪我をしてなかった者はいなかった。
ただ特に大怪我をした二人を除けばほとんど打撲程度だった。
あの二人は運が悪かったとしか言いようがない。
だがそんなことを言っている暇はなかった。
艦橋内を警報音が鳴り響く。
「参謀長!侵入者です!」
「何!?」
艦内の至る所に設置されている監視カメラから艦橋のモニターへ分厚い装甲に身を固めた装甲兵が映し出されている。
彼らはまっすぐ艦橋を目指しているようだ。
しかし艦長リュディガー大佐と司令官ウィリバルトは今いない。
誰が艦の指揮と防衛指揮を執るか一瞬艦橋要員達が困惑したその時。
「俺が防衛指揮を執ろう」
「…なら私は艦隊指揮権を預かる」
アイスナー大佐がスペーススーツから装甲服に着替え始め、シュムーデ准将が艦長席の近くに立つ。
「近くの僚艦から装甲隊を呼べ」
「艦内に待機している装甲隊に告ぐ。総員戦闘配置!艦内に侵入した敵装甲隊を蹴散らすぞ!」
二人は迷うことなく最善と思う事を下令した。
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